芸術工学会誌
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デ・ステイルの造形とシェーンベルクの音楽との関りについて : 共通概念としての「無重力」(音響デザイン)
尹 智博
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2011 年 56 巻 p. 109-116

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抄録

本論は、近代以後の音楽に大きな影響を与えたウィーンの作曲家アーノルト・シェーンベルクの音楽やその作曲法のなかに見出される造形的概念としての「無重力」について研究するものである。1920年代に活躍したオランダの造形集団デ・ステイルは、彼らの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物としてシェーンベルクを取り上げている。本研究は、デ・ステイルの造形実験と同様とされたシェーンベルクの音楽の分析を通して、その音楽や作曲法のなかに見出される造形的概念について考察を行うものである。1929年に、デ・ステイルの中心人物であったテオ・ファン・ドゥースブルフは、グループの活動をまとめた「新しい造形に向かって」という論文を発表する。ここで、グループの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物として、グループ唯一の音楽家ジョージ・アンタイルと共にシェーンベルクが取り上げられている。シェーンベルクは、「十二音技法」の作曲法などによって近代以後の音楽に大きな影響を与えた音楽家であり、同時代の様々な造形芸術家達からも強い関心を有されていた。デ・ステイルは、様々な音楽活動や『デ・ステイル』誌の音楽に関する論文において、シェーンベルクの音楽を取り扱っており、そこではシェーンベルクの音楽について、「デ・ステイル音楽」、「構成主義的音楽」、「キュビスムの音楽」、「機械的音楽」などと造形領域の言語を用いて論じていた。一方で、シェーンベルクの音楽の特徴でもある長調や短調といった調のない「無調性」の音楽に対しては、音楽領域から、これは「無重力」と同じものであると論じられるなど、造形領域が自明のものとしている「重力」という概念との関係によっても、シェーンベルクの音楽が捉えられていた事が確認される。デ・ステイルとシェーンベルクは、双方が「無重力」の追及や「上下左右の消失」という言語を用いて各々の芸術空間において共通する概念を示していた。そこでは、それぞれの芸術領域が自明としている造形領域においては「重力」や音楽領域においては「調性」といったものに束縛されない、自由な表現を求める実験が作品に表現されていた。そして、この「無重力」や「上下左右の消失」という概念こそが、シェーンベルクの音楽における造形的概念を示すものであり、多くの造形芸術家達に影響を与える要因となっている事が考えられる。

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