道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
オキサリプラチンの薬剤バイアル最適化(DVO)の導入について
加藤 駿人三浦 春香廣正 拓也阿部 桂祐土谷 祐之後藤 克宜佐々木 和也小室 一輝
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2025 年 8 巻 1 号 p. 55-56

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Abstract

【目的】当院は2024年6月からDPC対象病院となった。そこで薬剤部では経営的観点から薬剤購入費の削減の取り組みの一環として、抗がん薬の薬剤バイアル最適化(Drug Vial Optimization、以下DVO)の導入により複数患者での分割使用を行うため、導入前後の薬剤購入費及び微生物汚染の調査を行ったため報告する。 【対象・方法】2024年4月~2024年6月に使用したオキサリプラチン(以下l-OHP)の投与量を調製日ごとに集計し、単回利用と複数回利用した際の薬剤購入量、廃棄量を試算した。複数回利用は当日のみとし、閉鎖式接続器具(CSTD)を接続したバイアルを安全キャビネット内での保管とした。単回利用は最も安価な規格の組合せ、複数回利用は廃棄量が最小となる規格の組合せとした。DVOによる微生物汚染は最初の針刺しから6時間後の薬液を採取し、14日間培養後、培地を肉眼的に観察して汚染の有無を判断した。 【結果】調査期間のl-OHP総投与量は11,098.15mgであった。単回利用では購入薬価684,579円(114V)、廃棄量1,851.85mgであった。一方、複数回利用では購入薬価617,824円(85V)、廃棄量901.85mgであった。微生物の汚染はすべて見られなかった。 【考察・今後の検討】l-OHPのDVO導入により、薬剤購入費は使用バイアル数削減により減少させ、初回穿刺後6時間以内であれば微生物汚染なく使用可能であることが示された。今後はより長期の保存期間で使用可能であるか検討するとともに、他の薬剤でのDVO導入を検討したい。しかしDVO導入による問題点として、出来高請求患者への薬剤費請求は使用した分のみとなり、廃棄した薬剤費は施設負担となるため、薬剤選定が重要であると考える。

第77回道南医学会大会医学研究奨励賞推薦演題

【要旨】

当院は2024年6月よりDPC対象病院となった。これに伴い、薬剤部では経営的観点から薬剤購入費削減の取り組みの一環として、オキサリプラチン(以下L-OHP)を対象とした薬剤バイアル最適化(Drug Vial Optimization、以下DVO)の導入による複数患者での分割使用の検討を行った。DVO導入にあたり、導入前後の廃棄薬剤量、薬剤廃棄金額及び微生物汚染の調査を行ったため報告する。

【はじめに】

DVOとは、注射用バイアル製剤を複数患者に分割することで、残液を有効活用し廃棄薬剤を削減する取り組みである1)

現在、当院採用医薬品の中で抗がん剤の薬剤費は高い割合を占めている。そのため、高額である抗がん剤の廃棄が生じてしまうと経営的な負担が大きくなるため、薬剤部の取り組みとして厚生労働省から発出された「注射用抗がん剤の適正使用と残液の取扱いに関する手引きについて」2) (以下手引き)に則りDVOの導入検討に至った。

DVOの導入にあたり、当院では使用症例数が多く廃棄が生じやすいL-OHPを選定し、調査を行った。

【対象と方法】

1. 対象薬剤の規格選択及び試算方法

2024年4月から2024年6月に従来通りのバイアル単位の調製(以下単回調製)を行ったL-OHPの投与量を調製日ごとに集計したものと、バイアル製剤を複数回利用して、mg単位で調製(以下複数回調製)した際の廃棄薬剤量、薬剤廃棄金額を薬価にて試算し比較した。当院のL-OHPは50㎎製剤、100㎎製剤、200㎎製剤を採用しており、単回調製時の規格選択は最も安価な組み合わせとし、複数回調製の規格選択は廃棄薬剤量が最小となる組み合わせとした。

2. 対象薬剤の保管方法

複数回調製で使用するバイアルは閉鎖式接続器具(CSTD)での操作のみとし、製剤室に設置されたISO Class 5 相当の安全キャビネット内での保管とした。

3.微生物汚染試験方法・操作手順

当院の調製環境及び保管環境の無菌性を確認するため、1回穿刺したL-OHPのバイアルを6時間保管として短期試験を実施した。初回穿刺から6時間経過した薬液をシリンジ内に採取し、25℃の条件下のソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(n=5)及び37℃の条件下の液状チオグリコール酸培地(n=5)へ接種した。その後、14日間の培養を行い、肉眼的に観察して汚染の有無を確認した。

操作手順

  1.    初回穿刺から6時間保管したL-OHPのバイアルゴム栓をエタノール綿で同じ方向に2回清拭する。
  2.    シリンジに0.5mLのエアーを入れた後、シリンジ側のCSTDを装着する。
  3.    バイアル側のCSTD表面をエタノール綿で同じ方向に2回清拭する。
  4.    薬液0.8mLをシリンジ内に測り取り、培地に接種する。
  5.    14日間の培養を行い、肉眼的に観察して汚染の有無を確認した。

【結果】

1.廃棄薬剤量及び薬剤廃棄金額

 単回調製時と複数回調製時の廃棄薬剤量、薬剤廃棄金額の比較を表に示す。(表1

L-OHP単回調製時の各規格の廃棄薬剤量及び薬剤廃棄金額は50㎎製剤で1,072㎎及び59,066円となり、100㎎製剤で210㎎及び12,104円、200㎎製剤で570mg及び28,239円であった。合計で廃棄薬剤量は1,852㎎、薬剤廃棄金額は99,410円、薬剤廃棄率は14.3%であった。

複数回調製時での薬剤廃棄量は902㎎、薬剤廃棄金額は48,412円、薬剤廃棄率は7.5%と試算された。また、調査期間内において非DVO時とDVO時の廃棄薬剤量の差は950mgとなった。

2.微生物汚染試験

本条件下においていずれの培地でも微生物汚染は見られなかった。

【考察】

今回の調査ではDVO導入により、48.7%の廃棄薬剤量及び薬剤廃棄金額の削減が可能であると示された。また、微生物汚染試験では本条件下で初回穿刺から6時間以内の調製環境の無菌性が示された。  

手引きでは「ISO Class5※相当の無菌室内の保管庫等で保管した場合、初回穿刺後 7日間まで使用できる。」2) としている。

このことから、当院ではバイアルの保管期間を7日間としたDVOの運用を視野に入れている。ただ、保管期間が当日以降の保管はISO Class5相当の環境を用意する必要がある。

そこで、先行研究3) を参考にし、DVO対象バイアルを滅菌サンプリングバッグにて密封し、開閉は安全キャビネット内のみの操作・保管とすることで、ISO Class5相当の環境を保つことを検討している。

【今後の展望】

今回、L-OHPのDVO導入に向けての取り組みを行ったが、これらの運用が開始されれば他の抗がん剤についてもDVO導入の検討が可能となる。DVO対象薬剤が増えることにより、さらなる薬剤費削減に繋がることが期待される。

※手引きで示しているISO Class5環境

・調製環境:安全キャビネット(ISO Class5相当)

・保管環境:無菌室内保管庫(ISO Class5相当)

【利益相反】

本論文に関し、申告すべき利益相反はありません

表1 廃棄薬剤量及び薬剤廃棄金額の比較

図1 廃棄薬剤量及び薬剤廃棄金額の比較

【文献】
  • 1)  研究代表者 加藤裕久.「注射用抗がん剤等の適正使用と残液の取扱いに関するガイドライン作成のための研究」平成29年度 総括・分担研究報告書57-64.2018;3
  • 2)  厚生労働省:注射用抗がん剤の適正使用と残液の取扱いに関する手引きについて 第1回 医薬品医療機器制度部会 参考資料2.2018;4.11
  • 3)    全並 美穂, 伊藤 佳織, 柘植 雅大,他.大規模大学病院におけるラムシルマブのdrug vial optimization(DVO)導入による医療費削減効果.日本病院薬剤師会雑誌2023;59:1272-1276
 
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