道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
免疫関連有害事象による胃炎を発症した胆管癌の一例
伊藤 拓井上 宏之荒井 悠久鈴江 瞬太常盤 孝介大久保 陽介伊早坂 舞古川 滋笠原 薫小林 寿久矢和田 敦杉田 真太朗有岡 琴美
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2026 年 9 巻 1 号 p. 15-19

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Abstract

【症例】80歳代男性【既往歴】66歳時胆嚢ポリープで胆嚢摘出術、狭心症

【現病歴】X-1年9月に当院循環器内科通院中に経過観察目的に施行したMRCPで胆管壁の不正を指摘され、当科紹介受診となった。EUSでは下部胆管から上部胆管に比較的壁構造が保たれた壁肥厚像を認めた。ERCP施行し胆管生検で腺癌であった。画像検査で明らかな遠隔転移は認めなかったが、高齢、広範囲な胆管癌であり外科的治療は希望されず化学療法の方針となった。

X-1年12月よりGCD療法(GEM+CDDP+Durvalumab)開始し8コース施行、以後Durvalumab単剤の投与を継続していた。

X年8月に食欲不振、腹部違和感あり上部内視鏡検査を施行した。胃前庭部に広範囲に白苔を伴うびらん性病変を認めた。生検組織では高度の好中球、リンパ球、形質細胞浸潤を認めた。Durvalumabによる免疫関連有害事象による胃炎と診断した。PSL20mg投与開始したところ症状改善し退院となった。

【考察】irAE胃炎は消化管免疫関連有害事象の中では比較的稀である。irAE胃炎の内視鏡所見としては胃粘膜のびまん性浮腫、易出血性の脆弱な粘膜が報告されている。ICI治療患者で食欲不振、びまん性の炎症変化を認めた際には鑑別の一つとして考慮する必要がある。

第5回道南医学会医学研究奨励賞(研修医部門)

【要旨】

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与に伴う免疫関連有害事象(irAE)のうち、irAE胃炎は比較的稀であり、症状や検査所見が非特異的で診断に難渋することがある。今回、胆管癌患者に対してGEM+CDDP+Durvalumab(GCD療法)を施行後、維持療法としてDurvalumab単剤投与を開始した直後にGrade3の食思不振と腹部違和感を認めた。上部消化管内視鏡検査および生検所見からirAE胃炎と診断し、プレドニゾロン(PSL)投与により症状は速やかに改善した。ICI投与中に上部消化器症状を認めた場合はirAE胃炎も鑑別に挙げ、積極的に内視鏡検査と生検を行うことが重要である。

【緒言】

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は抗腫瘍効果を示す一方で、免疫関連有害事象(irAE)を来すことが知られている1) 。消化管はirAEの好発部位であり、中でも大腸炎の頻度が高いが、irAE胃炎の発症率は約0.35〜1.46%と比較的稀である2)3)4)。また、嘔気や嘔吐、上腹部痛、消化管出血や貧血などの症状5)はいずれも非特異的であり、原疾患自体による症状や併用する殺細胞性抗癌剤による有害事象との鑑別を要する1),6)。今回、胆管癌に対してDurvalumab使用中にirAE胃炎を発症し、ステロイド治療により改善した1例を経験したため報告する。

【症例呈示】

患者:80歳代、男性

主訴:なし

現病歴:X-1年9月、当院循環器内科通院中に経過観察目的で施行したMRCPで胆管壁不整を指摘され、当院消化器内科紹介受診となった。

既往歴:胆嚢ポリープ(66歳時 胆嚢摘出術)、狭心症

内服薬:アスピリン、ロスバスタチン、リマプロスト、メコバラミン

生活歴:喫煙 20本/日×35年(20〜55歳)、飲酒 機会飲酒、ADL自立

初診時身体所見:身長154cm、体重55kg、体温36.6℃、血圧143/81mmHg、脈拍66/分、SpO2 97%(room air)。腹部は平坦、軟で圧痛なし

血液検査所見(表1。 では軽度の胆道系酵素上昇認めた。腫瘍マーカー、IgG4、抗ミトコンドリア抗体は正常範囲であった。

腹部MRI(図1では総胆管部および膵内胆管部に軽度壁肥厚と狭窄を認めた。

上記所見より胆管癌を疑い、鑑別疾患としてIgG4関連硬化性胆管炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの炎症性疾患を挙げ、ダイナミックCTおよびERCP+生検を施行した。

ダイナミックCT(図2では総胆管部および膵内胆管部に軽度壁肥厚と狭窄を認め、同部位に動脈相から平衡相まで持続する造影効果を認めた。

ERCPでは上部胆管および下部胆管に輪状狭窄を認め、上部胆管、下部胆管、乳頭部の3か所から生検を行った。

病理組織学的所見:上部胆管から採取した組織では、核クロマチン粗造で核小体明瞭な類円形核と淡好酸性胞体を有する異型細胞が管状および索状に増殖しており、腺癌の診断となった(図3。下部胆管の組織は腺癌とするほどの高度な核異型はなく異型上皮にとどまった。乳頭部の組織からは悪性所見を認めなかった。

広範囲の表層進展を伴う胆管癌(cT1N0M0、Stage I)と診断し、年齢やADL等から化学療法の方針とした。X-1年12月よりGCD療法を開始し、8コース完遂後、9コース目(X年8月)から維持療法としてDurvalumab単剤投与を開始した。

Durvalumab単剤の維持療法開始と同時期よりCTCAE Grade3の消化器症状(食思不振、腹部違和感)が出現したため上部消化管内視鏡検査を施行した。内視鏡では胃前庭部に広範囲の白苔を伴うびまん性のびらん性病変を認め、同部位から生検を行った。組織では高度の好中球、リンパ球、形質細胞浸潤を認め、一部に腺管細胞のアポトーシス像がみられた(図4。鑑別としてH. pylori感染性胃炎およびサイトメガロウイルス(CMV)感染性胃炎を考慮したが、生検組織でH. pylori菌体を認めず、核内封入体などCMV感染を示唆する所見も認めなかった。以上の所見に加え、ICI投与中の発症経過であったことからirAE胃炎と診断した。

irAE胃炎と診断後、プレドニゾロン(PSL) 20 mg/dayを開始した。投与開始3日後には症状はGrade1まで改善した。その後PSLを漸減し、X年9月12日にDurvalumab単剤投与を再開した。PSL開始後73日に上部消化管内視鏡検査を再検したところ、胃角部のびらんは残存していたが、治療前と比較して前庭部のびらんは改善していた(図5。X+1年1月22日にPSL 10 mg/dayまで減量し、X+1年5月16日に転院となった。

【考察】

irAE胃炎は稀な有害事象であるが、嘔気や嘔吐、上腹部痛、消化管出血や貧血など非特異的な症状5)を呈し、原疾患そのものによる症状や併用する殺細胞性抗癌剤による有害事象との鑑別が問題となる。上部消化管内視鏡所見は、びまん性に胃炎所見を呈する型と限局的に胃炎所見を呈する型に大別される。内視鏡所見としては前庭部の地図状びらんや潰瘍、白色分泌物を伴う発赤性および浮腫性粘膜、粘膜脆弱性などが特徴である7)-8)。病理では粘膜上皮内への高度炎症細胞浸潤と著明なアポトーシスが典型的所見とされる9)。一方で、生検でICI関連胃炎が確認された患者の約10〜20%では内視鏡的に明らかな粘膜異常を認めないことも報告されているため3)、内視鏡像が正常であっても、症状や経過からirAE胃炎が疑われる場合には、積極的に生検を施行し、病理学的評価を行うことが重要である。

鑑別疾患としてはHelicobacter pylori感染性胃炎やサイトメガロウイルス(CMV)感染性胃炎が挙げられる。irAE胃炎のびまん性胃炎所見はH. pylori感染性胃炎と類似しているが、irAE胃炎では送気や送水刺激、内視鏡との接触により病変が容易に増悪する点で鑑別が可能と考えられている7)。加えて、ICI治療やその副作用に対して免疫抑制療法を行っている患者ではCMV感染または再活性化を起こす可能性がある10)。CMV感染性胃炎は症状や内視鏡所見が多彩で、時にirAE胃炎との鑑別が困難となるが、irAE胃炎と異なりステロイド治療により病勢悪化を誘発する可能性がある。そのため、irAE胃炎と診断する前にCMV感染の除外を行う必要がある。

治療については、ASCOガイドラインではirAE腸炎に準じた治療が推奨されているが11)、irAE胃炎独自の治療アルゴリズムは確立されていない。既報ではプレドニゾロン(PSL)が第一選択となることが多く、Grade2では0.5〜1 mg/kg/day、Grade3では1〜2 mg/kg/dayが目安とされる。ICI中止とPSL開始により臨床症状は1週間以内に改善することが多い一方で、胃粘膜所見の完全な改善には数か月を要するとされる2),12)-13)。また、ステロイド抵抗例に対してインフリキシマブが有効であった報告もある。

本症例では、Durvalumab維持療法導入と同時期にGrade3の上部消化器症状を認め、上部消化管内視鏡検査や生検等からirAE胃炎と診断した。PSL投与により症状は速やかに改善し、ICI再開も可能であった。

irAE胃炎は症状・検査所見ともに非特異的なものが多いため、ICI投与中の嘔気・嘔吐、上腹部痛等の上部消化管症状を認めた際にはirAE胃炎も鑑別に挙げ、積極的に上部内視鏡検査および生検を行うことが重要と考える。

【結語】

Durvalumabを含む胆管癌治療中にirAE胃炎を発症した1例を経験した。

【利益相反】

本論文内容に関する著者の利益相反なし。

表1 初診時血液検査所見

図1 初診時MRI、MRCP

総胆管部および膵内胆管部に軽度壁肥厚と狭窄を認める

図2 ダイナミックCT

胆管狭窄部位に動脈相から平衡相まで持続する造影効果がみられた

図3 病理検体(上部胆管)

腺癌の診断

図4 病理検体(胃粘膜)

高度の好中球、リンパ球、形質細胞浸潤を認め、一部にアポトーシス像がみられた(矢印)。

図5 PSL治療前後の胃粘膜の変化

PSL開始後73日時点では胃角部のびらんは残存しているが、治療前と比較して前庭部のびらんは改善を認める。

【参考文献】
 
© 道南医学会
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