前おきとして述べたいことは,本編の標題はInsensible Perspirationであつて,これは「不感蒸泄」と譯されているが,この譯語が皮膚科学界では常用されていないとのことであるので,標題の如き表現を用いた.しかし本文中には不感蒸泄の語を用いる.人体の水分放散のうちで,呼吸器と皮膚とから放散されるものをPerspiration(蒸泄)という.しばしばこれに代えてExtra-renal Water Eliminationという語が用いられているが,これは字義としては,涙,腸から出る水分,乳汁,月経などをも含むこととなり,不適当な悪語である.もし他の表現を用いるとすればPulmocutaneousというべきである.学者によつてはPerspirationを皮膚からの水分放散に限り,呼吸からのそれを含めたものをWater Lossとするが,この区別は必要と思われない.蒸泄のうち呼吸器からのそれは普通気温の場合は感覚にのぼらず,高気温となれば発汗として意識される.故に呼吸器の蒸泄と皮膚の発汗以外の蒸泄とを不感蒸泄という.