日本皮膚科学会雑誌
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所謂皮膚混合腫瘍,ならびにその所謂唾液腺混合腫瘍との関連について
増田 勉池田 重雄
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1965 年 75 巻 1 号 p. 1-

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抄録

前世紀中葉以来,上皮性の腫瘍細胞巣と間葉性の粘液腫様ないし軟骨様組織が混在する奇妙な腫瘍が,耳下腺を主とした唾液腺に発生することか知られ,その特異的組織像のゆえに,唾液腺混合腫瘍と呼ばれた.その後,同様の腫瘍か皮膚,涙腺にも発生することか知られ,唾液腺型の混合腫瘍として,それぞれ皮膚混合腫瘍,涙腺混合腫瘍と呼ばれた.これら興味ある特異的組織像をもつ腫瘍の発生病理は,長年病理学者の論争の的であつたが,現在ではそれぞれ唾液腺,汗腺,涙腺の腺上皮より発生する.異型腺腫であるとする考えにほぼ一致している.ただこれら腫瘍の特徴である,粘液腫様ないし軟骨様組織の発生機序に関してはなお諸説があり,上皮性或いは間葉性とする考えか対立しているか,いずれにしても,それらの像は二次的な修飾像にすぎないと考えられている.厳密にいつて,混合腫瘍とは2種類以上の胚葉に由来する組織成分が,ともに腫瘍性性格を示す腫瘍であり,この概念に概当する腫瘍としては,卵巣, 睾丸等に好発する奇形腫(teratoma)がその代表的典型である.正確な本質的呼稱からすれば,上述の一群の腫瘍を混合腫瘍と呼ぶことは誤りであり,唾液腺混合腫瘍が多形性腺腫(pleomorphic adenoma)と改稱されつつあるように,皮膚混合腫瘍も多形性汗腺腺腫(pleomorphic hidradeno-ma)とでも呼んだ方がよいはずである.しかし,これらの腫瘍に共通する特徴的組織像と,文献史になじみ深い普遍的名稱のゆえに,“所謂”の名を冠して,混合腫瘍の名稱を保存することは一応許されるだろう.それゆえに,本稿でもこれら腫瘍を所謂混合腫瘍と呼ぶこととする.所謂皮膚混合腫瘍は,1891年Nasseが始めて,35才,男の鼻側皮膚に発生した症例を報告して以来,現在まで文献に記載された症例は300例を越えるにすぎず,比較的稀な腫瘍といえる.しかし,報告例の少ないのは,本腫瘍が比較的稀であることとともに,臨床的に特徴のないため,臨床医か簡単に粉瘤等と誤診して切除し,病理検査を等閑にする傾向のあること,さらに,病理学者も皮膚における本腫瘍を所謂唾液腺型混合腫瘍として,はるかに多い所謂唾液腺混合腫瘍と一括して取扱い,皮膚におけるものを独立のentityとして関心をもつことが少なかつたことも関係あるだろう.次に著者らの最近経験した,所謂皮膚混合腫瘍3例並びに参考として所謂唾液腺混合腫瘍3例(上,下口唇粘膜の小唾液腺及び耳下腺の各1例)を報告するとともに,文献の概要,臨床所見,組織所見を記述し,あわせて組織学的及び組織化学的検索により,粘液腫様ないし軟骨様組織の発生機序をいささかでも明らかにしたい.著者は,これら組織の基となる粘液か腫瘍細胞により分泌されるものと考えているか,Lennox et al.も指摘したように,所謂皮膚混合腫瘍では粘液分泌が少ないゆえに,腫瘍細胞巣,間質と粘液腫様及び軟骨様組織の関係を比較的明確に観察し得るものと考えている.

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