抄録
本邦では2012年4月に前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術(Robot Assisted Laparoscopic Radical Prostatectomy: RALP)が初めて保険適用になった。2016年には腎臓癌に対するロボット支援腎部分切除術(Robot Assisted Laparoscopic Partial Nephrectomy: RAPN)が、2018年には膀胱癌に対するロボット支援膀胱全摘除術(Robot Assisted Laparoscopic Radical Cystectomy: RARC)が保険収載された。加えて、11術式が保険適用となり、婦人科、消化器外科、呼吸器外科領域でもロボット支援手術が実施可能となった。
当院においては、2013年3月3日da Vinci Si サージカルシステム(Intuitive Surgical社)が道南で初めて搬入された。オンライントレーニング、オンサイトトレーニング、オフサイトトレーニングおよび手術見学(鳥取大学)を経て、同年5月31日RALP第一例目が施行された。それ以来、週1例ペースでRALPを行っており、これまで257例が施行されている(2018年8月27日現在)。257例の患者背景は、年齢(中央値):68歳(49~77)、PSA:8.5ng/ml(3.0~232.6)、臨床病期:T1c115例、T2a/b/c138例、T3a/b14例、D’Amicoリスク分類:低38例、中103例、高116例であった。RALPはこれまで6人の術者で行われ、手術時間(中央値)は249分(140~473)、コンソール時間(ロボット操作時間)191分(82~385)、出血量125ml(5~820ml)でこれまで同種輸血は1例も施行していない。RALPでは、癌制御(断端陽性、PSA再発、生存率)のみならず機能温存(尿禁制、勃起機能温存)も重要である。本講演では、当科における前立腺癌の治療成績に加え、尿失禁の成績(頻度および予測因子)についても報告する。尿失禁改善のためには、骨盤内構造物の温存、再建および補強が重要であり、これらに対する術式が考案されている。さらに、近年ではレチウス腔(恥骨と膀胱との間の結合組織性の裂隙)に存在する組織を最大限に温存するレチウス温存RALPが報告されている。当科でも症例を選択して行っているのでこれにも言及する予定である。
当科では、前立腺癌以外にも小径腎癌に対するRAPN、膀胱癌に対するRARCも積極的に施行しており、これらの治療成績についても報告する。