道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
ステロイド治療にて改善した免疫関連有害事象による膵炎の2例
山﨑 翔太, 常盤 孝介, 荒井 悠久, 鈴江 瞬太, 大久保 陽介, 伊早坂 舞, 古川 滋, 井上 宏之, 笠原 薫, 小林 寿久, 矢和田 敦
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2026 年 9 巻 1 号 p. 5-9

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Abstract

【症例1】70歳代女性【現病歴】当院呼吸器内科にて右上葉肺癌にてX年10月からニボルマブ+イピリムマブを開始された。X+1年2月に心窩部痛・嘔気にて受診し、血液検査でAMY・CRP高値とCTで膵腫大・周囲脂肪織濃度上昇を認め膵炎疑いにて当科紹介・入院となった。補液・抗生剤加療を行ったが改善が得られず、再度撮影したCTでも増悪を認めた。IgG4は正常範囲であった。経過からirAE膵炎を疑いPSL30mg/日による診断的加療を開始した。PSL開始後は速やかに症状・炎症反応が改善を認めた。その後PSL漸減し再燃なく経過している。【症例2】60歳代女性【現病歴】当院呼吸器内科にて両葉肺癌にて化学療法が施行されていた。X年7月に発熱・心窩部痛にて受診、血液検査にてCRP高値、CTにて膵のびまん性腫大の所見を認め膵炎疑いにて当科紹介となった。急性膵炎に準じて加療開始も症状の改善はみられなかった。アルコール多飲歴や胆石・膵石を認めず、IgG4は正常範囲であった。X-1年1月から3月にアテゾリズマブ による治療が施行されており、irAE膵炎が疑われた。EUS-FNAを施行し、病理像では軽度の線維化、炎症細胞浸潤を伴う膵組織を認めた。PSL50mg/日による加療を開始すると速やかに症状・炎症反応の改善を認め、漸減後も再燃なく経過している。【考察】irAE膵炎はirAEの中でも稀な事象であるが、近年のICIの使用頻度の増加に伴い報告が増加している。ICI使用歴のある患者での膵炎を認めた際には鑑別診断として考慮する必要がある。治療法は確立していないがその他のirAEと同様にステロイドでの加療が第1選択とされており、重症化する前の適切な介入が望まれる。

第28回道南医学会医学研究奨励賞(医師部門)

【要旨】

免疫関連有害事象(irAE)の中でも膵炎は稀な事象であるが、近年の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の使用頻度の増加に伴い報告が増加している。ICI使用歴のある患者で膵炎を認めた際には鑑別診断として考慮する必要がある。日本ではirAE膵炎に対する治療法は明確ではないが、その他のirAEと同様にステロイドでの加療が第1選択とされており、重症化する前の適切な介入が望まれる。irAE膵炎に対してステロイド加療が奏功した2例を報告する。

【緒言】

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、様々な悪性腫瘍に対する治療において重要な選択肢となり、適応が拡大してきている。一方でICIでは自己免疫疾患様の多岐にわたる副作用を引き起こすことがあり、これらの免疫に関与した副作用は免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれている1)。

ICI使用例の増加に伴い、irAEの報告が増加している。irAEはあらゆる臓器系に影響を及ぼす可能性があるが、典型的には皮膚や消化器系、肝臓、内分泌系に関与する1)。膵炎の頻度は0.5~1.4%とされており2)3)4)、irAEの中でもまれである。今回は当院にてirAE膵炎に対してステロイド加療が奏功した2例を報告する。

【症例呈示】

1)症例1

患者:70歳代、女性

主訴:心窩部痛、嘔気

既往歴:高血圧、脂質異常症

内服薬:ニフェジピン、ピタバスタチン、ロサルタン、ボノプラザン、イトプリド

飲酒歴:なし

現病歴:当院呼吸器内科にて右上葉肺腺癌で加療中であった。X-1年10月から初回治療としてNivolumab+Ipilimumabを開始された。2コース目まで投与されたが、X年2月に心窩部痛・嘔気を主訴に受診し、血液検査にてAmy・CRP高値、CTにて膵腫大・周囲脂肪織濃度上昇を認め膵炎が疑われ消化器内科に紹介となった。

初診時所見:身長149.6cm、体重55.2㎏。体温36.5℃、脈拍 85/min、血圧 144/82mmHg、SpO2 95%(room air)、意識清明、腹部は平坦、軟で心窩部に圧痛を認めた。

血液検査所見:WBC:6,400/μL、Neutro:67.1%、CRP:4.63mg/dL、Amy:472U/L、P-Amy:434U/L、リパーゼ:1,913U/L、IgG4:18.4mg/dLとアミラーゼなどの膵酵素の上昇、CRPの上昇を認めた。

画像所見:初診時の造影CT(図1a)。 では膵の腫大と周囲脂肪識濃度上昇が認められたが、膵実質の造影不良域は指摘されず、明らかな胆石は認められなかった。MRIでも同様の所見を呈し、主膵管の拡張は軽度で膵癌を疑うような所見は認められなかった。

経過:入院にて急性膵炎の診断で絶食・大量補液で加療を開始した。保存的治療で症状の改善を認めず、再検した造影CTでも膵炎の増悪傾向を認めた。ICIの使用歴からirAE膵炎を強く疑い、入院後9日目より診断的加療としてステロイド30㎎/日を開始した。開始後は速やかに症状の改善を認めた。ステロイド漸減後も再燃なく経過し、入院後19日目にステロイド20㎎/日で退院となった。その後外来通院にてステロイド漸減を続けるも症状の再燃を認めていない。治療開始3カ月後の造影CT(図1b)でも膵炎の改善を認めた。治療開始4か月後にはステロイド5㎎/日まで減量できている。その後、ICIの再開はされていない。

2)症例2

患者:60歳代、女性

主訴:発熱、心窩部痛

既往歴:便秘、慢性湿疹

内服薬:センノシド、ベポタスチン

飲酒歴:なし

現病歴:当院呼吸器内科にて右下葉扁平上皮癌、左上葉肺腺癌に対してX-2年8月より初回治療としてCarboplatin+nab-Paclitaxel、X-2年12月より2nd lineとしてAtezolizumab、X-1年8月よりSotorasib、X-1年8月よりAtezolizumab投与が再開され、X年3月までAtezolizumabが3コース投与された。その後、左上葉肺腺癌の病態が進行したため、X年5月~6月までCarboplatin+nab-Paclitaxelを4コース施行した。X年7月に発熱・心窩部痛を主訴に受診し、血液検査にてCRP高値、CTにて膵のびまん性腫大の所見を認め膵炎を疑われ消化器内科紹介となった。

初診時所見:身長150.8cm、体重42.1㎏、体温 36.6℃、脈拍 111/min、血圧 129/87mmHg、SpO2 95%(room air)、意識清明。腹部は平坦、軟で左季肋部~心窩部に圧痛を認めた。

血液検査所見:WBC:6,800/μL、Neutro:88.4%、CRP:11.44mg/dL、Amy:99U/L、P-Amy:76U/L、リパーゼ:348U/L、IgG4:11.6mg/dLと膵酵素の上昇、CRPの上昇が認められたが、IgG4は正常だった。

画像所見:初診時の造影CT(図2a)では膵の腫大と周囲脂肪識濃度上昇が認められたが、膵実質の造影不良域は指摘されず、明らかな胆石は認められなかった。MRIでも同様の所見を呈し、主膵管の拡張は軽度で膵癌を疑うような所見は認められなかった。EUS(図3a)を施行し、膵実質はびまん性低エコー像を示し、慢性膵炎様の分葉状エコー像を示していた。明らかなcapsule-like rimや膵管の狭小化・拡張は認めなかった。膵体部に22G針を用いて超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を施行した。病理(図3b,c)では軽度線維化の加わった膵組織を認め、炎症細胞浸潤も軽度認められたが、閉塞性静脈炎やIgG4 陽性形質細胞といったIgG4関連疾患を疑うような特異的な所見は認められなかった。また悪性所見も認められなかった。

経過:入院にて急性膵炎治療に従って絶食・大量補液で加療を開始したが、症状の改善を認めなかった。経過からirAE膵炎を疑い入院後7日目よりステロイド50㎎/日による診断的加療を開始し、開始後は速やかに症状の改善を認めた。ステロイド漸減後も再燃なく経過したため入院後20日目にステロイド30㎎/日で退院となった。その後外来通院にてステロイド漸減を続けるも症状の再燃なく、治療開始2カ月後の造影CT(図2b)でも膵炎の改善を認めている。治療開始3か月後にはステロイド5㎎/日まで膵炎の再燃なく減量できている。その後、ICIの再開や化学療法は行われていない。

【考察】

irAE膵炎はICIの有害事象として稀に認められる。しかし、診断基準や治療法は日本では確立されていない。

irAE膵炎の診断は急性膵炎ガイドラインの基準を参考に、1)上腹部に急性腹痛発作と圧痛、2)血中または尿中に膵酵素の上昇、3)超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見、の3項目中2項目以上をみたし、他の膵疾患、成因(アルコール性、胆石性、自己免疫性など)を除外したうえで、ICI使用歴があり投与中に膵炎を発症または中止で膵炎が軽快することで確定的となる5),6)。本症例では、上記の診断基準によりirAE膵炎と診断した。

症状としては、上腹部痛以外に吐き気や腹部膨満感、背部痛を呈することもある7)とされており、43%が腹痛、10%が食欲不振、7%が下痢、3%が黄疸、3%が下痢を呈し、24%は無症状であったとする報告8)もある。

ICI関連膵炎における画像所見の解析を行った報告では、造影CTでの最も頻度の高い所見は膵腫大であり、56%でびまん性膵腫大、44%で限局性膵腫大を呈した。不均一な造影効果は84%で認められ、84%の症例で膵周囲脂肪の線維化を呈した。画像所見としては非腫瘤性の膵腫脹、不均一な造影効果 、膵周囲炎症を特徴とした急性間質性膵炎様の所見が80%に認められ、16%では自己免疫性膵炎(AIP)様の所見を示した9)。irAE膵炎はAIP様の画像所見や経過を示すことがあるため、しばしば鑑別を要する。IgG4値やICI使用歴の有無、病理所見などにより鑑別を行っていく必要があると考えられる。本症例においては、症例1、症例2ともにびまん性膵腫大を呈していたが、主膵管の不整狭細像や高IgG4血症は認められず、EUS-FNAが施行された症例2では病理所見で軽度線維化、炎症細胞浸潤は認められたものの高度のリンパ球、形質細胞の浸潤などⅠ型AIPの特徴的な所見は得られなかった。我が国のAIP診断基準10)に照らしても疑診にもあたらず、2症例とも急性膵炎様の画像所見であった。

日本におけるirAE膵炎に対する治療法はCTCAEのアミラーゼ、リパーゼの上昇のgradeに応じてICIの投与の可否や膵機能モニタリングの推奨、画像検査による膵炎所見の有無の確認、消化器内科専門医と協議のうえで膵炎に対する治療を開始する11)といった内容にとどまっている。

NCCNガイドライン2025ver1ではirAE膵炎に対する治療としては、症状を呈さない軽度(Grade2)の膵炎に関してはICIの中止を検討し、補液による加療を検討するとともにアミラーゼ/リパーゼ値が基準値上限の3倍超またはCT所見が顕著な場合にはICI治療の中止が推奨されている。腹痛や嘔吐などの症状を伴う場合はGrade3以上に分類され、ICIの中断、補液加療とともに補液加療でも改善が得られない場合にはプレドニン0.5~1㎎/kg/日での投与が考慮されており、より重症な場合には1~2㎎/kg/日の投与が考慮される。ステロイドは症状が改善するまで治療を継続し、その後4~6週間かけて漸減するとされている7)。

本症例ではステロイドが奏功したが、一方でステロイド不応例や再燃例においては生物学的製剤、免疫グロブリン静脈注射(IVIg)、リツキシマブなど免疫調整剤の使用の報告12)も認めているが、いまだ確立されておらず、今後さらなる研究が必要である。またirAE膵炎に関する報告8),12)~21)の中には、本症例と同様にステロイド奏功後、問題なく漸減している報告8),13)もある一方でステロイド漸減中に膵炎が再発したという報告14)や、再発後に死に至ったという報告15)もあり、慎重な減量、経過観察が必要である。

【結語】

ステロイド治療にて改善したirAE膵炎の2例を報告した。

【利益相反】

本論文内容に関する著者の利益相反なし

図1 症例1の治療前後の造影CT(平衡相)

a:初診時(治療前)の造影CT。膵腫大と膵周囲脂肪識の上昇を認めるが、膵実質の造影不良域は指摘されず(CTgrade1相当)、明らかな胆石は認められない。

b:治療開始3ヶ月後の造影CT。膵炎の改善が認められる。

図2 症例2の治療前後の造影CT(遅延相)

a:初診時(治療前)の造影CT。膵腫大と膵周囲脂肪識の上昇を認めるが、膵実質の造影不良域は指摘されず、明らかな胆石は認められない。

b:治療開始3ヶ月後の造影CT。膵炎の改善が認められる。

図3 症例2のEUS-FNA

a:EUS。膵実質はびまん性低エコー像を示し、慢性膵炎様の分葉状エコー像を示す。明らかなcapsule-like rimや膵管の狭小化・拡大は認められない。

b:膵組織の病理。軽度線維化の加わった膵組織を認め、炎症細胞浸潤も軽度認めるが、閉塞性静脈炎は指摘されない。

c:IgG4免疫染色。IgG4 陽性形質細胞はほぼ認められない。

【参考文献】
 
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