日本皮膚科学会雑誌
Online ISSN : 1346-8146
Print ISSN : 0021-499X
ISSN-L : 0021-499X
自家感作性皮膚炎の研究
姉小路 公久
著者情報
ジャーナル 認証あり

1958 年 68 巻 11 号 p. 818-

詳細
抄録

湿疹の臨床病像は多種,多様,極めて複雑な感があるが,その1つの場合として比較的限局した湿疹病巣が膏薬又は掻破の刺戟に依り,或は何等原因なくして一見自発性に急に増悪,拡大すると,それに伴つて比較的遠隔の部位に突発的に播種状に小発疹の出現することがある.この種現象は固より以前からも知られていたが,比較的近年のことこれを呼ぶに,その発生病理を幾分説明する名称として,英米学派の自家感作性皮膚炎Autosensitization dermatitis或は自家湿疹化Autoeczematization,ドイツ学派の細菌疹Mikrobidが使用されるようになつた.先ず自家感作性皮膚炎であるが,自家感作Autosensitizationなる語は皮膚が生体自身の組織蛋白分解産物に感作される事を意味し,Whitfield,A.(1921)がこの語を初めて皮膚科に導入した時,彼は臨床的に3つの臨床例―それは同時に3つの病型となるものを記載している.即ち第1型.若い女性,クリケツトの球で■骨を強く打ち血腫を作つたが皮表は破損しなかつた.10日間何事もなかつたが,のち突然と麻疹様,紅斑蕁麻疹様の発疹が汎発した.Whitfieldはこの全身性の発疹は皮下出血部の破壊組織の吸収と関係があると考えた.第2型.中年の男.非化膿性の湿疹様皮膚炎が足にあり,既に適当な治療で略々治癒しかゝつていたが,入浴後タオルで摩擦すれば循環が良くなり早く癒ると考えてそうした所,局部が腫脹,出血し,湿潤さえした.11日後に全身に発疹,個疹は粟粒大出血性丘疹で,毛孔は蕁麻疹様に隆起し,瘙を伴つていた.第3型.足に水疱性湿疹のある中年の男子.水疱が破れて分泌物が流れ出ると,数分後その部に線状の紅斑,10分以内に蕁麻疹,次いで小水疱が発生した.Whitfieldはこの水疱内容を無菌的に採取し,自分の前膊に滴下したが何ら症状を呈さなかつたので,この患者だけが自身の組織産物に感受性があるのだと考えた.以上の観察が自家感作の発端であるが,Whitfieldは更に1926年,上記第2型に属せしむべき症例として,下腿の静脈瘤性湿疹の治療が不適当で局所が刺戟された時に,頚部及び上肢に丘疹,小水疱性湿疹が現われたが,原発巣の治癒するにつれ他の発疹は無処理のまゝ軽快するのを観察した.其の後暫くこの種の観察は余り注目されなかつたが,1935年に至りIngram,はWhitfieldのこのAutosensitizationに言及し,患者は自身の分泌物に特異的に感作されており,若し分泌物が皮膚の表面を流れるならば,発疹を起す外的誘因となり,若し血流に吸収されゝば,遠隔部位に発疹を誘発するであろうと述べ,且つWhitfieldの第3型に該当する症例を示した.其の説明にAutosensitization―linear eczema of arm,a sensitization reaction to a trickle of serum from weeping eczema of axillaとある.Whitfieldの第1型に該当するものとしては1936年Bizzozeroの自家血液の注射後に丘疹と膨疹を発生した報告例あり,Whitfieldの第2型に該当するものは1945年Smithが“Eczema autolytica”なる表題で精しく記載している.そしてその後はAutosensitizationと云えば専らこの第2型のものを指すことになり,第1,第3型に就ては関心が薄らいだものの如くである.そこでSmithの記載であるが慢性皮膚炎又は下腿の静脈瘤性湿疹が不適当な治療によつて増悪すると,その部から遠く隔つた身体の諸部位に急性に小水疱の散在する病変が発生する.病変は小さい紅斑を以て始まり,速かに丘疹,小水疱に変ずる.小水疱の発生は斯種病変の特徴であり,発生部位は前膊屈側を最初の夫れとすることが多く,次で顔面,頚部,躯幹に略々対称性に病変を生じ,自覚的には灼熱感,瘙,食慾不振,精神的不快又は苦悩,不眠等を訴える.

著者関連情報
© 1958 日本皮膚科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top