芸術工学会誌
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産業技術におけるデザインイノベーションに関する研究 : 新幹線車両開発の変遷における九州新幹線のデザインを事例として(プロダクトデザイン)
根本 洋一清須美 匡洋
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2010 年 54 巻 p. 91-98

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抄録

現在は、科学技術が社会のあらゆるところに遍在している高度技術社会である。少子高齢化や地球環境問題などの社会問題が表面化する中、社会や産業の持続的発展のためにイノベーションが重要であるとの認識が高まっている。イノベーションを実現していくために、それを具現化・具体化するためのデザインの重要性がこれまで以上に高まっている。産業技術におけるデザインとは、製品やサービスに対して様々な機能や価値を統合し、具現化することである。今後の製品開発においては、製品のもつ情緒性、象徴性、社会性が重要になってくることは必至である。なぜなら、実用上のニーズである機能性に加え、上質なユーザー体験を提供する製品やサービスを利用した時に感じる満足感に、ユーザーは価値を見い出す傾向が高まっているからである。本研究では、日本の産業技術の象徴であり、公共交通機関として時代や世相を反映している新幹線の車両開発の経緯を調査した。その結果、速達性という実用上のニーズを満たした上で、環境適合性を向上させながら、同時に移動空間における快適性の向上が継続的に実現されてきたことが確認できた。そして、2004年3月開業のJR九州新幹線では、伝統技術や伝統工芸を採用することにより、これまでの速達、環境適合、快適を追求してきた方向から、移動空間の情緒性を実現する方向性が提示されたことが確認できた。新幹線車両開発に地域の素材や伝統工芸の技術を採用する試みは、これまでの新幹線の延伸にともなう地域開発とは一線を画すデザインアプローチであり、デザインイノベーションの一例といえる。このことは、今後の整備新幹線の開発の方向性として、一つのモデルケースともなりうる可能性を示唆していると考えられる。

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© 2010 芸術工学会
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