抄録
人間皮膚の色素異常は大別して過剰色素沈着と色素脱失の2群に分けられる.皮膚の着色は,要之色素の生産と処理消却との差引残高と看做し得べきものであるが,色素異常に於ては生産の異常がその主因をなし色素処理の異常は幾分かの役割を果すに過ぎないと看做し得よう.色素形成細胞としては表皮及び毛母のメラノサイトの他に,異常な場合蒙古人細胞,色素母斑細胞,青色母斑細胞が存し,多少の異論はあるが之等はすべてneural crest起原のものとして今日理解されつゝある趨勢にある.色素処理は主として表皮マルピギー系列の細胞内に於ける脱色,並びに後者の角化剥離に依つて行われるが,真皮擔色細胞も亦関係があるとされている.夙にBiedermann(1898),次でFurth(1901)はチロジナーゼを証明,動物界のメラニンは総てチロジナーゼの作用でチロジンを出発点として生産されるものと考えられたが,正常に色素を有する哺乳類の組織に於けるチロジナーゼの活性を示し得たものはなかつた.そしてBlochがドーパ酸化酵素を証明して以来,ドーパ反應の陽性に現われる高等動物のメラニン形成は下等