2026 年 9 巻 1 号 p. 10-14
【目的】手に発生した溶血性連鎖球菌感染症を経験したので報告する。
【方法】2019年から2024年の間、当院で手術を施行した手の感染症のうち、細菌培養の結果、溶血性連鎖球菌が同定された症例4例について検討した。
【結果】男性が1例、女性が3例、年齢は33才~84才。基礎疾患は糖尿病が1例、認知症・心不全が1例、高血圧が1例、なしが1例であった。発生部位は母指2例、示指1例、手背2例であった。転帰は1例が死亡、2例が切断、1例がデブリードマン後NPWTおよび分層植皮術で救肢した。感染形式はいずれも壊死性の感染症であり、指壊死が1例、壊死性軟部組織感染症が3例、そのうち劇症型が2例であった。いずれもA群β溶血性連鎖球菌であった。また、いずれも先行する上気道感染症の既往は無かった。
【結論】手における溶血性連鎖球菌感染症はいずれも壊死性の感染症であり、可及的速やかにデブリードマンを要する。試験切開およびA群溶連菌迅速キットが有用であり、救命のために切断を行う必要がある症例も多い。
第5回道南医学会医学研究奨励賞(研修医部門)
手に発生した溶血性連鎖球菌感染症を経験したので報告する。2019年から2024年の間、当院で手術を施行した手の感染症のうち、細菌培養の結果、溶血性連鎖球菌が同定された症例4例について検討した。内訳は男性が1例、女性が3例で、年齢は33歳から84歳であった。基礎疾患は糖尿病が1例、認知症・心不全が1例、高血圧が1例であった。発生部位は母指2例、示指1例、手背2例であった。転帰は1例が死亡し、2例が切断に至り、1例がデブリードマン後局所陰圧閉鎖療法(NPWT)および分層植皮術を施行して救肢した。感染形式はいずれも壊死性の感染症であり、指壊死が1例、壊死性軟部組織感染症が3例、そのうち劇症型が2例であった。いずれもA群β溶血性連鎖球菌であった。また、いずれも先行する上気道感染症の既往は認めなかった。
A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes:GAS)は、咽頭炎、膿痂疹など日常的な表在性疾患から、急性腎盂腎炎やリウマチ熱といった非化膿性合併症など極めて多彩な病態を引き起こす。GAS感染症の疫学は世界的に変化を見せており特に1980年代後半から報告されている劇症型溶血性連鎖球菌感染症(STSS)は、極めて急速に進行するショックや多臓器不全を呈し、その致死率は約30%とされている。日本国内でもその報告数の急増が公衆衛生上の重大な懸念となっており、その病原性の解明と迅速な対応が急務となっている。1)-2)
2019年から2024年の5年間に当院で手に発生した感染症のうち創部培養で溶血性連鎖球菌感染症が同定された4症例について診療録等をもとに後ろ向き調査を行った。
1) 症例1
患者:80歳代男性
既往歴:認知症、心不全
初発部位:母指
LRINEC score:4
現病歴:病日1日目に母指の疼痛と腫脹を認め、病日2日目に当院に入院(図1a)。病日3日目には肘関節まで疼痛が進行した(図1b)。病日4日目に緊急で上腕切断を施行し(図1c)、感染は鎮静化した。創部も癒合したが全身状態は悪化し病日34日目に下血による出血性ショックで死亡した。
2) 症例2
患者:70歳代女性
既往歴:腸閉塞、高血圧
初発部位:手背〜前腕
LRINEC score:9
現病歴:病日1日目に疼痛を自覚、発熱と著明な疼痛増悪のため、病日2日目に当院に救急搬送(図2a)。壊死性筋膜炎と診断し同日緊急でデブリードマン(図2b)を施行した。病日3日目に壊死の進行(図2c)を認め緊急で上腕切断(図2d)を施行した。その後感染は落ち着き病日29日目に自宅退院となった。
3) 症例3
患者:30歳代女性
既往歴:糖尿病
初発部位:示指
LRINEC score:6
現病歴:病日1日目に示指の発赤と疼痛を認め、病日2日目に当院入院、病日3日目に壊死を認めた(図3a)。同日局麻下に切開するも少量の滲出液を認めるのみで腱鞘内にも明らかな貯留は認めなかった(図3b)。皮膚切開後は炎症が改善したため(図3c)、病日13日目に中手骨レベルでの断端形成術(図3d,e)を施行し、病日20日目に自宅退院となった。
4) 症例4
患者:30歳代女性
既往歴:特記事項なし(授乳中)
初発部位:手背
LRINEC score:3
現病歴:誘因なく手背の疼痛と40度の発熱があり近医受診、病日2日目に当科紹介となった(図4a)。手背を試験切開(図4b)すると混濁した滲出液が大量に漏出、finger testは陽性であり、A群溶血性連鎖球菌迅速検査は陽性であった。壊死性筋膜炎として同日デブリードマン(図4c)施行した。その後局所陰圧閉鎖療法(NPWT)で肉芽で覆われたため受傷後40日目で分層植皮術(図4d)を施行。術後5か月(図4e)、伸筋腱膜の癒着による可動域制限はあるものの単関節ごとの可動域は良好であり、日常生活に支障のない状態にまで改善した。
厚生労働省によると2024年の劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者数は過去最高に突出している。原因として新型コロナウイルス感染症に対する感染対策の緩和などが指摘されているが、詳細は不明である。3) 本症例は4例とも急速に進行する軟部組織感染症ではあるがショックを伴う劇症型は2例のみであった。上肢壊死性筋膜炎の発生頻度は37.5%であり、下肢壊死性筋膜の67.5%と比較して低いが、死亡率は上肢20%、下肢22%で同程度と言われている。4) デブリードマンの遅れが死亡率の上昇につながるとも言われており、可及的早期のデブリードマンが必要である。5)
症例3でも使用されているが早期診断の一助として、溶血性連鎖球菌迅速検査の有用性が、近年多数、報告されている。A群のみしか検出できないため、陰性でもSTSSの可能性があることに注意が必要であるが簡便で感度および特異度ともに9割程度と高いため、有用な検査であると考えられる。6)
LRINECスコアは長年蜂窩織炎と壊死性筋膜炎の鑑別に使用されてきたが、本症例で高リスク群に該当した症例は1例のみであった。LRINECスコア単独による評価には注意を要する可能性がある。
2017年NeekiらはLRINECスコアの妥当性について検証し、多くの症例が誤分類されており、LRINECスコアは壊死性軟部組織感染症のリスク評価ツールとしては不適切と結論づけている。皮膚の壊死や異常な疼痛などの臨床所見を重視する必要があり、画像診断や試験切開などの外科的な評価が必要である。7)
本論文内容に関する著者の利益相反なし。

a:病日2日目、母指の疼痛を主訴に来院された。
b:病日3日目、肘関節まで疼痛が進行した。
c:病日3日目、緊急で上腕切断を施行、感染は一時鎮静化した。

a:病日2日目、発熱と著明な疼痛のため当院に救急搬送された。
b:病日2日目、壊死性筋膜炎と診断し緊急でブリードマン施行した。
c:病日3日目、壊死の進行を認めた。
d:病日3日目、緊急で上腕切断を行いその後感染は鎮静化した。

a:病日3日目、壊死を認め当科紹介。
b:病日3日目、局麻下に切開も少量の滲出液を認めるのみで、腱鞘内にも明らかな貯留は認めなかった。
c:切開後炎症は改善した。
d、e:病日13日目、中手骨レベルで断端形成術を施行した。

a:病日2日目、当科受診時の所見。誘因なく手背の疼痛と40度の発熱を認めた。
b:病日2日目、手背を試験切開すると混濁した滲出液が多量に漏出、finger test 陽性だった。
c:病日3日目、前腕までデブリードマン施行した。一部伸筋腱掌側まで炎症が波及していた。
d:局所陰圧閉鎖療法(NPWT)で肉芽で覆われたため病日43日目に分層植皮術施行した。左大腿から300μmの厚さで採皮し1.5倍メッシュで固定。
e:術後5か月、伸筋腱の癒着による可動域制限はあるが単関節ごとの可動域は良好な状態に改善している。