2025 年 8 巻 1 号 p. 57-60
【目的】当院におけるSupine-position ERCPについて後方視的に検討し有用性を明らかにすること。【対象と方法】2016年4月から2024年7月までの期間で、Supine-position ERCPを施行した38症例(83件)を対象に、1)ERCPにおける施行率、2)患者背景と適応、3)初回乳頭における胆管挿管率、4) 胆管挿管不成功例への対応、5)偶発症、6) 複数回施行例における体位の変化について検証した。【結果】1)施行率は5.6% (83/1,488)であった。2) 男性16例、女性22例で平均年齢は83.0歳(複数施行例については初回時年齢)であった。適応は集中治療を要する患者11例(術中患者2例、術後患者7例、敗血症患者2例)、整形学的疾患患者12例(大腿骨骨折後5例、腰椎圧迫骨折後4例、恥骨骨折後1例、亀背2例)、脳血管疾患患者15例(脳梗塞6例、脳出血2例、認知症4例、脳性麻痺2例、パーキンソン病1例)であった。3)挿管率は91.7%(22/24)であった。4) 不成功は2例であった。1例目は肝機能障害で施行したが、その後肝胆道系酵素の増悪を認めず経過観察となった。2例目は胆嚢癌で胆道ドレナージ目的に施行したが、高齢のため追加ドレナージは行わず緩和ケアの方針となった。5) ENBDチューブトラブル2例であった。6) 廃用進行によりLeft lateral-positionで胆管ステント交換を行った症例が3例存在した。【結語】Supine-position ERCPは1)集中治療を要する患者、2)整形外科的疾患患者、3)脳血管疾患患者に有用であり、技術的難易度が高いことから適応症例を限定して行うべきである。また超高齢者の場合は患者の全身状態に合わせて体位選択にLeft lateral-positionを加える必要がある。
第77回道南医学会大会道南医学会ジャーナル推薦演題
2016年4月から2024年7月までの期間でSupine-position ERCPを施行した38症例(83件)を対象として、後方視的に検証した。Supine-position ERCPの施行率はERCP全体の5.6% (83/1,473)であり、適応は集中治療を要する患者11例(術中患者2例、術後患者7例、敗血症患者2例)、整形学的疾患患者12例(大腿骨骨折後5例、腰椎圧迫骨折後4例、恥骨骨折後1例、亀背2例)、脳血管疾患患者15例(脳梗塞6例、脳出血2例、認知症4例、脳性麻痺2例、パーキンソン病1例)であった。Supine-positionでの初回乳頭における胆管挿管率は91.7%(22/24)であり、Prone-positionでの胆管挿管率96.1%(543/565)と有意差を認めなかった(P = 0.28)。偶発症はENBDチューブトラブル2例であった。複数回施行例の中に廃用進行によりLeft lateral-positionで胆管ステント交換を行った症例が3例存在した。以上からSupine-position ERCPはうつ伏せになるのが困難である1)集中治療を要する患者、2)整形外科的疾患患者、3)脳血管疾患患者に適応がある。また超高齢者の場合は患者の全身状態に合わせて体位選択にLeft lateral-positionを加える必要がある。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)および関連手技における患者の体位は、乳頭の視認性と胆管挿管が容易であることから腹臥位(Prone-position)が基本とされている1) 。Prone-position ERCPは患者と正対して検査や処置ができるため伝統的に内視鏡医に好まれている2) 。一方で仰臥位(Supine-position)でのERCPは麻酔科医が患者を綿密に観察しモニタリングできる利点があるために、集中治療室で治療を受けている患者や全身麻酔下に挿管されている患者に適している3) 。うつ伏せになるのが困難な患者(頚髄損傷、頚椎や首の手術後に伴う頚部運動制限、パーキンソン病、脳梗塞後の拘縮、腹部膨満、腹水、直近の腹部手術後、重度肥満、妊娠、解剖学的異常)にはSupine-positionもしくは左側臥位(Left lateral-position)でERCPが行われる4),5) 。Left lateral-position ERCPは膵管誤挿管率が高いため症例を限定して行うべきであると報告されている6) 。
基本的にProne-positionでERCPを施行する。集中治療室で治療を受けている患者、全身麻酔下に挿管されている患者、うつ伏せになるのが困難な患者はSupine-positionで施行する。頚部の可動性に制限がある、超高齢で廃用による拘縮が進んでいる等の理由でSupine-positionでの施行が困難な場合には、Left lateral-positionでの施行を検討する。
当院におけるSupine-position ERCPについて後方視的に検討し、その有用性を明らかにすること。
2016年4月から2024年7月までの期間で、Supine-position ERCPを施行した38症例(83件)を対象に、1)ERCPにおける施行率、2)患者背景と適応、3)初回乳頭における胆管挿管率、4) 胆管挿管不成功例への対応、5)偶発症、6) 複数回施行例における体位の変化について検証した。なお複数回のERCPを施行した患者が存在することから、「症例数は患者数,件数はERCP施行件数」と定義した。
1)Supine-position ERCPの適応症例
当院のストラテジーにおけるSupine-position
ERCPの適応は全体の5.6%であり、集中治療を要する患者、整形外科的疾患患者、脳血管疾患患者に大別された。既報4),5),7) と同様の症例とともに、骨折・亀背といった整形学的疾患や認知症といった脳血管疾患を有する症例の中でうつ伏せになるのが困難な場合には、Supine-positionの適応を考慮する必要性がある。
2)胆管挿管率と偶発症
Supine-positionとProne-positionによるERCP に関する比較研究が報告されている3),5),8),9) 。Terruzziらは34 人を対象とした前向きランダム化研究を実施し、胆管挿管率はSupine-position 70%、Prone-position 100%でありSupine-positionは内視鏡医にとって技術的に難易度が高く、心肺系の有害事象のリスクが高いと報告した3) 。Tringali らは120人を対象とした前向き研究を実施し、胆管挿管率と合併症ともに差はなかったと報告した8) 。FerreiraとBaronは649人を対象とした後ろ向き研究で、胆管挿管率や合併症に差はないが、Supine-positionでは処置難易度が有意に高いことを報告した9) 。難易度が高い理由として内視鏡医のProne-positionへの“慣れ”だけではなく、Supine-positionでは術者が側視鏡のハンドル(操作部)を90°時計回りにひねりながらもしくは患者に背を向けてERCPを行う必要があるとされている8),9) 。これらの研究には単一施設もしくは一人の熟練した内視鏡医による経験といったlimitationがあるためにOsagiedeらは21,090 人を対象とした大規模な後ろ向きコホート研究を実施し、胆管挿管率はSupine-position 89.1 %、Prone-position 91.4%で有意差があることを示した5)。本検討での胆管挿管率は91.7%であり、Prone-positionでの胆管挿管率96.1%(543/565)と有意差を認めなかった。また偶発症はENBDチューブトラブル2件のみであり、心肺系の有害事象は認めなかった。
以上からSupine-position ERCP はProne-position ERCPと比較し偶発症に影響はなく、熟練した内視鏡医が施行した場合には胆管挿管率にも影響はないと考えられる。
3)Left lateral-positionについて
超高齢者(90歳以上)においては心肺系や脳血管系などの基礎疾患を有し、加齢に伴う身体機能の低下もあることから、ERCPを行う場合慎重な対応が必要となる10),11) 。内視鏡医は超高齢者におけるERCP施行にあたり、患者の全身状態に合わせてLeft lateral-positionも考慮する必要がある。
Supine-position ERCPはうつ伏せになるのが困難である1)集中治療を要する患者、2)整形外科的疾患患者、3)脳血管疾患患者に適応がある。また超高齢者の場合は患者の全身状態に合わせて体位選択にLeft lateral-positionを加える必要がある。
本論文内容に関連する著者の利益相反なし
表1 Supine-position ERCPを施行した38症例のまとめ