道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
脱水を契機に腸管壊死を発症した慢性腸間膜動脈閉塞症の1例
井内 翔稀佐藤 慧村松 里沙藤野 紘貴木村 仁舩渡 治小林 慎髙金 明典村上 健司佐藤 健司笠原 薫
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2025 年 8 巻 1 号 p. 37-41

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Abstract

【背景】慢性腸間膜動脈閉塞症(CMI)は腹腔動脈(CA)、上腸間膜動脈(SMA)、下腸間膜動脈(IMA)の狭窄あるいは閉塞による慢性の腸管虚血によって起こる疾患である。今回外科研修中に脱水を契機に急性発症した腸管壊死に対し、腸管切除術と狭窄したSMAに対してInterventional Radiology(IVR)を施行した症例を経験したので報告する。【症例】74歳女性、温泉入浴中に腹痛を自覚し当院に救急搬送された。腹部造影CTにてCAとSMAの狭窄、回腸を中心とした小腸壁の造影不良と門脈ガスを認め、小腸壊死の診断で緊急開腹手術を行った。腹腔内を観察すると少量の血性の腹水と区域性に壊死した回腸を認めた。Indocyanine green(ICG)蛍光観察法による腸管血流評価を行い、小腸140cmを含め、回盲部切除を施行した。手術時間1時間38分、出血量は少量であった。術後5日より食事を開始し、第14病日に経過良好で退院した。しかし退院後から水様性の下痢が持続し、嘔吐も伴うため退院翌日に再入院となった。腹部造影CTでは前回切除腸管の肛門側の横行結腸に軽度な造影不良域を認めた。腹痛などの臨床症状に乏しく、脱水が主病態であったため、輸液にて保存的加療の方針とした。再度腸管切除を行う場合、短腸症候群の危険もあり、根本的治療として放射線治療科と循環器内科が合同で狭窄が強いSMAに対してIVRを施行した。IVR後12日目に下部消化管内視鏡検査施行し、粘膜色調と血流が良好であることを確認し、第35病日に退院した。現在まで症状再燃なく経過している。【考察】慢性腸間膜動脈閉塞症の血行再建法としてIVRと血管バイパス術があるが、本症例ではIVRを選択した。IVRは侵襲が少なく、外科的手術と比較して術後合併症が少ないという利点があるが、1年後の再狭窄率と症状再発率は17~50%と比較的高い。今後、注意して経過観察する必要があるため、循環器内科とフォローしていく方針である。

第4回道南医学会医学研究奨励賞(研修医部門)

【要旨】

慢性腸間膜動脈閉塞症(chronic mesenteric ischemia: CMI)の多くの場合は無症候性に経過するが、まれに腹部アンギーナや腸管壊死を引き起こすことがある。脱水を契機に急速に虚血が進行したCMIに対して、腸管切除術と血管内治療を施行し、良好な経過を得た症例を経験したので報告する。

症例は70歳代の女性、温泉に入浴中に腹痛を認め、当院救急外来へ救急搬送された。腹部造影CT検査で小腸壊死を疑い、緊急開腹手術を施行した。CAとSMAの狭窄は残存していたが、経口摂取の開始後も腹痛症状は消失していたため、第14病日に退院した。しかし、退院翌日に水様便と嘔吐が持続したため、再入院となった。再入院時には腸管壊死は認めなかったことから、待機的にSMAに対する血管内治療を施行した。その後、腹痛症状の再燃を認めず、経過をフォローしている。

【はじめに】

CMIは腹腔動脈(CA)、上腸間膜動脈(SMA)、下腸間膜動脈(IMA)の狭窄や閉塞による慢性の腸管虚血によって起こる疾患である。CMIのほとんどが無症候性であるが、まれに腹部アンギーナや腸管壊死を引き起こすことがある1) 。今回、脱水を契機にCMIが急性増悪し発症した腸管壊死に対し、腸管切除術とinterventional radiology(IVR)を施行し、良好な結果を得られた症例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

【症例】

患者:70歳代、女性。

主訴:腹痛。

既往歴:特記事項なし。

現病歴:温泉に入浴中、突然腹痛を認め、当院救急外来へ救急搬送された。

初診時所見:腹部は膨満・軟、腹部全体に圧痛と反跳痛を認めた。

血液検査所見:WBC:12,300/μl、 RBC:511×10⁴/μl、Ht:47.0%、Hb:15.9g/dl、CRP:0.46mg/dl、BUN:15.6mg/dl、Cr:0.48mg/dlと炎症反応の軽度上昇と脱水傾向を認めた。

腹部造影CT検査所見:広範囲に門脈ガスと回腸を中心とした小腸壁の造影不良を認めた(図1a、b、c)。また、CT angiographyではCAとSMAの狭窄、大動脈に全周性の動脈硬化を認めた(図2)。

以上から、小腸壊死の診断にて緊急手術を行った。

手術所見:臍部より12mmポートを挿入し、腹腔鏡を用いて腹腔内を観察すると、少量の血性腹水と区域性に小腸の虚血性変化を認めたが、明らかな腸管穿孔や腹膜炎所見は認めなかった。ここで約10㎝の正中切開をおき、開腹移行とした。虚血性変化のある小腸を体腔外へ引き出し(図3a) 、indocyanine green(ICG)蛍光観察法による腸管血流評価を行い(図3b、c) 、小腸140cmを含め、回盲部切除を施行し、機能的端々吻合をした。腹腔内を十分に洗浄後、ドレーンを留置し終了した。手術時間1時間38分、出血量は少量であった。

切除標本,肉眼および病理組織学的検査所見:小腸から上行結腸まで虚血性変化を認めたが切除断端の粘膜は正常であった(図4a)。HE染色では粘膜内の出血と固有筋層の菲薄化を認めた(図4b)。

術後経過:術後5日より食事を開始し、第14病日に経過良好で退院した。しかし、退院後から水様便が持続し、嘔吐も繰り返すため、退院翌日に再入院となった。

再入院時の腹部造影CT検査では前回切除腸管の肛門側の横行結腸に軽度な造影不良域を認めた(図5) が、腹痛症状が軽度であり、輸液を中心とした保存的加療の方針とした。その後腹痛、下痢、嘔吐症状は速やかに改善したが、症状の再発再燃を予防するためCMIの治療として、狭窄が強いSMAに対し、当院放射線治療科と循環器内科が協力しIVRを施行した。SMAの狭窄部位を同定(図6a) し、バルーンで拡張を行い、Express Vascular SDステント(4.0×19㎜)を留置した(図6b)。IVR後12日目に下部消化管内視鏡検査施行し、吻合部や大腸の粘膜の色調を観察(図7a、b) したところ、腸管の血流が良好であることが確認でき、第35病日に退院した。ステント留置後より抗血小板薬の内服を開始し、現在のところまで腹部症状の再燃はなく経過している。

【考察】

腸管の動脈血流は側副路の発達が盛んであることから、CMIは無症候性であることが多い。65歳以上の18%にCAまたはSMAの症状を呈さない狭窄が認められている2) 。CAとSMA、IMAの3系統全てが閉塞しても症状が出現しないこともある3) 。一方で、数年前からSMAの閉塞が指摘されるも、無症候性に経過していたが、脱水などの誘因を契機に腸管壊死を発症したとの報告がある4) 。本症例では初回入院時と再入院時のどちらの場合でも脱水の所見を認めており、2系統(CA、SMA)の狭窄の背景下で、脱水を契機にCMIが急性増悪し、急性腸管虚血を発症した可能性があると考えられた。

治療方法については、急性腸管虚血の場合は腸管切除術と血行再建法のいずれか、もしくは両方を行うことが一般的である。一方、CMIではIVRや血管バイパス術などの血行再建法を行うことが多い5) 。本症例では初回入院時には小腸壊死を疑ったことから、緊急手術の方針とし、腸管切除術を施行した。再入院時には腹部症状が軽度であり、腸管壊死には至っていないとの診断にて待機的にIVRを行う方針とした。

IVRの利点としては、術後早期死亡が少ない6) ことや侵襲が小さいことが挙げられる。術後30日以内の死亡率は0%で、5年生存率は76.1%との報告がある7) 。欠点としては、再狭窄率と再治療率が高いとの報告6) などが挙げられる。具体的には、血管内治療施行の1年後の再狭窄率と症状再発率は17~50%と比較的高率の報告が多い。理由としてSMAは体動による影響を受けやすいためにステントの屈曲・変形から閉塞をきたしやすいためと考えられている8)

一方、血管バイパス術を含む手術療法の利点としては術後の長期成績が良好であり、5年開存率が57~69%との報告がある8) 。欠点としては侵襲が大きいこと、グラフト感染や変形のリスク8) がある。

以上のことを踏まえ、本症例では70歳代と高齢であり、侵襲の大きさや術後の合併症について考慮した結果、再入院時の治療選択肢には症状の再発再燃予防としてIVRを選択した。低侵襲ではあるが、前述のように再狭窄率が高いとの報告があることから、循環器内科と協力し、慎重に経過を観察していくことが肝要である。

その他の治療選択肢としてステントグラフト(SG)という今回使用したステントに人工血管を組み合わせたものを挿入する治療方法もある。本邦では保険収載されてはいないが、SGは通常のステント留置に比して再狭窄率が低いことが示されている9) 。本症例において再度腹部症状やSMAの再狭窄が起こった場合は、血管バイパス術やSG挿入を治療方法の候補に挙げられると考えている。

【結語】

脱水を契機に急性増悪したCMIに対して腸管切除術とIVRを施行し、奏功した1例を報告した。

【利益相反】

本論文内容に関連する著者の利益相反なし

図1 腹部造影

a.CT門脈ガスを認める。

b.回腸を中心とした造影不良を認める。

c.SMAの狭窄を認める。

図1 腹部造影

a.CT門脈ガスを認める。

b.回腸を中心とした造影不良を認める。

c.SMAの狭窄を認める。

図2 CT angiography

 CAとSMAの狭窄と大動脈に全周性の動脈硬化を認める。

図2 CT angiography

CAとSMAの狭窄と大動脈に全周性の動脈硬化を認める。

図3 術中所見

a.区域性に小腸の虚血性変化を認める。

b.口側の切除断端。

c.肛門側の切除断端。

図3 術中所見

a.区域性に小腸の虚血性変化を認める。

b.口側の切除断端。

c.肛門側の切除断端。

図4 病理検体

a.摘出標本肉眼所見:腸管の虚血性変化を認め、断端は正常粘膜であった。

b.HE染色(x20):粘膜内出血と固有筋層の菲薄化を認めた。

図4 病理検体

a.摘出標本肉眼所見:腸管の虚血性変化を認め、断端は正常粘膜であった。

b.HE染色(x20):粘膜内出血と固有筋層の菲薄化を認めた。

図5 再入院時の腹部造影CT

前回切除腸管の肛門側の横行結腸に軽度な造影不良域を認めた。

図5 再入院時の腹部造影CT

前回切除腸管の肛門側の横行結腸に軽度な造影不良域を認めた。

図6 血管造影所見

a.SMAの狭窄を認めた。

b.バルーン拡張後、ステントを留置した。

図6 血管造影所見

a.SMAの狭窄を認めた。

b.バルーン拡張後、ステントを留置した。

図7 下部消化管内視鏡検査

a,b. 吻合部や大腸の粘膜はやや発赤があるものの腸管の血流は保たれていた。

図7 下部消化管内視鏡検査

a,b. 吻合部や大腸の粘膜はやや発赤があるものの腸管の血流は保たれていた。

【参考文献】
 
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