道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
入学後の学習動機づけの経時的変化と成績との関係
-成績上位群と下位群の比較-
工藤 達也古館 裕大小西 宏明
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2025 年 8 巻 1 号 p. 89-92

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Abstract

【背景】理学療法士・作業療法士養成校においては、初めて学習する医療専門科目に挫折し、1年次に留年または退学する学生も少なくない。このような学生の成績不振による留年、退学の背景には、学習意欲の低下が影響しているとされている。学習意欲に影響を与える要因の1つとして学習動機づけが挙げられており多くの研究がなされているが、1年次学生の学習動機づけの経時的変化と成績の関係について調査している研究はほとんどない。そこで今回、 1年次学生の学習動機づけの経時的変化と成績の関係についての調査を行ったので報告する。【対象と方法】本学院の1年生58名を対象に、学習動機づけに関するアンケートを4月~7月の計4回、いずれも上旬に実施した。アンケートは自己決定理論に基づく4つの下位尺度(外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,内的調整)について各3~5項目ずつ、計14項目の質問で構成され、回答方法は全項目で5件法のリッカート尺度(1:あてはまらない,5:あてはまる)とした。成績に関しては、前期定期試験結果のGPAを点数順に並び変え、成績の上位25%と下位25%のアンケート結果の得点分布について平均値と標準偏差で要約した。また、学習動機づけに影響を与える要因として1週間の平均勉強時間、スマートフォン使用時間についてもアンケートと同時に回答をしてもらった。【結果】アンケートの下位尺度である外的調整、取入れ的調整、同一化的調整については、成績上位群と下位群で同様の傾向であったが、内的調整に関しては、4つの時期において下位群のほうが低い傾向であった。また、スマートフォン使用時間に関しては、下位群のほうが多い傾向であった。【結語】学生の知的好奇心による自発的な学習状態を示す内的動機づけと成績の関係性が示唆された。早期から内的動機づけを高められるような講義を展開することで学生の成績向上に寄与できるものと考える。

第77回道南医学会大会一般演題

【要旨】

理学療法士・作業療法士養成校においては、成績不振により1年次に留年または退学する学生も少なくない。その要因の1つとして学習動機づけが挙げられているが、1年次学生の学習動機づけの経時的変化と成績の関係について調査している研究はほとんどない。そこで本研究では、1年次学生の学習動機づけの経時的変化と成績の関係について明らかにすることを目的とした。本学院の1年生58名を対象に、学習動機づけに関するアンケートを4月~7月の計4回実施し、成績の上位25%と下位25%のアンケート結果の得点分布について平均値と標準偏差で要約した。また、学習動機づけに影響を与える要因として1週間の平均勉強時間、スマートフォン使用時間についても回答をしてもらった。結果として、アンケートの下位尺度である内的調整に関しては、4つの時期において下位群のほうが低い傾向であった。また、スマートフォン使用時間に関しては、下位群のほうが多い傾向であった。結果より、学生の知的好奇心による自発的な学習状態を示す内的動機づけと成績の関係性が示唆されたことから、早期から内的動機づけを高めることで学生の成績向上に寄与できるものと考える。

【はじめに】

近年、理学療法士・作業療法士養成校は増加の一途を辿っており、様々なタイプの学生が入学するようになってきている。その中には初めて学習する医療専門科目に挫折し、1年次に留年または退学する学生も少なくない。このような学生の成績不振による留年、退学の背景には、学習意欲の低下が影響しているとされている1)

学習意欲に影響を与える要因として、養成校への適応度、対人関係、精神的健康度などに加え、学習への動機づけ(以下、学習動機づけ)などが挙げられている2) 。学習動機づけに対する研究の枠組みとして自己決定理論(Deci, Vallerand,Pelletier, & Ryan, 1991;櫻井,2009)が広く知られており、「自律性」「自己決定性」の程度により、学習意欲を分類している3) 。また、梅本ら4) によると大学生における学習動機づけと期末試験との関係については、学習動機づけと期末学習時間や期末試験結果との間に正の相関がみられたとされている。このように、自己決定理論を枠組とした研究では、自律的な動機づけの変数が、成功や達成などポジティブな結果に結びつき、非自律的な、コントロールされた動機づけは、退学などのネガティブな結果に結びつく(e.g., Vallerand, etal.,1997)、などの知見が得られている3) 。しかしながら、学生、特に1年次学生の学習動機づけが入学時から期末試験までの間でどのような変化を辿るのか経時的に調査している報告は見当たらない。

そこで本研究は、理学療法士・作業療法士養成校に通う1年次学生の学習動機づけがどのように変化しているのか、定期的なアンケート調査を実施し、成績との関係性について明らかにすることとした。

【対象と方法】

1.対象者

対象は、本研究に同意が得られた本学院に通う1年次学生で理学療法学科学生33名および作業療法学科学生25名とした。なお、本研究は函館市医師会看護・リハビリテーション学院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号019)。

2.方法

学習動機づけの調査には安藤5) が作成した学習動機づけアンケートを使用した。アンケートは自己決定理論に基づくもので、対象者の学習動機づけを自己決定の程度から外的調整、取入れ的調整、同一化的調整、内的調整の4つの下位尺度に分類している。外的調整は「周囲に言われて」、「怒られないよう」になど報酬や罰回避による動機づけであり、最も非自己決定的とされている。取入れ的調整は「やらないと不安だから」、「恥をかくから」など自尊心や周囲の期待に応えるためという動機づけであり、同一化的調整は「個人的に重要と感じている」、「将来のために必要な行動である」など価値の重要性の認知による動機づけである。内的調整は「純粋に学習が楽しい」、「おもしろい」などの知的好奇心による動機づけであり、最も自己決定的とされている。今回用いたアンケートは4つの下位尺度で各3~5項目ずつ、計14項目の質問で構成される(表1)。回答方法は全ての項目で5件法のリッカート尺度(1:あてはまらない、5:あてはまる)とした。また、学習動機づけのアンケートと合わせて、学習動機づけに影響を与える要因として考えられる1週間の平均勉強時間と1日の平均スマートフォン使用時間について自由記載形式で回答してもらった。アンケート調査は学習動機づけの経時的変化を把握するため4月上旬(入学直後)、5月上旬(GW明け)、6月上旬(中間試験前)、7月上旬(中間試験後)の計4回で実施した。

成績に関しては、7月31日~8月2日の期間で実施された前期定期試験において理学療法学科・作業療法学科で共通の試験内容であった10科目の成績を用いて算出した成績評価値であるGrade Point Average(以下、GPA)を点数順に並び変え、成績の上位25%(以下、成績上位群)と下位25%(以下,成績下位群)の2群を求めた。成績上位群、成績下位群ともに計4回のアンケート結果について、4つの下位尺度と1週間の平均勉強時間と1日の平均スマートフォン使用時間のそれぞれ平均値と標準偏差を算出し、比較検討を行った。

【結果】

学習動機づけアンケートにおいて、自己決定理論の下位尺度である外的調整、取入れ的調整、同一化的調整については、成績上位群と成績下位群で同様の傾向を示したが、内的調整に関しては、成績下位群のほうが全ての時期において低い傾向を示した。また、4つの下位尺度全てで、各時期において平均値は同様の値を示した(図1)。

1週間の平均勉強時間においては、成績上位群が4月から6月にかけ徐々に平均値が上がっているのに対して、成績下位群では同様の傾向を示しており、また6月時点において成績上位群のほうがわずかに平均値が高い傾向を示した。

1日のスマートフォン使用時間に関しては、成績下位群のほうが全ての時期において平均値が高い傾向を示した(図2)。

【考察】

本研究は、理学療法士・作業療法士養成校に通う1年次学生の学習動機づけの経時的変化と成績の関係について明らかにすることを目的に計4回のアンケート調査を実施した。調査の結果から、自己決定理論の下位尺度である内的調整に関して、成績下位群のほうが全ての時期で低い傾向であったことから、学生の知的好奇心による自発的な学習状態を示す動機づけである内的調整が成績に影響を与える可能性が示唆された。

また、1週間の平均勉強時間において、成績上位群では6月が最も平均値が高くなったが、調査時期が中間試験前であったことから好成績を獲得するために勉強時間を増やしていったことが考えられる。

一方で、成績下位群では1日のスマートフォン使用時間の平均値が全ての時期で成績上位群よりも高かったことから、長時間のスマートフォンの使用により勉強時間の確保に至らなかったことが考えられる。しかしながら、今回スマートフォンの使用目的に関して調査を行っておらず、学生の中には勉強目的でスマートフォンを使用するものも少なくなく、今後の課題として、使用目的に関する調査を実施する必要があると考える。

【結論】

学生の知的好奇心による自発的な学習状態を示す内的動機づけと成績の関係性が示唆された。早期から内的動機づけを高められるような講義を展開することで学生の成績向上に寄与できるものと考える。

【利益相反】

本論文内容に関連する著者の利益相反なし

表1 自己決定理論に基づく4つの下位尺度と14項目の質問項目

表1 自己決定理論に基づく4つの下位尺度と14項目の質問項目

図1 学習動機づけアンケートの結果

図1 学習動機づけアンケートの結果

図2 1週間の平均勉強時間と1日のスマートフォン使用時間の結果

図2 1週間の平均勉強時間と1日のスマートフォン使用時間の結果

【参考文献】
 
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