2025 年 8 巻 1 号 p. 77-79
【緒言】正常な関節機能は、動作を自由かつ円滑に遂行するために不可欠な要素である。関節機能を正常に維持するためには関節内外の循環環境が保たれている必要があり、近年、その恒常性維持にリンパ管が重要な役割をはたしていることが報告されている。しかし、長期固定などによって生じる関節拘縮に伴うリンパ管の病態学的変化は十分に検討されていない。そこで今回、ラット後肢拘縮モデルを作製し、関節包におけるリンパ管を含む循環環境の変化を明らかにすることを目的として、実験系構築のための予備実験を行ったので報告する。【方法】Wistar系雄性ラット1匹を3種混合麻酔薬腹腔内投与による深麻酔下で右膝関節伸展位・足関節底屈位でギプス固定し、ギプス装着下で1週間飼育した。1週間後、深麻酔下でギプスを除去し、関節拘縮の有無を評価するために、右膝関節屈曲・足関節背屈の関節可動域(ROM)を測定した。その後、ラットを安楽死させ、右膝関節・足関節を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液にて4℃で24時間浸漬固定した。固定後、10%EDTA溶液で脱灰し、パラフィン包埋をした。得られたパラフィンブロックを5µm厚で薄切し、HE染色ならびにリンパ管マーカーであるLYVE-1に対する免疫染色を行った。対照群のラット(2匹)に対しては、ギプス固定以外の上記と同様の操作を行った。【結果】対照群ならびに固定前のROMと比較して、固定後の膝関節・足関節のROMは小さくなっており、また固定により部分的な滑膜内皮の肥厚や線維性組織の増生がみられた。LYVE-1はリンパ管のみならず、A型滑膜細胞などのマクロファージ(MΦ)系細胞も標識した。【考察】本モデルは関節拘縮を惹起するモデルとして有用と考えられるが、リンパ管を正確に識別するためにはLYVE-1以外の抗体も用いる必要がある。今後は、標本数を増やすとともに、他のリンパ管マーカーやMΦマーカーを試し、実験系の構築に向けて詳細に検討していく。
第77回道南医学会大会道南医学ジャーナル推薦演題
近年、関節内の循環環境の恒常性維持にリンパ管が重要な役割を果たすことが示されている。しかし、長期固定による関節拘縮に伴うリンパ管の病態学的変化は十分に解明されていない。そこで本研究では、ラット後肢拘縮モデルを作製し、関節拘縮に伴う関節包内リンパ管の変化を観察する実験系を構築することを目的とした。Wistar系雄性ラットを膝関節伸展位・足関節底屈位にギプス固定し、1週間飼育した。そして、関節可動域(ROM)を測定後、固定関節を採取し、固定・脱灰・パラフィン包埋後、HE染色およびLYVE-1免疫染色を行った。その結果、固定後のROMは対照群や固定前と比較して低下し、線維性組織の増生が確認された。また、固定肢ではLYVE-1陽性リンパ管の減少が見られたが、LYVE-1はマクロファージ系細胞も標識した。これらの結果から、本モデルは関節拘縮に伴うリンパ管の変化の研究に有用だが、リンパ管識別には他の抗体併用が必要と考える。今後は標本数を増やし、他のマーカーを用いて検討を進める。
正常な関節機能は、自由な身体活動を遂行するために不可欠な要素であり、この機能を維持するためには、関節内の循環環境が整っている必要がある1) 。関節内の栄養供給は、滑液によって担われているが、その吸収においては関節包に分布するリンパ管が担っていることはあまり知られていない。そのため関連する病態学的変化やそのメカニズムに関しても多くの不明な点が存在している1) 。
リンパ管は、組織中の余剰な間質液や老廃物を回収し、体液循環の恒常性を維持するだけでなく、免疫機能においても重要な機能を果たしている2) 。また、リンパ管におけるリンパの流れにおいては筋収縮をはじめとする周囲からの物理刺激に依存するところが大きく、リンパ管の形態形成には物理刺激が重要な役割を果たすことが示唆されている3) 。しかし、臨床現場で散見される運動器の廃用に伴うリンパ管の機能および形態の変化に関しては、依然として多くの未解明な点が存在している4) 。中でも、長期の固定や不活動によって生じる関節拘縮は、関節包における循環を著しく阻害し、機能障害を長期化させる要因となっている。そこで今回、ラット後肢拘縮モデルを作製し、関節包におけるリンパ管を含む循環環境の変化を明らかにすることを目的として、実験系構築のための予備実験を行ったので報告する。
8週齢のWistar系雄性ラット5匹を対象とした。ラットは、一定の室温(24~26℃)で管理された所属施設の実験動物飼養保管室にて 1 ケージ1~2匹で飼育され、固形飼料と水分は自由に摂取可能であった。
対象ラットをギプス固定群3匹、対象群2匹に無作為に振り分け、3種混合麻酔薬腹腔内投与による深麻酔下で、膝関節屈曲ならびに足関節背屈の関節可動域(ROM)を測定した。その後、ギプス固定群は深麻酔下で両膝関節伸展位・足関節底屈位でギプス固定し、ギプス固定下で1週間飼育した。なお、ギプス固定後もケージ内を自由に移動でき、また自由に給水、給餌可能となるように給水器、給餌器の場所に配慮した。
1週間経過後、深麻酔下でギプスを外して、再度膝関節屈曲ならびに足関節背屈のROMを測定した。その後、バルビツール系麻酔薬の腹腔内大量投与により安楽死処置を実施し、直ちに膝関節ならびに足関節を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液中で浸漬固定を行った。1日間固定後、りん酸緩衝生理食塩水で水洗し、10%EDTA溶液中で脱灰処理を行った。脱灰後は、パラフィン包埋を行い、膝関節ならびに足関節の切片を作製した。
得られた切片に対しては、アザン染色ならびに1次抗体として抗マウスLYVE-1抗体 (R&D systems)を用いてリンパ管に対する免疫染色を実施し、光学顕微鏡にて観察した。
対照群のラットに対しては、ギプス固定以外の上記と同様の操作を行った。
なお、本研究は函館市医師会看護・リハビリテーション学院動物実験委員会の承認(001号)を得て実施した。
ギプス固定した後肢の内、ギプスが噛みちぎられるなどして外れ、1週間固定を継続できたものは3匹の内の1匹の右後肢のみ(以下、固定肢)であった。
対照群ならびに固定前のROMと比較して、固定肢の膝関節屈曲ならびに足関節背屈のROMは小さくなっていた(表1)。また固定肢では関節包の線維性組織の増生がみられた(図1)。さらに固定肢では関節包のリンパ管が少なくなる傾向がみられたが、LYVE-1はリンパ管のみならず、A型滑膜細胞などのマクロファージ系細胞も標識した(図2)。
本研究は、関節拘縮に伴う関節包内リンパ管の病態学的変化を観察する実験系を構築することを目的とし、本研究結果から関節のギプス固定に伴い、ROMの低下、関節包の線維性組織の増生が認められた。
関節拘縮モデルを用いた先行研究においても、関節固定に伴い、その病態学的変化として、ROMの低下、線維性組織の増生が報告されており、本研究モデルと同様の結果を示している5) 。これらのことから本モデルは関節拘縮モデルとして有用と考える。
一方、本研究ではラットにギプスを噛みちぎられてしまい、多くの後肢で継続した関節固定が困難であった。ラットからギプスを噛みちぎられるのを防ぐために、ギプスの上から金網をかぶせている報告6) もあり、今後はギプスを保護する方法を検討する必要がある。
また、本研究結果から関節拘縮に伴い、関節包のリンパ管が減少する傾向が認められた。これは、これまで報告されていない新しい知見である。一方で、使用したLYVE-1抗体は、A型滑膜細胞などのマクロファージ系細胞も標識しており、この抗体のみでリンパ管を正確に識別するには限界がある。今後は、他のリンパ管マーカーであるVascular endothelial growth factor receptor 3やマクロファージの抗体なども用いてリンパ管を正確に識別する必要がある。
さらに本研究の限界として、標本数が少なかったことがあげられる。今後は上記問題点を解決しながら、標本数を増やし関節拘縮に伴うリンパ管の病態学的変化を明らかにしていく。
本研究結果から今回の実験系が、関節拘縮に伴う関節包におけるリンパ管を含む循環環境の変化を観察する実験系として有用であることが示唆された。今後はギプスの保護方法やマーカーを検討することで問題点を解決し、さらに標本数を増やすことで、関節拘縮に伴う関節包リンパ管の病態学的変化を明らかにできると考える。
本論文内容に関連する著者の利益相反なし
表1 関節可動域の比較(単位:度)
ギプス固定群は1週間継続してギプス固定ができた1匹の右後肢(固定肢)のみ記載

ギプス固定群は1週間継続してギプス固定ができた1匹の右後肢(固定肢)のみ記載
図1 膝関節外側関節包のアザン染色像
対照群に比べ、固定群で滑膜下層の線維が増生し、太いコラーゲン線維の束が密に分布している。

対照群に比べ、固定群で滑膜下層の線維が増生し、太いコラーゲン線維の束が密に分布している。
図2 膝関節外側関節包のLYVE-1免疫染色像
矢印はリンパ管、矢頭はA型滑膜細胞を示す。対照群に比べ、固定肢でリンパ管が減少している。LYVE-1はA型滑膜細胞も標識している。

矢印はリンパ管、矢頭はA型滑膜細胞を示す。対照群に比べ、固定肢でリンパ管が減少している。LYVE-1はA型滑膜細胞も標識している。