日本皮膚科学会雑誌
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母斑及び悪性黒色腫に就いての自分の考え
H.Th. Schreus
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1962 年 72 巻 2 号 p. 109-

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抄録

母斑及び悪性黒色腫に関する極めて多数の文献について綜説することは略して,自分が3年来展開して来た新しい見解について主として述べたい.70年前Unnaが滴落説を唱えたか,この説は其後批判もされまた改変もされたが,根本的にはMasson学説の中にも生きて居る. Massonは母斑組織深層にある細胞がSchwann細胞に由来することを発見,母斑組織は表皮基底層に由来するメラノサイトと真皮のSchwann細胞との両方から構成されるものと考えて居る. 自分は,滴落過程の猶お痕跡的に過ぎないであろう乳児期に於て皮膚剥削術を行うことに依って,母斑を確実に治療することを期待した.然し乍ら期待に反して再発を見た.此の再発は母斑組織の深部にあるSchwann細胞に由来するメラノサイトに依るものと考えられる.猶お此のような治療の結果悪性変化か生ずることはないが,時にjuvenile melanoma様の組織像を見ることがある. 自分は悪性黒色腫を新らしい観点に立って考察することを試みて居る.即ち悪性黒色腫は,その病理解剖的,臨床的並びに生物学的の諸性状に於て,悪性腫瘍の常と異るものがあるから、「悪性黒色腫は転移性を有する母斑である.その悪性度は身体の防衛因子に依って規定されるものであって黒色腫細胞に依って規定されるものではない」と考えたい.此の防衛因子を実験的に確証する方法にっいては遺憾乍ら述べられないか,半年以内に死亡すると思われるような軽移を有する悪性黒色腫患者に、抗黒色腫因子を含有するであろう所の正常人の血液を少量反覆輸血することによって,その生命を延長し得たと信ずべき例のあることを報告したい.

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© 1962 日本皮膚科学会
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