芸術工学会誌
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Print ISSN : 1342-3061
芸術工学会誌70号
14~16世紀のイタリア受胎告知画における 天使の飛翔表現から見る 絵画空間の変容についての研究
天使と大地との「あいだ」
寺門 孝之
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2016 年 70 巻 p. 42-49

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抄録

本研究は、14~16 世紀のイタリアの受胎告知画における、天使の飛翔表現の分析から、絵画空間の変容の過程と根拠を解明する事を目的とし、究極の目的は、絵画表現における天使とは何か、なぜ人間は天使を必要とするのかを考察し、時代を超えた天使像を提示することにある。  先の研究1) では、14~15 世紀のトスカーナの画家による受胎告知画における、天使とマリアの「あいだ」に注目し、 そこに表出される形象群が構成する絵画空間の解釈から、空間と時間の彼方へと絵を見る者を誘導する、天使表出の役割を解明した。  本研究では、受胎告知画における天使の飛翔表現を抽出し、それぞれの絵画空間を、天使の足許周辺の形象やその下の基盤面に着目し、観察・分析をした。その結果、明らかとした事は、① 15 世紀初頭の天使の飛翔表現から、天使の足許の「雲」とその下の地面の「不定形模様」とが強く連関し、基盤面を「空中」として表出する画家の意図を確認できる。②「不定形模様」の基盤面上の天使像は、動作をともなわない飛翔を潜勢し、マリアと等高的に配置され、マリアとの「あいだ」を生成し保持することができた。そのことは15 世紀を通じ受胎告知画において天使の飛翔表出が少ないことの根拠を成す。③天使とマリアのそれぞれの下で表現の分かれる「基盤面」は、天使と大地との「あいだ」の表現の工夫であり、15 世紀イタリアの受胎告知においては、「不定形模様」と「格子模様」の主に2 種の基盤面表現が、対立しつつ共存し、均質的ではない不連続性を強調する絵画空間を構成し得た。④16 世紀には、「不定形模様」の基盤面表出は失われ、絵画空間が線遠近法的な体系空間として完成するに従い、天使は現実的な飛翔の動作をともなって表現され、その足許には立体的な「雲」の描写が現れ、天使と大地の「あいだ」は「3 次元空間」として視覚表出が可能となった。

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