2020 年 36 巻 p. 69-79
富山県八尾地域の海成層である音川層に挟在する火山灰層(OT1)より,Actinocyclus属の化石1種を報告する。この種が淡水生のAulacoseira属とともに産出することから,このActinocyclus属もまた淡水生であることが示唆される。これらの淡水珪藻は,陸上の湖沼に生育していたかその堆積物に含まれており,OT1火山灰層として堆積した火砕流に巻き込まれて海域に運ばれたと考えられる。このActinocyclus属化石は,保存が悪いために,新種として記載するにも至らなかったが,既存の種の中ではActinocyclus krasskeiにもっとも類似した形態学的特徴をもつ。その形態は,円盤状で直径は20–75 µmで,胞紋は束線で明確に区分されることなく放射状に並び,10 µmあたりの胞紋密度は11–14個である。唇状突起は,非常に短い無紋線の上に認められ,その外孔は胞紋より大きく殻面/外套境界のすぐ下の外套に位置し,内側は殻面に平行な幅広の扇状で,その断面が楕円形の茎部は短い。偽節は光学顕微鏡下で観察可能で,殻の内側から見ると一つの唇状突起の近くの単純な孔あるいは凹みの中の孔として認識される。殻外側の殻面/外套境界は厚くケイ酸が沈着し,胞紋の外孔は変形している。胞紋室は広く,スポンジ状構造を持たない薄い胞紋壁に囲まれている。音川層産のActinocyclus属は,A. krasskeiのほかA. tubulosusやほかの非海生Actinocyclusとも形態が似通っており,それらとの形態学的な比較を示す。本研究は,日本における非海成層ギャップにおける湖沼生珪藻を明らかにするための重要な報告である。