抄録
皮膚被角血管腫のみを主訴として来院した β-ガラクトシダーゼ・ノイラミニダーゼ欠損症成人女性例を経験した.本例は臨床的に特徴的な皮疹・角膜混濁・眼底チェリーレッド斑・一部末梢リンパ球の空胞化を認めたが,崖拿・ミオクロヌス・小脳失調などの神経症状を伴わず,当初 Fabry 病保因者を疑わせたが,白血球・培養皮膚線維芽細胞を用いた生化学的分析により診断を確定した.組織学的に真皮乳頭層にフィブリン血栓を伴う毛細血管拡張を認めた.また電顕的検索により,毛細血管内皮細胞と神経細胞の一部に lipiddroplet 様構造物を認め,また培養皮膚線維芽細胞内には lipid droplet 様構造物,ミェリン様円層構造,よく発達した粗面小胞体などを認めた.酵素学的には白血球と培養線組芽細胞の β-ガラクトシダーゼ活性低下,細胞内ノイラミニダーゼ活性低下が特異的な変化であった.本症の報告例は現在まで約20例報告されており,外国人症例は4例のみ,で,他は全て日本人症例であった.本症の本態は不明だが,少なくとも β-ガラクトシダーゼの活性低下は患者細胞内での酵素分子分解充進に基づく二次的なものと考えられている.