Abstract
1980年代心臓病学基礎研究の大きな1つの流れは、冠循環生理学、虚血再灌流傷害そして、それに対する心筋保護・虚血耐性であった。この3つのテーマは互いに密接に連動しているが、私は幸いにもこの3大テーマを包括する基礎研究に進むことができた。特に心筋傷害の代表的病態として気絶心筋、冬眠心筋、再灌流不整脈reperfusion arrhythmiasが注目され、基礎医学や臨床医学の分野で研究が盛んになってきた時期であった。医師2年目大学院での研究テーマとして、冠循環生理・冠側副循環生理、心筋虚血・再灌流モデルで心筋代謝障害の解析を研究していた。この研究テーマがご縁で、ロンドン・聖トーマス病院レーン研究所のDJ. Hearse(世界初心筋保護液 St. Thomas Solutionの開発者)の研究室への留学に繋がった。医師1年目の後半、実は同時並行で、偶然が重なり心臓核医学の臨床と臨床的研究を始めていた。道内では数台目、大学病院では初のSPECT(Single-Photon Emission CT)装置とワークステーションが導入されたことが直接のきっかけであった。心電図同期RI左室造影法による左室収縮・拡張機能の定量的評価、心電図同期心プール法にSPECT+位相解析法応用による三次元的左室局所機能評価の研究を開始した。英国留学後は、新しくできた心臓臨床チームで、当時開始間もない待機的PCI後の冬眠心筋や急性心筋梗塞再灌流療法後の気絶心筋の核医学的評価、心電図同期法心筋SPECT法の解析ソフトウェア開発も行った。また、治験では、アデノシン負荷心筋血流イメージング、抗ミオシン抗体Fabイメージング、心筋123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージングの国内第III相多施設臨床試験に参加できた。その後多くの多施設共同研究に参加しまた企画することもできた。主なものは、札幌医科大学と関連3施設による123I-MIBGによる心不全予後予測の前向き研究、大阪国立循環器センター主導の123I-BMIPPを用いた肥大型心筋症予後解析研究、北海道心臓核医学研究会を母体とした123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージング用いた急性心筋梗塞治療後の前向き予後追跡調査研究、全国規模の研究では、旭川医科大学菊池健次郎先生主導の透析患者を対象にした123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージング用いたB-SAFE研究、京都府立医科大学西村恒彦先生主導の安定冠動疾患を対象にした予後評価のJ-ACCESS (Japanese Assessment of Cardiac Event and Survival Study by Quantitative Gated SPECT)研究である。さらに、小生主導で米欧の先生方と歩調を合わせ共同コンセプトで開始させていただいた国内6施設心不全123I-MIBG統合データベースによる予後リスク層別化のJ-META(Japanese MIBG multicEnter cohorT Analysis in Heart Failure)研究である。最後に、直近で企画した研究は2023年18F-FDG PETイメージングを用いた心サルコイドーシスの診断と予後に関するJ-CASP研究(全国13施設、連続231例)であった。こうした研究成果は論文化でき、ガイドラインに引用され、さらに123I-MIBGイメージング研究では、米国で初めての心不全イメージングとしてのFDA認可に貢献できた。このように、自身の基礎研究から知識のあった心機能、冠循環、心筋虚血、心筋代謝等の知識・経験が図らずも各種心臓核医学イメージングの臨床研究に役に立ち、多少のEBM・ガイドラインづくりに貢献できたことは幸いであった。この40年近く注力してきた心臓核医学の研究と臨床を振り返る機会を頂いた道南医学会関係者の方に深謝いたします。
第77回道南医学会大会特別報告
【要旨】
1980年代心臓病学基礎研究の1つの大きな流れは、冠循環生理学、虚血再灌流傷害そして、それに対する心筋保護・虚血耐性であった。この3つのテーマは互いに密接に連動しているが、私は幸いにもこの3大テーマを包括する基礎研究に進むことができた。特に虚血性心筋傷害の代表的病態として気絶心筋、冬眠心筋、再灌流不整脈が注目され、基礎医学や臨床医学の分野で研究が盛んになってきた時期であった。医師2年目大学院での研究テーマとして、冠循環生理・冠側副循環生理、心筋虚血・再灌流モデルで心筋代謝障害の解析を研究していた。この研究テーマがご縁で、ロンドン・聖トーマス病院レーン研究所のDJ. Hearse(世界初の心筋保護液 St. Thomas Solutionの開発者)の研究室への留学に繋がった。医師1年目の後半、臨床研修と同時並行で、偶然が重なり心臓核医学の臨床と臨床的研究を始めていた。道内大学病院では初のSPECT(Single-Photon Emission CT)装置とワークステーションが導入されたことが直接のきっかけであった。心電図同期RI左室造影法による左室収縮・拡張機能の定量的評価、心電図同期心プール法にSPECT+位相解析法応用による三次元的左室局所機能評価の研究を開始した。英国留学後は、新しくできた循環器臨床チームで、当時開始間もない待機的PCI後の冬眠心筋や急性心筋梗塞再灌流療法後の気絶心筋の核医学的評価、心電図同期心筋SPECT法の解析ソフトウェアの開発も行った。また、治験では、アデノシン負荷心筋血流イメージング、111In-抗ミオシン抗体Fabイメージング、123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージングの国内第Ⅲ相臨床試験に参加できた。その後多くの多施設共同研究に参加しまた企画することもできた。主なものは、札幌医科大学と関連3施設による123I-MIBGによる心不全予後予測の前向き研究、大阪国立循環器センター主導の123I-BMIPPを用いた肥大型心筋症予後解析研究、北海道心臓核医学研究会を母体とした123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージング用いた急性心筋梗塞治療後の前向き予後追跡調査研究、全国規模の研究では、48施設677症例の透析患者を対象にした123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージングを用いたB-SAFE研究、117施設4,031症例の安定冠動疾患を対象にした予後評価のJ-ACCESS研究である。さらに、自身の主導で米欧の先生方と歩調を合わせて開始した国内6施設1,322症例の心不全123I-MIBG統合データベースによる予後リスク層別化のJ-META研究がある。最後に、直近で企画した研究は2023年18F-FDG PETイメージングを用いた心サルコイドーシスの診断と予後に関するJ-CASP研究(全国13施設、連続231例)であった。こうした研究成果は論文化でき、ガイドラインに引用され、さらに123I-MIBGイメージング研究では、米国で初めての心不全イメージングとしてFDA認可にも貢献できた。このように、自身の基礎研究から学んできた心機能、冠循環、心筋虚血、心筋代謝等の知識・経験が図らずも各種心臓核医学イメージングの臨床研究に役に立ち、多少のEBM・ガイドラインつくりに貢献できたことは、臨床医としてのみならず医学研究者の端くれとして、幸いであった。
【プロローグ~基礎心臓病学との出会い】
1980年代心臓病学基礎研究の大きな流れの1つは、冠循環生理学とこれに基づく虚血・再灌流による心筋細胞傷害の発生機序とそれに対する心筋保護・虚血耐性であった。これらは互いに密接に連動しているが、私は幸いにもこの3大テーマを包括する基礎研究に進むことができた。心臓カテーテル検査法やSPECT(Single-Photon Emission computed tomography)、PET (Positron computed tomography)に代表される非侵襲的検査法の進歩に伴って、臨床的にも冠循環生理・冠循環予備能そして機能的心筋虚血の定量的評価、その病態生理学と治療法の進歩が急速に進行しつつあった。80年代は動物モデルによる、比較的短時間冠閉塞後の再灌流に伴う虚血性心筋傷害(post-ischemic reperfusion injury)の発生が研究され、その機序とそれに対する心筋保護法がさかんに研究されだしていた。その背景には同時期、臨床的にも心筋梗塞発症急性期における血栓溶解療法(PTCR)や直接的冠血管形成術(当時はdirect PTCAとかprimary PTCAと呼ばれていた)による再灌流療法が可能となったこともあり、多くの臨床研究が報告されだしていた。再灌流傷害の代表的病態が気絶心筋stunned myocardium、そして冬眠心筋hibernating myocardiumである。急性冠閉塞の比較的早期に再灌流(心筋血流障害を解除)すると、心筋壊死を回避されるも壁運動異常が遷延する、ただし時間とともに可逆的に回復しうる心筋が気絶心筋である。一方、有意な冠狭窄病変に由来して比較的長期間慢性的に虚血にさらされている心筋では、心筋壊死には陥っていないものの虚血性壁運動異常(時に心不全を招来)が持続しているが、心筋虚血の解除(多くは冠血管再建術)後、徐々に、壁運動異常が改善してくるのが冬眠心筋である。また急性期再灌流に伴って発生する再灌流不整脈(多くは心室細動・頻拍)や病理学的には収縮帯壊死contraction band necrosisも含まれ、基礎や臨床の両分野で研究が盛んになってきた時期であった。多くの動物実験から再灌流(急激な再酸素化)により、処理しきれない過剰な酸素供給にともなって生じる、細胞毒性の強い酸素フリーラジカルOxygen free radial(活性酸素)の異常産生がその有力な機序として提唱されていた。生物学史的には、海中から陸上生物へと進化する上でエネルギー産生効率の良い大気中の酸素の安全かつ有効な利用は不可欠であった。一方、ミトコンドリアで処理できない過剰な酸素あるいは副産物の活性酸素(酸素毒性)が進化の過程で大きな問題となった。生体内には毒性の強い活性酸素に対する防御・消去機構(SOD/catalase系)が備わっている。しかし、何らの病態でその機能が減弱すると、各臓器の細胞傷害・内皮傷害ひいては動脈硬化や心不全あるいは老化にも関与するといわれており、現在では広く酸化ストレスと総称されている。こうした一連の世界的な基礎研究の流れの中で、医師になって2年目からは大学院での主な研究テーマとして、先輩の実験助手を含め、その後約4年間、自身のテーマをもって多くの動物実験を行い論文化することができた1-4) 。とくに主体的に行った研究テーマは、心筋虚血・再灌流モデルで、冠閉塞時の冠側副血流の病態的意義を明らかにすることで、その定量評価を行い、また心筋代謝障害を心筋内ATPと乳酸産生から評価した。その結果、冠側副循環の重要性(心筋虚血急性期の不整脈抑制効果と心筋保護・代謝機能維持効果)を明らかにし、博士論文1) にすることができた。当時酸素ラジカ産生酵素であるキサンチンオキシデースを阻害する薬xanthine oxidase inhibitorアロプリノール(尿酸産生阻害薬として臨床応用されている)による虚血再灌流傷害の軽減効果が盛んに研究されていた。そこで次の研究テーマでは、我々の虚血・再灌流モデルでアロプリノールの虚血・再灌流傷害の抑制効果を解析することができ、後年同じ研究グループの先生の博士論文にすることができた。
【基礎研究でロンドン留学】
こうした研究成果が出した頃に恩師飯村攻教授と懇意にしているロンドン・聖トーマス(St Thomas)病院レーン研究所のDJ. Hearse(MV Braimbridge教授と共に世界初の心筋保護液 St. Thomas Solutionの開発者で御高名)が来札した。当時は毎年のように、年に数回諸外国の有名な教授が来札して、札幌医科大学病院循環器病棟内のカンファレンスルームでセミナーを開催していた。その際、先輩方が自身の研究成果を英語でプレゼンし議論して留学していく姿を見て、当時はこれが普通のことと認識していた(当時常時3,4人は留学していた)。その医局内セミナーで、ハース教授の前で自身の研究成果を発表し、知己をえることができた。これが1988年のロンドン留学に繋がった。時期的には、大学院卒業の翌年で、ちょうど昭和に留学し、平成に帰国することになった。従って、昭和天皇の病状悪化と崩御、大喪の礼はBBC-TVとロンドン三越で手に入る衛星版の朝日新聞を通じてロンドンで知った(Eメール、スマホはまだなかった)。ハース教授(ウエールズ出身Welsh)のラボは多国籍ラボで、英国人British(英国人自身はみな出身地別に、English, Welsh, Scottishと違いを強調していた。アイルランド出身者Irishはいなかったが)と日本人はもとよりフランス人、イタリア人、米国人、トルコ人、ドイツ人、スペイン人といった具合で、これは欧州では当たり前であることも学んだ(ちなみに時間外にラボにいるのは日本人研究者の他は、掃除担当のフィリピン人くらい、また街角の商店主はインド人が普通であった。従って、実に多くのお国訛りの強い英語が日常普通に飛び交っていたのが面白く、かつ心強かった)。当時のラボでは移植心や新しい心筋保護液の研究を行っている同僚のプレゼンやセミナーが毎週あり勉強になった。自身の研究テーマは引き続き、酸素ラジカルと心筋虚血再灌流傷害の研究を、ロンドンで新しく覚えたLangendorff灌流心を用いた実験系で継続し、英語原著論文2編を仕上げることができた3,4) 。しかしハース教授からの強い英国留学延長の希望もかなわず、飯村教授命令で帰国することになった。詳細は割愛するが、留学前半では、日本ではありえないような多くの苦労をしたが、後半は嘘のように、家族と楽しくかつ充実したロンドン生活を過ごすことができた(多分日本にいる何倍も苦労したが、きわめて貴重な経験も数多くできたと思っている)。
【心臓核医学との偶然の出会い】
前段で大学院時代のメインテーマである基礎研究の話をさせて頂いた。医師1年目の後半、実は同時並行で心臓核医学の臨床と“臨床的”研究を始めていた。当時は、こうした基礎研究の経験や知識が、その後の臨床や臨床研究の成果5-127) に繋がるとは想像すらしていなかった。その心臓核医学との出会のきっかけは2つの偶然であった。最初の出会いは医師1年目1983年秋であった。札幌医科大学病院が新築され、大型機器も一新された。また国内でも珍しく、道内では数台目、大学病院では初のSPECT装置とワークステーションが導入されたのである。当時は心臓核医学診断の大学での実績はほぼゼロで、他院にTl-201心筋シンチグラフィ(多方向平面画像の撮像)を依頼する程度であった。国内外の学会では、最先端のSPECT+コンピュータ解析により臨床研究が進み始めていた。その価値を理解し使いこなせる専門医・指導医は、もちろん学内にはいなかった。次の出会いは1984年早春の1月であった。1984年4月に函館五稜郭病院に循環器内科を開設することとなり、当時新日鉄室蘭病院循環器内科のNo2であった高田竹人先生(現函館厚生院理事長、元函館五稜郭病院病院長)が、そのトップとして異動が決まっていた。そこで高田先生は(当時小生がうっすらと理解していた範囲では)大学病院で最先端の医療を学び直して函館に赴任したいとのことで、3か月ながら当時の第二内科に来ておられた。先生の歓迎会でいろいろ盛り上がっている中(もちろん小生初対面で静かにしていた)、飯村教授が突然小生に向かって“中田は・・・、大学院生で大学にいる時間も長いはずだから、興味があれば核医学をやってみてもいいぞ”みたいな話があったと記憶している(私は、さて何のことやら??と理解もあまりできず、―教授に向かって失礼ながら―結構思いつきのような軽いノリのような提案に、その時は感じられた)。当時飯村教授がそうおっしゃった理由は、小生の大学院の研究テーマとして考えていたわけでは決してなく、多分想像であるが、新しい核医学装置が先端技術として循環器領域で使えそうな可能性があること、一方学内にはその指導者もおらず、(誰か若いやつに学ばせて)何とかしたかったこと、そして正に偶然、タイミングよく高田竹人先生が大学に戻っていたことである。当時高田先生は新日鉄室蘭病院で、(平面像のみであったが)核医学装置を使って、北大放射線科から定期的に室蘭に出張していた古舘正臣先生(のちの北大核医学科初代教授)と心臓核医学をやっていて論文も書かれていた。そのため、高田先生なら新しい核医学装置を理解し、若い誰かを指導できるのではないか、と考えたためと思われる。そこで白羽の矢が小生に向けられた形になった。即答はしなかったと記憶しているが、日中は病棟で患者も受け持ち、かつ2年目春からは(過酷な先輩の元)動物実験の日々を送りながらも、下記に述べる心臓核医学の臨床を半ば自主的に始めた(とは言っても当初は検査係程度のレベルであった)。当時の放射線科森田和夫教授のお許しも頂き、毎週夜に放射線科医局に出入りして、放射線科の久保田昌弘先生、津田隆俊先生と心筋SPECT画像再構成法の勉強・読影、心機能解析の仕方・解釈を一緒に勉強した。患者の臨床データ(循環器病棟カンファレンスで自分の受け持ち患者以外の患者データも把握していた)と突き合わせて解釈の参考にして読影力を磨くことができた。また運動(自転車エルゴメータ)あるいはジピリダモール静注による負荷心筋血流SPECT、また111In-標識血小板シンチグラフィ(活動性心内血栓の画像化)も新たに開始した。当時心臓超音波法も劇的に進歩しだした頃で、ドップラー法、続いてカラードップラー法が臨床現場に導入された時期と重なった。このため個人的には臨床的な心機能解析にも大いに興味がわいていた。わずか3か月に満たない期間であったが、高田竹人先生は新しい装置の可能性に早速気づかれ、先生のご指導のもと、心電図同期RI左室造影法(通称心プールシンチグラフィ)による左室収縮並びに拡張機能の定量的解析を始めた。新しい心機能解析ソフトウェア(島津社製Scintipac2400というワークステーションに搭載)を用いることで、300~500心拍加算から得られた平均的な左室容積曲線volume curveを数学的に高次フーリエ変換し、その数式から各種心機能指標を定量的に算出することができた。ちなみに心エコードップラー法から得られる指標は、二次元画像の心内流速波形から仮定式で得られる指標である。一方、上記RI法は3次元的データを利用して、まさに左室容積曲線を反映するTime-activity curve (TAC)を算出するため、理論的にも極めて合理的である。TACの収縮期カーブは単純にコサイン・カーブで一次近似できる。しかし、拡張期は等容拡張期に始まり急速流入期、緩徐流入期そして心房収縮期に分けられる複雑な周期関数であるため高次フーリエ関数を用いることで数学的に正しく近似できる。しかも基本数百心拍加算で、msecに加え度数表示(degree/360度)による時間指標(心拍数補正)、時間微分で速度指標(最大収縮速度や最大拡張速度、その到達時間)の算出も容易であるため、正確に各種指標を定量的に評価できた。こうしたデータを多数例で解析し臨床研究として、医師2年目の秋に日本循環器北海道地方会で2演題(地方会デビュー)、翌年には福島の日本核医学総会(全国学会デビュー)で発表できた。その後、拡張機能は多くの因子の影響を受けやすく、しばしば収縮機能低下に先行して障害されることが報告されてきた。生理的には年齢(加齢で低下)、前負荷(左室容積)、収縮機能の影響を受け、病的には言うまでもなく肥大心の程度、糖尿病心や虚血心の比較的早期にも低下する。そこで前3者を健常者で評価し補正する式を算出し、これら因子の生理的影響を避けて、肥大心の拡張機能を評価する方法を考案した9) 。また心電図時同期心プール法の利点は、左右の心室を同時に評価できることである。心筋梗塞急性期のPCIはまだ施行されていない当時、潜在性含め下壁梗塞の約1/3に合併するとされていた右室梗塞などによる右室機能評価にも有用であった84,107) 。また複雑心奇形の心能評価にも応用し、単心室患者における心機能解析画像データを後輩の症例報告として論文化(初めての英語原著論文指導)することができた6) 。さらに心電図同期心プール法にSPECT+位相解析法を応用し、三次元・三方向(短軸・長軸・水平軸)から左室局所機能(壁運動)を評価する研究を開始した。局所壁運動評価であるから、周期関数であるTACの収縮期時相の解析が重要である。そこで各ピクセル毎のTACから得られる振幅(局所駆出力を反映)と位相値(収縮開始時相のズレを評価)を算出し、これを三次元カラーマップとして3方向多段面に画像化した。先行研究は無く、医師3年目でその成果をAPCCアジア太平洋心臓病学会で発表した(ニュージーランド・オークランド、これが国際学会デビュー)。以上は先に述べたようにほぼ大学院時代に基礎研究と病棟業務をしながら、自発的に行ってきた研究の一端で、留学前に論文化できたことは幸いであった5-9) (和文原著は割愛)。こうした一連の定量的評価法の研究は、のちにさらに洗練された心電図同期SPECT定量評価法の開発や治験につながった。
蛇足ながら、自身の医学博士申請時の主論文1) 以外の副論文は9編あり、そのうち心臓核医学関連の論文は3編であった。
【臨床心機能グループ立ち上げ】
英国留学を終え帰国した時はすでに医学部卒業後6年以上が経過していた。留学中は当然心臓核医学の臨床研究はストップしていた。また、大学の元居た心臓基礎研究グループは代変わりし研究テーマも、実験手法も大きく変わっていた(トップは米国から帰国し、その後教授となった三浦哲嗣先生)。この頃医局の臨床研究・診療体制にも大きな変化があった。大阪国立循環器病研究センター(国循C)でレジデント研修をおえた3年先輩の村上弘則先生(元手稲渓仁会病院循環器内科部長・救命救急センター長)、2年先輩の土橋和文先生(2024年3月まで札幌医科大学病院病院長・病院管理学教授)があいついで帰札されており、国循C方式の循環器内科診療体制の構築を始められていた(その後国循Cへのシニア・レジデント派遣は今日に至るまで、ほぼ40年間にわたり間断なく継続され、現在も臨床心臓チームの根幹を支えている)。こうした環境変化の中に帰国した後は、自然の成り行きで、それまでの基礎心臓研究グループを離れ、当時田中繁道助教授(その後手稲渓仁会病院院長・理事長に就任)をトップに結成間もない新しい心臓臨床チームに加わった(当時、飯村教授は黙認というか歓迎してくれている風でもあった)。その任務は、心電図、心エコー、カテーテル検査を含めた診断学から薬物・冠血管内治療・冠動脈バイパス術の適応・治療効果評価まで、急性期から慢性期までの循環器診療と臨床研究、それらの教育指導であった。この心機能グループは研究グループとして飯村教授から初めて認知され、自分自身は留学前から手掛けていた心臓核医学的手法による診療と研究を正式に主な任務として再スタートでき、今日に至っている。これもそれまで、半ば臨床的興味から、合間を縫って自発的行っていた心臓核医学の領域で、内外での学会発表、論文発表が多少実績として(飯村教授に)認められていたためと自負している。また時代は冠動脈アンギオグラフィによる形態的視覚評価(80年代の主流)から、冠循環・心筋虚血の機能的定量的評価やPCIに代表される治療法の進歩とその評価(それまではほぼβ遮断薬+硝酸薬とCABGが主流)へと進化しつつある、循環器診療の大きな転換期でもあった。この頃は、待機的PCI(当時はPercutaneous Trans-Coronary Angioplasty, PTCAと呼ばれていた)は国内で開始されて間もない頃で、札幌医科大学病院でも土橋先生を中心に慢性・安定型冠動脈疾患患者の待機的PCIを開始した。当時大阪国立循環器病センター心臓内科で活躍していた土師先生と住吉先生を招聘し、そのご指導のもと二症例で開始された(小生もカテ室脇に立ち合った。その記念すべき一例はその後長らく大学の外来で小生が担当した)。その後、PCI症例は順調に増加してきたため、前段の基礎編で述べたように、自身の基礎研究から知識のあった冬眠心筋の臨床的同定、つまり慢性心筋虚血の改善の証明と、その後の局所壁運動異常改善を臨床的・画像診断的に評価できないかと考えた。そこで、待機的PCI前後で負荷心筋血流SPECT法による心筋虚血の同定(部位、範囲そして重症度)とその改善度を定量評価し、心電図同期心プールSPECT法+位相解析法を施行し、左室局所壁運動異常の改善度を経時的に比較した。その結果、PCI後の心筋虚血改善度と局所壁運動異常の改善度の相関関係を示すことができ、小林史先生(当時大学院生)や遠藤明太先生の論文にすることができた(この研究で日本循環器学会でも発表デビュー)。
90年代に入り、時代はコンピュータサイエンスの時代へと、医学分野でも大きく変わりつつある黎明期であった。ロンドン留学時代に覚えたMacintoshパソコンによる統計解析・図表つくりも、ようやく札幌でも普及し出していた。必然的に、核医学研究の流れもこれと呼応して新たなコンピュータ解析手法の開発にも取り組んだ9-16) 。核医学データは100%デジタル情報であるため、コンピュータサイエンス、定量的解析に適応し易い。それまで、曲がりなりにも、高次フーリエ解析、心筋血流SPECT法やECG同期心プール法の3次元解析など、それまで培ってきた知識と経験は、この分野でも大いに役立った。心筋血流SPECTの新たな展開図法(極座標表示法の欠点を補うべく、心筋断層面積を考慮した定量性の高い方法)の開発、さらに心電図同期心筋SPECT法による心筋血流と心機能の同時解析を可能にするP-FASTプログラム( Perfusion and Function Assessment for myocardial SPECT in Sapporo Medical University)と命名し独自開発した。そのソフトウェア開発の中心はコンピュータサイエンスに強い札幌医科大学病院放射線部核医学検査室の片桐好美技師で、その臨床的な精度や意義を評価して、世界に発信できた10) 。その背景には、カウントデータ量が多くアイソトープ被ばくの少ない99mTc標識心筋血流トレーサ(MIBI, tetrofosmin)の開発やSPECT装置自体(感度、空間分解能・時間分解能、補正法)の進歩もあった。当時世界的には、4つの解析プログラムが相次いで公表されていた。世界初は米国UCLA関連のシダース・サイナイ・メディカルセンターの QGS (Quantitative Gated SPECT)で、その後エモリ―大学Emory Cardiac Toolbox、札幌医科大学P-FAST 、ミシガン大学4DM-SPECTが続いた。ICNC(世界心臓核医学会議、アテネ)では片桐技師と小生で発表し論文化した。またその後ACC(米国心臓病学会)2001で、上記4つのプログラムを一堂に会したシンポジウム「Nuclear Cardiologyシンポジウム心電図同期SPECT解析プログラム」が企画され、招聘されたことは意義深かった。
【国内臨床試験への参加】
学会発表や学術論文で認知度が上がってくると、自然に国内第Ⅲ相臨床試験(治験)も依頼されるようになった。当時、自身は病棟指導、学生指導・講義、外来では高血圧専門外来その後心筋症専門外来を受け持った。そのお陰で高血圧関連の今日標準薬と言われる一連の降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬など)を治験段階から数多く経験していたため、臨床試験には比較的慣れていたことも幸いした。最も印象深い治験は負荷心筋血流SPECTでのアデノシン負荷法の治験、111In-標識抗ミオシン抗体Fabイメージング(心筋壊死・急性心筋梗塞イメージング)で、また123I-BMIPP(Beta-methyl-iodo-pentadecanoic acid)による心筋脂肪酸代謝イメージングの臨床試験にも参加できた。
アデノシンは言うまでもなく、血管内皮のアデノシンA2受容体を介する、生体が有している最も強い冠血管拡張物質で、生体血中内では超短時間半減期であるため安全性も高い。この治験により今日、通常の薬物負荷SPECTイメージングに保険収載され一般使用されている。また心筋血流PETイメージングによる心筋血流予備能(MFR)評価やカテーテル法によるFFR測定にも使用されている。ちなみに薬物負荷法として従来内外で経験的に使用されてきたジピリダモールは半減期が長く、低血圧の副作用が珍しくなかった(毎回アミノフィリンをすぐ使える準備をして負荷イメージングに臨んでいた)。アデノシンは通常120μg/kg/minで6分間投与されるが、治験段階では140,160,180 μg/kg/minまで評価され、その安全性も確認されている。しかし、治験結果では高用量の画像評価上の優位性が認められず、最低用量で認可された。なお余談であるが、基礎心臓病学の分野では短時間虚血の繰り返しで心筋梗塞サイズが著しく抑制されるとの動物実験がデューク大学の基礎心臓研究グループから発表され大きな注目を浴びた。その生体に備わっている心筋虚血耐性(その後“プレコンディショニング”と命名された)の成立機序について内外で膨大な研究が行われた(当時教授となっていた三浦哲嗣先生のメインテーマの1つ)。その機序としてアデノシンA2受容体の活性化が重要であることが明らかとなった。この点では、思いがけず、これまでの一連の研究の接点となったが、核医学的心筋虚血耐性の証明や虚血-再灌流傷害の検出については後に実現することになった。
111In-標識抗ミオシン抗体Fabイメージングは、米国で開発された抗体イメージングである。マウス由来の抗体製剤であるためアレルギー反応を抑えるようにFab部分のみを利用している。本製剤は、全米トップクラスで、ハーバード大学医学部教育病院の一つである、ボストンにあるマサチューセッツ総合病院MGH心臓核医学研究チーム(BA Khaw, T Yasuda, HW Strauss, E Haberら)により急性心筋炎や移植心の拒絶反応を画像化するために開発された。心筋細胞膜が破壊され、構造蛋白である心筋ミオシンが露出すると、これを抗原にして、111In-標識抗体が結合するため、イメージングできる原理である。その後、急性炎症や拒絶反応、梗塞心筋(虚血性壊死)以外の傷害心筋、つまり一部の心筋症(退行性の変性壊死)でも心筋細胞膜が破壊されると(事実上の心筋細胞死)、抗ミオシン抗体Fabが集積することを示すことを自験例や心筋症ハムスター14.6による動物実験で証明することができた17-22) 。治験としては、症例数の多い心筋梗塞急性期の梗塞イメージングとして開始され、参加することができ、厚労省への申請段階と聞いていた(メーカー談)。しかし誠に残念ながら、抗体製剤であるが故の宿命か、抗ミオシン抗体Fabの安定供給(原則米国から直輸入)が困難となり、臨床認可に至らなかった。また余談ながら、本治験参加と先のデータの論文化で、全く面識のないMGHの先生からある朝、お褒めのお電話を直接頂いた(しかも外来で受け取り大変恐縮したことを良く覚えている)。ここで知己を得たことが、その後の後輩(現札幌医科大学医学部病院管理学教授橋本暁佳先生)の留学依頼に繋がったことは、不思議なご縁であった。
123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝イメージングは本邦で開発され、今日広く臨床応用されている。核医学イメージングは、標的分子の動態をアイソトープ標識して観察する動態解析・機能イメージングである。その本領を最も発揮できる分野が心筋エネルギー代謝イメージングである。18F-FDG(デオキシグルコース)による糖代謝PETイメージング製剤につづいて開発され実用化したのが、心筋脂肪酸代謝イメージング用SPECT製剤123I-BMIPP(Beta-methyl-iodo-pentadecanoic acid)である。心筋細胞は生命維持のみならず終生機械的拍動を続けるため、膨大なエネルギーを必要としている。そのため好気的環境下では(酸素供給が十分な時)、エネルギー源としてATP産生能が最も高い長鎖脂肪酸(空腹時は約60%)を主に利用し、次にブドウ糖(空腹時は約35%)を利用している(残りはアミノ酸、乳酸等数%)。一方、心筋虚血(酸素欠乏)時には、酸素を大量に必要とする脂肪酸代謝は容易に障害される。このため、心筋虚血あるいは虚血性心筋代謝障害を検出するには、この心筋内脂肪酸代謝状態を評価することが逆に好都合となる。しかし従来のPET用製剤である11C-パルミチン酸は、代謝回転の速い直鎖脂肪酸であるため、数分でH2OとCO2に代謝され消失するため、画像評価には不都合であった。このため、パルチミン酸のβ位にメチル基を導入して、ミトコンドリア内における脂肪酸のβ酸化を遅らせて心筋内停滞性を確保することでイメージング製剤として開発されたのが123I-BMIPPである。治験段階のデータでもいくつか論文を公表できたが、今日広く利用されている本剤を用いた臨床研究・多施設共同研究も数多く施行できた23-44) 。その後、別の心筋脂肪酸代謝イメージング薬(パルミチン酸の6位にメチル基を導入した123I-6-MP)の治験にも参加したが臨床使用には至らなかった。
臨床的に虚血耐性・プレコンディショニングは存在するか?急性心筋虚血後の気絶心筋の同定と合わせ、それを証明することは容易ではなかった。しかし、待機的PCI時のバルーン拡張時(冠血管の完全閉塞)の際に観られる心電図ST上昇がそれを繰り返すうちに軽減することや梗塞前狭心症の有無でその後の梗塞サイズが異なる(つまり同じ部位の冠血管責任病変であっても梗塞前狭心症を有する場合は、有さない場合に比して梗塞サイズが抑制される)ことが報告され出していた。この頃には、大学病院でも待機的PCIのみならず、心筋梗塞急性期の再灌流療法(primary PCI)が普通に施行されるようになっていた。そこで、我々も急性心筋梗塞後の心筋血流障害・生存性評価に加え心筋脂肪酸代謝(BMIPP集積)と局所壁運動異常の経時的変化を核医学的定量手法で評価した。詳細は割愛するが、心筋虚血によって生じた脂肪酸代謝障害領域(心筋BMIP集積の欠損域で、梗塞を回避できたリスク領域の全体を反映する)が同じ大きさを有する場合でも、適切な冠再灌流療法に成功できれば、梗塞前狭心症を有する場合は有さない場合に比して、心筋血流欠損領域(すなわち生存性のない梗塞領域)が相対的に小さく、従って生存性がより大きく保持されること(梗塞サイズの抑制)、その結果両画像上心筋血流-代謝(BMIPP)ミスマッチ領域として認識できること、そのミスマッチ領域の程度によって経時的に局所壁運動異常が改善しうること(つまりミスマッチ領域は気絶心筋であったこと)を示すことができた24,26,29) 。このように、基礎研究時代から興味のあった冬眠心筋、気絶心筋や梗塞心筋の定量評価から、プレコンディショニング効果や虚血解除後の心機能の改善予測をする上で心臓核医学的方法が有用であることを臨床的に示すことができた。
【心不全多施設共同研究の始まり】
1990年代以降、循環器領域でもEBMに基づく各種診断・治療に関する診療ガイドラインが作成されるようになってきた。そこで必要なのは多施設共同研究にもとづく質の高い臨床研究、EBMであった。そして、短期的治療効果のみならず長期生命予後を改善することが最終評価項目であると認識されはじめていた。こうした背景で、高血圧、高LDL-コレステロール血症、心不全そしてやや遅れて糖尿病、慢性腎臓病を対象にした、予後改善を目指した多施設・大規模臨床研究が海外から数多く発表されるようになってきた。これらEBMの蓄積により、循環器診療では大きなパラダイム・シフトが起き、今日に至っていることは周知の事実である。また臨床系の国際的一流誌には、多数例、前向き、リスク層別化、長期予後・アウトカム評価を含めた多施設共同研究でなければ(少数例・短期的・単施設研究では)採択されにくくなっていた。しかし当時の本邦のガイドラインは、ほぼ海外のEBMに依存しており、本邦患者による国際的に通用しEBMに値する臨床研究は極めて少なかった。画像診断に関する分野も例外ではなかった。こうした状況は、臨床研究やガイドライン作成に関わるものなら皆肌感覚でその問題点を深刻に受け止めていた。
123I-MIBG(Meta-iodo-benzyl guanidine)心臓交感神経イメージングを用いて心アミロイドーシス45,51) 、冠動脈疾患46) における臨床経験を経た後、最初に手掛けた多施設共同研究は、心不全患者を対象に生命予後(心臓死)をエンドポイントにした前向き研究であった47) 。札幌医科大学と関連3施設の症例414例を登録し、生命予後(心臓死のみ)エンドポイントに前向きに予後調査を開始した(平均追跡期間22か月)。そのきっかけは、1992年フランスの研究グループから、定量的に評価された心臓MIBG集積(心縦隔比HMR)が高度に(ある一定の閾値以下)に低下すると、当時心不全予後指標のゴールドスタンダードであったNYHA機能分類や左室駆出率LVEFから独立した予後指標(エンドポイントは心移植と死亡)になることが発表された。結果は単純明快で、内外で大きな注目を集めたが、その論文は90例(平均追跡期間2年)、しかも本邦では当時対象とするには不可能な心移植対症例(つまり最重症例)を多く含んでいた。1992年当時このトレーサを臨床使用できたのは欧州の一部と本邦(1992年臨床使用認可)だけであった。果たしてこの結果を本邦心不全患者にも適応できるのか、半ばかなり懐疑的で、批判的に検証する意味も込め、本研究を開始し、1998年にその結果を国際学会での発表を経て誌上報告した47)。本邦患者でもMIBG-HMR(心臓交感機能障害指標)は、NYHAクラス、LVEF、基礎疾患や各種臨床背景から独立した有意な生命予後指標であること、心臓死のHMR予測カットオフ値を本邦の患者群で独自に決定できたこと、その閾値のみならずMIBG-MHR低下度(4群層別解析)によって経年的な心臓死発生率が異なること、多変量解析で判明した独立した臨床的予後規定因子(年齢、心筋梗塞の既往、LVEF、NYHA)とMIBG-HMRが有意かつ相加的に予後予測指標になること(リスク因子の重層化に伴って心臓死リスクが有意に増加)も示すことができた。その後心不全データベースは拡大・進化し、多くの論文に結実し、今日に至っている(後述)46-77)。
また余談ながら、この最初に手掛けた多施設・多数例の研究のお陰で、1992年当時まだ出始めであったEXCELやSPSS統計解析ソフトを習得でき、その後のデータ解析や図表つくり(多変量解析・Kaplan-Meier解析・ROC解析等)を学ぶことができた。また言うまでもないが、予後調査をしていると、退院後の患者さんの生死にかかわる様々な生きざま・人生が見えてきて、一例一例大切にすることの重要性を改めて認識することができ、その意味でも臨床研究の重要性が感じられた。
【国内多施設共同研究】
国内多施設共同研究のお誘いを初めてうけたのは、当時大阪国立循環器センター放射線科主任医長であった西村恒彦先生(後年京都府立医科大学放射線科教授に就任)からであった。我々の肥大型心筋症HCM 対象にした123I-BMIPPを用いた学会・論文発表が目に見止まったらしい。また、今日に至る40年間近く、札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科(旧第二内科)は現大阪国立循環器研究センター心臓内科にレジデントを継続して派遣しており、人的交流が深いことも幸いしたかもしれない。HCMは比較的予後が良い症例も多いが、突然死や拡張相への移行(心不全の重症化)も珍しくはない。その共同研究(国内6施設65症例、平均3.6年予後追跡)の結果、123I-BMIPP欠損スコアと心機能が予後不良(心臓死、心不全)と関連することが示された25) 。1995年、以前から親交のあった京都大学核医学講座講師玉木長良先生が北大核医学講座2代目教授として赴任された。北海道心臓核医学研究会は、道内3大学の循環器内科と放射線・核医学講座とその関連施設から構成され、講演会を中心に教育・啓蒙活動を現在も行っている。これを機に、早速本研究会を母体に多施設共同研究を行う機運が盛り上がった。そこで提案させて頂いた研究テーマは、急性心筋梗塞患者における心筋脂肪酸代謝イメージングの予後的意義の解析であった。最終登録8施設101症例を対象に、急性期カテーテル治療後(多くは緊急PCI施行)の予後を平均28か月間(エンドポイントは全心血管事故)前向きに追跡調査した。多変量解析等の結果、心筋梗塞サイズ(心筋血流欠損領域)よりも、梗塞巣をふくむ虚血性心筋脂肪酸代謝障害領域サイズ(BMIPP欠損領域)とそのミスマッチ領域(BMIPP欠損領域-血流欠損領域)が梗塞再発・心不全・再冠血管再建術を含む、近い将来の心血管イベント再発リスクになることが示された30) 。また生命予後には、心筋梗塞の既往や左室機能低下に加えて、心筋血流異常に比し脂肪酸代謝障害の領域がより広い、いわゆる血流-代謝ミスマッチ領域(viable but metabolically damaged area)が改めて規定因子となり、次の再発領域の約半数の責任領域になっていることも判明した38) 。
【心筋脂肪酸輸送蛋白の研究】
多数例の研究をしていると予想外の現象に遭遇することがある。心筋細胞のエネルギー代謝の主役である長鎖脂肪酸の代謝は基礎研究から明らかにされている。血中の長鎖脂肪酸は細胞膜上に発現している蛋白CD36から取り込まれ、細胞内では遊離脂肪酸の輸送蛋白であるFABP(Fatty acid binding protein)によって運ばれ、一部はミトコンドリア(β酸化でATP産生に利用)へ、その他多くは脂質プールに貯蔵される。心筋123I-BMIPPイメージングの研究が、思いがけず、こうしたCD36やH-FABP(心筋細胞に特異的なFABPの意)との研究に結び付いた。BMIPPデータベースに多数例が集積してくると、BMIPP イメージングで心臓が映らない、すなわち遊離長鎖脂肪酸であるBMIPPや6-MP(前述)の心筋無集積例が散見されるようになった。こうした症例を多数例道内の関連施設から登録し、解析することができた。単球・血小板 フローサイトメーターからこうした症例はI型CD36欠損症であること、またその後大阪医科大学循環器内科田中准教授(当時)との共同研究で、新たなCD36関連遺伝子変異を発見し、また古橋眞人先生(現在札幌医科大学循環・腎臓・代謝内分泌内科学教授)との共同研究で脂質代謝、糖代謝、腎障害と関連も報告することができた27,31-35,39) 。一方その頃、血中H-FABPの測定が可能となっていたため、従来の急性心筋梗塞の心筋壊死指標CK-MBとの経時的変化の比較研究を行った。その結果、構造蛋白であるCK-MBと異なり、H-FABPは細胞質内に豊富に存在する、分子量約15,000の低分子可溶性蛋白質であるため、細胞膜傷害(事実上の細胞壊死)で容易かつ発症早期に血中に流出し、CK-MBよりも早期診断に有用であることを報告した8,34) 。このように、心筋123I-BMIPPイメージング研究の関連で、心筋脂肪酸代謝に関連する多彩な病態の臨床研究をすることができた。なお、I型CD36欠損症では長鎖脂肪酸を利用できないため、エネルギー源として糖利用を亢進させ(FDG心筋集積亢進)や胎児型心筋の特徴的形質に近いことが報告されている。
こうした一連の研究のお陰か、思いがけず、それまで心臓の基礎研究成果を何回か発表してきた国際心臓研究学会ISHR (International Society for Heart Research)の国際心筋代謝シンポジウム1999(カナダ・バンフ国立公園で開催)に招待された。基礎的心筋代謝研究の分野では世界的権威のアルバータ大学薬理学Lopaschuk教授(当時)からお声がかかったのである。基礎分野のシンポジウムではあったが、「心疾患(虚血性心臓病・心筋症)における心筋脂肪酸代謝障害の臨床的意義」をテーマに講演をさせて頂き、カルガリー大学にも再訪問し旧交(後述)を温めることができた。
【慢性透析患者リスク層別化研究:B-SAFE】
心筋123I-BMIPPイメージングの新たな利用法として維持透析患者における冠動脈疾患のリスク評価に関する有用性を示す論文が単施設研究ながら発表された。核医学イメージングの利点はヨード系造影剤と異なり腎機能には影響せず、また安静時検査であるため、高リスク患者・腎不全患者にも安全に施行できることである。前述のように、心筋エネルギー代謝は長鎖脂肪酸に多くを依存し、広義の心筋虚血で鋭敏に障害される。そこで全国規模・多数例で、心血管疾患リスクが高い透析患者さんを対象に予後予測・リスク層別化を目的に共同研究が企画された40) 。主導されたのは、旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科学教授になられていた先輩の菊池健次郎先生で、長谷部直幸准教授、東邦大学大橋病院循環器内科講師諸井誠先生(いずれも当時)とともに参加し、2006年123I-BMIPPイメージングを用いB-SAFE (BMIPP SPECT analysis for decreasing cardiac events in hemodialysis patients)研究として開始した。全国48施設、677症例を登録し、心筋BMIPP集積異常を視覚的半定量評価し、3年間前向きに追跡した。心血管イベント(心臓突然死・心筋梗塞・心不全入院)の独立した規定因子として、年齢と心不全既往に加え、123I-BMIPP欠損スコアが同定された。また心臓死は123I-BMIPP欠損スコアが大きい程多く発生すること43) 、さらに最多のイベントである突然死にはCRP値, 心電図異常と並んで123I-BMIPP欠損スコアが危険因子になることも明らかにできた44) 。
【冠動脈疾患の大規模予後追跡研究:J-ACCESS】
J-ACCESS (Japanese Assessment of Cardiac Event and Survival Study by Quantitative Gated SPECT)研究は冠動脈疾患を対象に、国内117施設(最終解析対4,031症例)が参加した、現時点でも国内最大規模の画像診断を用いた前向き予後追跡研究である。2000年前後から、注目すべき大規模介入多施設共同研究が欧米から発表されていた。可逆的な機能的心筋虚血の重症度(負荷心筋SPECTイメージングで定量評価)が予後(心血管イベント)と関連すること、その改善度が予後の改善にも寄与すること、心筋虚血の重症度よって治療的意義が異なること、特に待機的PCIを含む侵襲的治療法は機能的心筋虚血の重症度が高いほど予後改善効果が大きい(したがって、心筋虚血重症度が低い場合の待機的PCIの意義は認められない)ことが示されていた。本研究は、西村恒彦先生が中心となって企画され、全国の仲間が参集した。安定型冠動脈疾患かその疑い症例(登録4,629症例)を対象に、アデノシン負荷による99mTc-tetrofosmin心電図同期心筋血流SPECTイメージングを用い、心筋血流・心筋虚血と心機能を同時に定量評価(QGS解析)し、他の臨床指標と合わせ3年間前向きに予後評価(2001~2004年)を行った。第一報は2008年誌上発表(Nishimura T, et al. Eur JNM Moll Imag)され、欧米のデータと比較して、日本人の心イベント発生率自体は低いものの、本質的には同様の結果で、負荷時の心筋血流異常スコア(SSS)が大きいほど心事故イベント発生率は高いことが示された。さらに、SSSに加え、糖尿病合併、左室末期容積係数ESV、LVEFも独立した予後規定因子であることが示された。小生もこのJ-ACCESSデータベースを利用して、最も多かった心事故イベントである新規発症心不全入院に注目し、再発例を除く3,835例でサブ解析を行った。その結果、負荷時の心筋血流異常スコア(SSS)に加え左室収縮容積係数ESVIと慢性腎疾患CKD stage IVの合併が有意な予後規定因子であり、これらは相加的に予後悪化に関連することが示された12) 。また冠動脈造影所見のある2,200例の解析から臨指標(狭心症状、糖尿病、スタチン不使用、虚血肢の合併)に加え、ESVIと心筋虚血スコア(SDS)が予後の独立変数であり、これら指標の予後評価上の相加的意義(同時評価による精度向上)も示された13) 。なおJ-ACCESS研究はその後、新たな症例登録(J-ACCESS-2糖尿病513例、J-ACCESS-3 CKD554例、J-ACCESS-4待機的PCI施行494例)と続き、2021年誌上発表で一連の研究を終了した。
【123I-MIBG心不全イメージング国際共同研究:J-META】
再び123I-MIBGイメージングに戻りたい。1996年島本和明教授(当時)から北方圏医学交流でカナダに行かないか、との突然の打診があった。当時札幌医科大学では北方圏医学交流で、カナダ・アルバータ州、米国マサチューセッツ州、フィンランド並びに中国(主に北京医科大学)と大学教員の訪問交流プログラムがあった。その制度の存在は承知していたが自分が行けるとは想像していなかった。短期2週間プログラムなら行けますと返事をすると、いや長期2か月プログラムで行くようアドバイスを受け、大変嬉しかったことを覚えている。そのお陰で、カナダ・カルガリ大学医学部循環器内科に長期滞在することとなった。この間、以前から知己を得ていた同大のTyberg教授(基礎心臓病学)ご夫妻のお世話になった。奥様のNaomiさん(純粋なカナダ人で以前Medical editorをしていたとのこと)とは札幌でお会いして以降、投稿前の小生の英語原著論文の校正を随分して頂いていた。またアルバータ大学のMcCraken教授(老年医学)やMontague教授とHuman准教授(共に心臓内科)からはエドモントンにも来るよう連絡を頂き、心臓核医学に関する講演もでき、ご自宅にも招待して頂いた。このカナダ滞在期間中にボストンのMGHを訪問し、後輩(橋本暁佳先生)の留学(心臓核医学部門)も決めることができた。NYアルバート・アインシュタイン医科大学 M Travin准教授(現在循環器内科・心臓核医学教授)とは、当時留学していた後輩(現在も滞米中)からの紹介で知り合いになった。研究分野が同じなので多少は知っていたが、1999年日米医学医療交流財団(JANAMEF)による奨学金で、同大Montefiore病院に滞在でき、共同研究を開始してからは、一層親しい交流が始まった。同大学は一時ペースメーカー(SSSや完全房室ブロックでの心停止時に経静脈的にリード・ペーシングする手法)を世界で初めて開発したことで有名であった。Travin先生は小生のこれまでの研究も良くご存知で、何とか米国でも123I-MIBGを使用できないかと相談を受けた。各方面に相談し実現することができ、その後の心不全患者における心臓突然死・ICD適切作動・致死性不整脈発症リスクに関する一連の研究49,55,56) に結び付いた。交感神経機能障害(MIBG集積欠損)が生じても生きている心筋細胞(血流トレーサは集積)は存在する。こうしたdenervated but viable myocardiumは、交感神経刺激に対し心筋細胞側のβ受容体が過大に反応し不整脈発生源になること(denervation hypersensitivity)が動物実験で示されていた。また、心筋梗塞後の致死性不整脈がこうした心筋梗塞を免れた梗塞関連リスク領域から発生することは臨床的にもよく観察されていた。MIBGと心筋血流の両イメージングから、MIBG-HMRと心筋血流障害サイズを定量解析すると、その両者並びにホルター24時間心電図から得られる心拍変動係数(低下)、LVEF(低下)そしてBNP値(高値)が心臓突然死リスクや致死性不整脈発生とそれに対する実際のICD適切作動に関連することを明らかにできた49,55,56)。こうした研究成果のお陰か、後年若林剛先生(現在札幌循環器病院)のNY・Montefiore病院への留学や永原大五先生(現在手稲渓仁会病院不整脈センター)のロンドン・St Thomas病院への留学に結び付いた。
ある休日の朝、思いがけない国際共同研究の相談を受けた。ADMIRE-HF試験の主任研究者の一人であったTravin先生からの電話であった。心不全患者の最も多い米国からも遅ればせながら、123I-MIBGイメージング国内第3相臨床治験として実施された多施設共同研究ADMIRE-HF (AdreView Myocardial Imaging for Risk Evaluation in Heart Failure)の 試験結果が発表された(Jacobson AF, et al. JACC 2010; 55:2212-21/ Gerson MC, et al. Circulation CV Imaging 2011; 4: 87-93)。これまでの日欧から発表された内容と基本的には同じで、糖尿病の有無やLVEFにかかわらず、心筋MIBG集積(HMR)が相加的有意に独立した予後規定因子になることが確認された。しかしFDA(アメリカ食品医薬品局)は、この研究結果のみでは最終的に臨床使用を認可しなかった。電話の要旨は、ADMIRE-HFのみでは症例数や追跡期間が不十分であること、日欧の先行研究を参考にするようFDAから勧告を受けたとのことであった。そこで日本国内から英語原著論文として発表されてきたいくつかの心不全予後追跡データベースを統合して解析できないか、との提案であった。少し躊躇したが、該当する国内6施設(札幌医科大学・東邦大学大森医療センター・東京女子医科大学・大阪府立成人病センター・群馬大学/北関東循環器病院・滋賀医科大学/社会保険滋賀総合病院)の各先生方に、少し難しい研究かなと危惧しながらも、早速連絡を取ってみた。すると、幸運なことに皆さん大いに賛同して、協力して頂くことができた。詳細な研究計画に関しては、123I-MIBG心不全研究で実績のあるJacobson先生、Travin先生そしてオランダのHein J Verberne先生とも国際学会の際面談して相談し、日米欧で歩調をあわせた研究とし、論文化することを申し合わせた。帰国後早速、国内共同研究組織コンソーシアムをつくり、各コホートの統合データ解析(Pooled data analysis)を行うJ-META(Japanese MIBG multicEnter cohorT Analysis in Heart Failure)研究を開始した60) 。個人情報保護・データ解析の独立性と透明性を担保するため、各施設から独立して統合データを作成し解析するセンターとして金沢大学中嶋憲一先生にご協力をいただいた。本研究結果は、論文発表に先立ちFDAへ、20数ページにわたる内部資料(MIBGイメージング認可審査用)として提出された。同時期、海外誌に論文を投稿していたが、FDAの認可は迅速で、同年心不全患者の予後・リスク層別化法として123I-MIBGイメージングは米国でも正式に認可され (March 22, 2013)、論文も同年無事誌上発表された60)。この我が国のJ-METAデータベースは心不全イメージング研究として、今日でも最大規模・最長期間で、症例数1,322例、平均追跡期間77.6か月、心臓死263例・19.9%であり、米国ADMIRE-HF研究(症例数961例、平均追跡期間17か月、心臓死53例・5.5%)や欧州共同研究(症例数636例、平均追跡期間36.9か月、心臓死67例・10.5%)(Verschure DO, et al. Eur Heart J 2014)を凌駕している(図1) 。このように我が国の多施設研究成果がEBMとしてFDAに認められ、米国の123I-MIBG心不全イメージング臨床使用認可に貢献することができた。
【123I-MIBGによる心不全突然死予測と新たなリスクモデル:Aiの可能性】
その後、道内心不全MIBGデータベースを利用し、収縮機能が保たれた心不全HFpEFにおける意義(2012)、2年・5年後生命予後予測モデル(2014/2015/2016/2018)、虚血性・非虚血性心不全における意義(2016)、心電図同期SPECT法による3次元的左室収縮能同期不全(3D-LV dys-synchrony)の解析と予後評価ならびにQRS時間延長と心臓交感神経機能異常による予後リスク層別化への応用(2018/2020/2021)、栄養状態・内臓肥満・CKDと心臓交感機能異常・心臓死リスクの関連性の解析(2020/2022)等、近年の一連の研究成果へと続いている。前述の、心臓突然死リスク・致死性不整脈発生・ICD適切作動に関連する研究49,55,56)を一歩進めて、ここ数年取り組んでいるのは、これまでの多重ロジステック解析モデルによる心不全リスク層別化をさらに進めて、より多数の臨床因子とデータベース上予後が判明している教師ありデータを機械学習させていた(Ai利用)、心不全死と心臓突然死の識別モデルの構築(2020)、認知機能障害と心臓交感機能異常による心臓死リスク解析(2024)等を試みている。そのほとんどは、現在手稲渓仁会病院循環器内科土井崇裕先生(現循環器内科副部長)、札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌兼病院管理学橋本暁佳先生(現病院管理学教授)、金沢大学大学院機能画像人工知能学中嶋憲一先生(現特任教授)とともに行ってきたもので、現在も継続中である。
【18F-FDG PET心サルコイドーシス研究:J-CASP】
最後に、2023年に発表できた、18F-FDG心筋糖代謝PETイメージングを用いて行った心サルコイドーシスの診断と予後に関するJ-CASP (Japanese Cardiac Sarcoidosis Prognosis)研究を簡単に紹介したい126,127) 。全国13施設、日本循環器学会JCSガイドライン基準をみたしFDG-PETイメージングと予後データを有する連続231例を後方視的に登録した。心筋組織診断の有無別で解析すると、その有無に関わらず、ガイドライン上認められている心筋FDG集積の陽性率は高く(83-89%)、FDG集積パターンや心臓MRI上Gd遅延造影陽性所見(59-66%)にも有意差を認めなかった。また適切ICD作動を除くと、総死亡・心臓死、心不全増悪入院には有意差を認めなかった。このように、心筋生検が困難な症例、未施行例においてもFDGイメージングにより心サルコイドーシスの診断精度が担保されることが示された。
【あとがき~謝辞にかえて】
記憶を頼りにながながと思いのまま述べさせて頂いた。多少の記憶の脱落、思い違い、不正確な部分はご容赦願いたい。ちょっとした偶然であっても、あとから振り返ると半ば運命的であった思えることがある。自分自身、そのような、その後の人生に大きな転換点になった機会を幾度となく、多くの先輩・後輩・内外の友人から頂けたことは幸運であった。臨床医そして基礎研究者としての二刀流トレーニング時代を経て、臨床的興味から心臓核医学の道に自然に踏み込んでいった(当初は後輩有志を巻き込んで、勝手にRI同好会と自称していた)。全国学会発表に先がけ英語論文が受理されたり、国際学会(米国心臓協会AHA、米国心臓病学会ACC、国際心臓核医学会議ICNC、米国核医学会SNM、米国心臓核医学会ASNC、ISHR)で発表したり、海外招聘講演・教育講演、シンポジウムに多く参加できた。幸い学会発表の多くは、決してすべてではないものの、論文化できた。どんなにいい学会で発表してもあくまで中間報告(毎年開催されるからその賞味期限は1年間)、英語原著論文にして初めてその研究は一段落、(世界中からアクセスできる)永久保存版になるとの思いでやってきた。留学前に、海外から来札した多くの教授(夫妻)の接待役を仰せつかったおかげで(幾度となく登別温泉にもお連れした)、その後の国際医学交流で訪問する際に大いに役に立った(多分未熟な小生を鍛える飯村先生のご配慮であったと思う)。またASNC創設メンバーや学会誌(J Nuclear Cardiology)の編集委員に加えて頂き、また2年毎欧州開催のICNCに20年間連続参加もでき、多くの友人を内外につくることができた。多くの海外誌のReviewer/refereeも頼まれ、多少はガイドライン作成にも貢献できた122,123) 。さらに幸運なことは、COVID-19パンデミックの前年の2019年、日本心臓核医学会JSNCを函館で開催できたことである。全国の仲間、恩師そして米国の友人(Travin先生、ハーバード大学Donna M. Polk先生)を会長招宴、続いて雨の函館山展望レストラン・ジェノバでの懇親会にお呼びできたことは望外の喜びであった(心の窓で夜景とフルートとバイオリンの演奏を楽しんで頂いた)。改めて、不肖の小生を根気強く指導をしていただいた札幌医科大学医学部教授であった故飯村攻先生(第二内科)、故森田和夫先生(放射線科)、島本和明先生(現日本医療大学総長、元札幌医科大学医学部第二内科教授・学長)、高田竹人先生(社会福祉法人函館厚生院理事長)にまず深謝いたします。大学院時代は東海林哲郎先生(元市立室蘭病院院長)、吉田茂夫先生(元北見赤十字病院院長)、松木高雪先生(現製鉄記念室蘭病院理事長)にお世話になりました。心臓核医学の分野では、尊敬しまた今日に至るまでご指導頂いている西村恒彦先生(元京都府立医科大学放射線科教授)、玉木長良先生(元北海道大学核医学教授・現京都医療科学大学学長)、中嶋憲一先生(金沢大学医学部特任教授)をはじめ、多くの全国の仲間、先輩、後輩、放射線・核医学検査室の技師さん、看護師さん方に、そして終始陰日なたに励まし見守ってくれた家族(妻と3人の子供たち)に、改めて深く感謝いたします。なお現在も当院の心臓核医学検査の読影はすべて継続させていただいている(2024年10月現在)。
※掲載した参考論文は自身の学位論文を除き、主な英語論文のみを掲載し、他は割愛させていただいた。
【利益相反】
本論文に関し、申告すべき利益相反はありません
図1
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