道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
大網癒着により絞扼性胆嚢炎を来した1例
丹羽 弘貴大塚 慎也水沼 謙一和田 秀之高橋 亮小室 一輝鈴置 真人平岡 圭岩代 望大原 正範木村 伯子
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2024 年 7 巻 1 号 p. 90-93

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抄録
症例は85歳、女性。嘔吐・右側胸部痛を主訴に受診した。37.9度の発熱を認め、腹部診察では腹部正中に圧痛を認めた。血液検査では特記異常所見を認めなかった。単純CTでは腹部正中に偏位した胆嚢を認め、内部には出血を示唆する高吸収域を認めた。造影CTでは胆嚢底部から体部にかけて著明な壁肥厚を認めた。以上より急性胆嚢炎と診断し、同日、腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。術中所見では少量の血性腹水があり、胆嚢体部で反時計回りに大網が取り巻く形で絞扼されていた。同部位より底部側は暗赤色を呈しており、虚血性あるいは鬱血性の変化が疑われた。一方、頸部側に色調不良は認めなかった。胆嚢頸部から体部は間膜を介して肝床と付着しており、Gross A型の遊走胆嚢に起因した胆嚢捻転症と考えられ、胆嚢底部側を時計回りに回転させたが捻転は解除できなかった。胆嚢を取り巻く大網を離断して絞扼を解除したところ、最終的には胆嚢捻転症ではなく、胆嚢右壁と大網の癒着で形成されたヘルニア門を胆嚢底部が大網を軸として720度回転することで発症した絞扼性胆嚢炎であったと診断された。病理では胆嚢底部から体部に高度の出血と粘膜の剥離を認めたが、悪性所見は認めなかった。術後経過は良好で、術後4日目に退院した。絞扼性胆嚢炎は大網・小網・開腹歴や感染に起因する索状物等によって胆嚢が絞扼されて起きる稀な疾患である。発症の背景としては本症例と同様に遊走胆嚢を認める報告が多く、画像所見では胆嚢の偏位や絞扼による胆嚢管・胆嚢頸部の先細り・途絶が特徴的である。類似の疾患背景や画像所見を呈する疾患として胆嚢捻転症があるが、両者を術前に鑑別することは困難である。外科的介入が遅れた場合には、いずれも胆嚢の壊死や穿孔を来たすリスクがあるため、これら疾患が疑われた場合には早期に手術を行う必要があると考えられる。
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