道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
ナラティブの場(看護を語る会)が病棟看護師にもたらす影響
-看護を語り合い看護師としての在りたい姿を考える-
大久保 穂華佐野 麻奈美佐藤 千草鈴置 真人
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2025 年 8 巻 1 号 p. 52-54

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Abstract

【はじめに】ナラティブの場を設けることで、自分たちのありたい姿や看護師像を描くことに繋がるのか検証したいと考え、本研究に取り組むことにした【対象】病棟看護師22名【方法】看護管理職(師長・副師長)2名、特定行為看護師1名、2年目看護師1名を語り手とし、ナラティブの場を4回設けた後、病棟看護師に質問紙調査を実施【データ分析方法】ナラティブの場について質問ごとに5段階評価で回答を求めて得点化し、集計。各質問に対して自由記載とし、カテゴリーごとに分類【結果】1.ナラティブの場で自分の中に気づきや発見があったかでは「そうである」63.6%。2.ナラティブの場が自己の看護に対する考えを見直すことにつながると思うかでは「そうである」63.6%。3.自分の目指す看護の姿やあり方で悩んだことがあるかでは「そうである」54.5%。4.ナラティブの場で自分の目指す看護の姿を描くことができそうかでは「ややそうである」50%。5.ナラティブの場は病棟看護師の今後の看護に変化をもたらすと思うかでは「そうである」54.5%。【考察】病棟看護師は自己の目指す看護の姿やあり方に悩んだ経験があり、ナラティブの場で他者の看護体験を聴いて語り合うことで、自分の目指す看護の姿を描くきっかけになることがわかった。今回のナラティブの場では自分の目指す看護のあり方や将来の在りたい看護師像を明確に描くまでには至らなかったが、ナラティブの場は、今後の看護師像を描くきっかけになることが分かった。また、管理職や特定行為看護師を語り手としたことで、新たな看護分野への興味と感心を持たせることができ、将来のありたい看護師像を描くための一助とすることができたのではないかと考える。

第77回道南医学会大会医学研究奨励賞推薦演題

【要旨】

看護職の役割発揮に対する社会の期待は高まり、キャリア形成や活躍の仕方を選択・行動できる看護師が求められている。先行研究ではナラティブの場を設けることで自分の目指す看護師像を描くことができたという効果は十分に検証されていない。ナラティブの場を設けることで自分達の在りたい姿や看護師像を描くことができたのか検証し報告する。

【はじめに】

健康上のニーズが増大し、多様化・複雑化している中、看護職の活躍する領域や働く場も多様化が進み、看護職の役割発揮に対する社会からの期待は高まっている。日本看護協会は、これからの時代の看護師の姿の一つとして活躍し続けるためのキャリア形成の仕方や働き方を自分で選択できる看護師と示している。自分自身はどのような看護師として活躍したいかという将来の姿の希望を思い描き、なりたい看護師像や働き方を選択しながら行動していくことが求められている。

国立病院機構では、専門職業人としての看護職のキャリアについて様々な道が開かれており、看護職員能力開発プログラム(以降Actyとする)に沿って、看護実践能力の向上とステップアップを支援する体制がある。今回、看護師長と看護の取り組みや今後の働き方について面談を実施した際に、今後の看護師としての在り方について考え、悩んだというスタッフの声が聞かれた。高橋は「語る会をすることによって自分の看護の原点を知り、聞いている人は語る人の看護の原点を知ることで他者理解に繋がり自分の看護観を考える機会にもなる。それによって自分たちがなりたい姿を確実にしていく」1)と述べている。

今回の研究では自分の看護師としての在り方を思い描く方法としてナラティブの場(看護を語る会)を設けることを考えた。先行研究では、看護を語ることで自分自身について新たな気付きがあることや現場の看護の変化に繋がった効果は報告されているが、自分の在りたい姿や看護師像を描けることができたという効果は十分に検証されていない。コロナ禍で集合する機会が減った今、身近な人との語り合いから自分たちがなりたい姿を確実にする機会も減ったと言える。ナラティブの場(看護を語る会)を設けることが自分たちの在りたい姿や看護師像を描くことに繋がるのか本研究で検証していきたい。

用語の定義

ナラティブを「実践や出来事の意味や経験の語り」と定義する

【Ⅰ研究目的】

ナラティブの場(看護を語る会)を設けることで、病棟看護師が自分の看護師としての在りたい姿を描くことに繋げられるかを明らかにしその効果を検証する。

【Ⅱ研究方法】

1.研究期間:令和5年9月~令和5年12月

2.研究対象:病棟看護師22名(入職1年目~32年目看護師対象)

3.研究デザイン:質的研究

4.研究方法:

 1)管理職2名、特定行為看護師1名、2~3年目看護師1名を語り手とし、看護を語る会を4回実施。

 2)聴き手は他者の看護について良いと感じた部分を肯定的に伝え、共有。

 3)聴き手は、語り手の経験を通して自分の看護に対する気づきや考えを話す。

 4)語り手は、語り合いの中での意見や思いを聴きどのように感じたか話す。

5.データ収集方法:留め置き法で質問紙を回収

 6. データ分析方法:ナラティブの場(看護を語る会)実施について質問ごとに5段階評価で回答を求めて得点化し、集計。各質問に対しての回答理由を自由記載とし、カテゴリーごとに分類する。

 7.倫理的配慮:研究目的、研究への参加・協力は自由意志であり、協力を拒否することにより不利益が生じないことを説明する。個人が特定されることの無いようアンケートは無記名とし、本研究以外での使用はしない。アンケート結果は研究メンバーが保管し、第三者に見られないよう保管する。本研究は国立病院機構函館医療センター倫理委員会の承認を得ている。(承認番号R5-1002001)

【Ⅲ結果】

質問紙は22名全員から回収した。質問紙内容についての評価の得点化と自由記載のカテゴリー分類は以下の通りとなった。質問1から5のデータ数はそれぞれ21、23、22、21、22であり、各カテゴリーの数字はデータ数を表す。

1.ナラティブの場(看護を語る会)で他の人の看護体験や経験を聴き、語りあうことで自分の中に何か気づきや発見があったかについては4.4。

自分の経験を振り返る機会となる(8)、他者の考えや思いを知ることができる(5)、看護観についての気づきとなる(4),自分の行動への心がけとなる(2)、他者への感謝の思い(1)、後輩の成長への喜び(1)。

2. ナラティブの場(看護を語る会)で他の人の看護体験や経験を聴き、語りあうことで自己の看護に対する考えやケアを見直すことにつながると思うかについては4.4。

他者の経験は自分の考えに影響を及ぼす(9)、自分の看護を見直す機会となる(7)、学ぶ意欲、実践に影響する(3)、他者の話を聞くは大切だ(2)、初心を忘れないようにしたい(2)。

3.自分の目指す看護の姿やあり方について考えたり悩んだりしたことがあるかについては4.2。

目指す看護の姿やあり方に悩んでいる(14)、考えたことがない(3)、目指す看護の姿がある(2)、昔はあった(2)、今の仕事で精いっぱい(1)。

4.ナラティブの場(看護を語る会)で他の人の看護体験や経験を聴き、語りあうことで興味や、やりたいこと、自分の目指す看護の姿を描くことができそうかについては4.0。

目指す看護の姿を描くきっかけとなった(13)、すぐには描くことは難しい(5)、目指す看護師像が描けた(2)、タイミング次第(1)。

5.ナラティブの場(看護を語る会)は病棟看護師の今後の看護に変化をもたらすと思うかについては4.5。

行動変化への気づきとなる(7)、看護経験の共有を継続したい(6)、看護ケアや質に影響を与える(5)、チームワーク、モチベーションの向上に繋がる(4)。

語る会の場では「こなすとかただやるとかではなく、チームの一員としてという意識があることに感動した。先を見る力やチームに還元しようという気持ちがある人なんだと思った。自分としてはできない場面だったと思うが、それをばねにして成長しようとしている姿が素敵だと思った。」「こういう場を作ることで自分の思いを他の人に聞いてもらうことできっと自分の知らない一面をフィードバックしてくれると思う。いい共有ができたと思う。」「自分自身も辛くやめたいと思うことがあった。しかし、周りのスタッフや師長が助け合って支え合っているからこそ自分は今ここで働くことが出来ていると思う。」「自分も終末期ケアに力をいれたいとさらに思うきっかけになった。」「管理職や特定行為の普段聴くことがない話を聞くことによって興味を持つことができ、考えの幅が広がった」という意見が聞かれていた。

【Ⅳ考察】

ナラティブの場(看護を語る会)で他の人の意見や経験を聞き語り合うことで自分の中に気づきがあったかは4.4、ナラティブの場(看護を話す会)で他の人の看護体験や経験を聞き、語り合うことで自己の看護に対する考えやケアを見直すことに繋がるは4.4、自分の目指す看護の姿やあり方について考えたり悩んだりしたことがあるについては4.2、ナラティブの場(看護を話す会)で他の人の看護体験や経験を聞き語り合うことで興味ややりたいこと自分の目指す看護の姿を描くことができそうかは4.0、ナラティブの場(看護を話す会)は病棟看護師の今後の看護に変化をもたらすと思うかは4.5であった。この結果から病棟看護師は自己の目指す看護の姿やあり方に悩んだ経験があり、ナラティブの場(看護を語る会)で他のスタッフの看護体験や経験を通して語り合うことで自己を振り返るきっかけになったことがわかる。

高橋は「看護者としての成長には、自己の看護を内省し、周囲からフィードバックも得ながら、本質を深く考え続けるという経験学習が重要である」2)と述べている。三輪は「暗黙知のままになっていた信念や価値観をことばにすることで自己肯定感を育むことができ、ほかの参加者からの問いかけをとおして、自分の信念や価値観を再検討する機会にもなっているのである。」3)と述べている。カテゴリーに他者の経験は自分の考えに影響を及ぼす(9)、自分の看護を見直す機会となる(7)、看護観についての気づきとなる(4)とある。他者の看護の語りを通して自分の経験を振り返ることに繋がっており、それぞれが自分の看護経験のリフレクションを繰り返していくことで、これまで培ってきた看護観を醸成させ、看護者としての成長に繋がっていくと考える。

自分の目指す看護の在り方について、目指す看護の在り方に悩んでいる(14)とあり、看護を語る会で語り合うことで、目指す看護の姿を描くきっかけとなった(13)、すぐに描くことは難しい(5)、描けた(2)、となっている。このことから将来の在りたい看護師像を明確に描くまでに至らなかったが、看護を語る会は、今後の看護師像を描く機会となることが分かった。自分以外のスタッフが普段何を考えて看護をしているのか、そこに至る経緯や考え方を共有することで、スタッフの看護実践能力を高めるための刺激になると考える。また、管理職や特定行為看護師を語り手としたことで、新たな看護分野への興味と感心を持たせることができ、将来の在りたい看護師像を描くための一助とすることができたのではないかと考える。

ハーツバーグの2要因論では「動機づけ要因を刺激することによって満足感や動機づけを高めることができる」4)とされている。看護を語る会は、看護ケアや質に影響を与える(5)、チームワーク、モチベーションの向上に繋がる(4)とある。このカテゴリーから、普段聴くことのない他スタッフと語り合う中で、他者理解を深めながら他者を認め、自分も認められることで承認欲求を満たし、充実感と達成感を得ることに繋がり前向きな意見となったと考える。

ナラティブの場(看護を語る会)で、動機付け要因に働きかけ、モチベーションの向上やチームワークが良くなることで、働きやすい環境となり、質の高い看護を提供することができるのではないかと考える。 

自分の目指す看護の在り方について、すぐに描くことは難しい(5)、タイミング次第(1)とある。

今回、ナラティブの場(看護を語る会)を4回実施したが、語る会を継続し、リフレクションを繰り返すことで自分の内面に変化をももたらし、在りたい看護の姿を描くことができるのではないかと考える。

ナラティブの場(看護を語る会)を繰り返し行っていくことでぼんやりした考えや興味関心が輪郭を帯びたものとなり、次第に明確な在りたい看護の姿を描くことにつながるのではないかと考える。そのためには、ナラティブの場(看護を語る会)を継続して行い、聞き手と語り手どちらも経験することが必要となる。そして、病棟内だけにはとどまらず、他病棟、院内へとスケールを広げ、新しい看護観に触れる機会を作っていくことも必要なのではないかと考える。

【Ⅴ結論】

ナラティブの場(看護を語る会)を設けることで、今後の看護師像を描く機会となることがわかったが、将来の在りたい看護師像を明確に描くまでに至らなかった。

【おわりに】

今回、ナラティブの場(看護を語る会)を設けたことで、病棟スタッフが悩んでいることや日々どのように思い、考え看護に取り組んでいるかを知ることができた。また、自己を振り返る機会となり、今後の看護師としてのスキルアップにも繋がるきっかけになったためナラティブの場(看護を語る会)を継続させていきたい。

【利益相反】

本論文に関し、申告すべき利益相反はありません

【文献】
 
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