日本皮膚科学会雑誌
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瘙の研究(皮膚の炎症に基く瘙の機序と人工痒感の機序との異同について)
山本 淸利
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1959 年 69 巻 1 号 p. 1-

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抄録

教室の中島が日皮会誌68巻,173頁に詳述せる如く,湿疹や皮膚炎のような皮膚の炎症にともなう瘙は刺激にたいして興奮性の亢進せる神経線維(疼痛神経),厳密にいうと末梢神経要素が病巣の内外から刺激される場合に惹起されるものと考えている.それではヒスタミン皮内注射に基く痒感の如き人工痒感と炎症に基く痒感はその発生機序においてどのような違いがあるであろうか.この点を明らかにすることは炎症に基く瘙の発生機序についての理解を容易ならしめる上にきわめて必要なことと考えている.ちなみに過日奥野教授がRothman教授と瘙の問題について意見を交わしたさい,Rothman教授は人工痒感の機序も皮膚の炎症にともなう瘙の機序も本質的には同一であると考えられるゆえ,両者の瘙の機序は全く同様に説明してさしつかえないと述べたそうである.しかるにつぎのような事実をどのように考えたらよいであろうか.たとえばヒスタミン皮内注射に基くような人工痒感の場合は注射後ただちに膨疹の部位に知覚鈍麻が認められるが,炎症部位には知覚過敏は認められても知覚鈍麻は一般には認められない.このように両者の当該部位の知覚は全く反対である.すなわち当該部位の刺激にたいする反応態度は逆である.このことが瘙の発生にどのような影響を与えるであろうか.もし著明な影響がみられるならば炎症に基く瘙の機序とヒスタミン皮内注射に基くような人工痒感の機序を全く同様に説明するのは妥当ではないという結論が生まれるように思われる.以上の点にとくに重点をおいて本論文は求められたものであることを付記しておく.

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© 1959 日本皮膚科学会
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