日本皮膚科学会雑誌
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多発性有痛性グロムス腫瘍の1例 ―特にその電顕所見について―
石橋 康正池田 重雄川村 太郎
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1968 年 78 巻 6 号 p. 532-

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抄録

四肢末端,殊に指尖部,爪下等に,主として単発性に発生する有痛性小腫瘍の存在については,既に古くから知られていた模様である.Greigによれば,Hippocrates及びGalenの書にも,これと思われる記述があるという.それらはCheldonの記載以来,painful subcutaneous tubercle,Angiosarkom,perithelioma subunguale,endothelioma vasculare等種々の名称のもとに報告されて来たが,その本体や由来についての鋭い考察はMassonに待たねばならなかつた.1924年Massonは正常指端における動静脈吻合部を組織学的に検索し,この部の構造が爪下に発生する有痛性小腫瘍のそれと,極めて類似している点に着目し,この腫瘍を動静脈吻合部に由来するものとして,angioneuromyomes arterielles或いはtumeurs glomiquesと呼んだ.その後Popoff,Bailey,さらに近年ではClaraらの詳細にわたる研究によつて,所謂glomus腫瘍の概念が確立され,その発生母地が皮膚glomusであると一般に信じられるにいたつた.一方Weidman及びWiseは全身に多発した無痛性glomus腫瘍の一例を報告したが,これらは組織学的に海綿状血管腫様構造を有し,神経線維を証明せず,分布や症状の点で,前述の所謂有痛性孤立性glomus腫瘍とは,いささか趣を異にしている.従来から皮膚glomusの分布は指端爪床,指趾末節腹面に多く,躯幹四肢にはほとんど存在しないといわれており,このような症例では,既存の皮膚glomus,Sucquet-Hoyer管の腫瘍性増殖という考えだけでは説明し難く,むしろ異所的皮膚glomusないしはglomus以外の母地からの発生が考えられねばならない.一方またMurray及びStoutはglomus腫瘍の組織培養を行ない,培養された類上皮細胞(glomus細胞)がZimmermanのいうPerizytenと,単に形態的類似性のみならず,収縮能を有するという機能的類似性もまた認めたところから,glomus腫瘍を形成する類上皮細胞は,このPerizytenに外ならないと結論している.今日ではglomus腫瘍は一種のhamartomaであり,その単発ないし局所型は皮膚glomus類上皮細胞成分の特異的増殖,汎発型はその血管成分の特異的拡張として考えられてはいるが,その腫瘍を形成する類上皮細胞は,皮膚glomus由来のほかに,他の発生母地もまた考慮されねばならないとされるにいたつている.今回われわれは,22才,女子の手,指に多発した有痛性glomus腫瘍の一例を経験したので,この機会に,これらを電顕的に検索し,所謂類上皮細胞のsubmicroscopicな構造,及びそれと神経との関係,さらにはその構造から類上皮細胞の由来ないしは他細胞との類似性等について,追求しようと試みた.なお本症例は第437回皮膚科学会東京地方会で症例として報告し,またその一部は第30回東部連合地方会でsymposiumとして発表したものである.

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© 1968 日本皮膚科学会
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