2026 年 9 巻 1 号 p. 20-21
【目的】Helicobacter pyloriの感染は、胃癌などの原因として知られている。一次除菌ではクラリスロマイシン(CAM)を服用するが、近年CAMに耐性をもつ株の出現などにより、一次除菌の失敗が増えている。スマートジーン H.pylori G(株式会社ミズホメディー)では、H.pyloriのDNA、およびCAM耐性遺伝子の変異を約1時間で検出できる。スマートジーンの結果により、初回の除菌に用いられる除菌薬と除菌成功率を検討した。【対象および方法】2023年5月から2025年5月の間にスマートジーンによりH.pylori陽性と判定され、除菌および除菌判定を行った85例を対象とした。過去の除菌歴は不問とした。内視鏡検査時の廃液を用いて全自動遺伝子解析装置Smart Geneにて測定し、CAM耐性遺伝子変異の有無それぞれについて初回除菌薬および除菌の成否を比較検討した。【結果】変異陰性58例のうち、初回の除菌にCAMを用いた一次除菌を行ったのが56例であり、除菌成功率は89.7%(52/58)であった。変異陽性27例のうち、初回の除菌にCAMを用いずに二次除菌を行ったのが21例であり、除菌成功率は74.1%(20/27)であった。変異の有無に応じて除菌が開始されていたのが90.6%(77/85)であり、除菌成功率は93.5%(72/77)であった。変異陰性であったが初回除菌にCAMを用いなかった例が2例あり、2例ともCAMのアレルギーがある患者であった。変異陽性だが初回除菌にCAMを用いて除菌が失敗した例が3例あったが、その経緯は不明であった。【考察】ガイドラインではCAM耐性が判明している場合は二次除菌を行うべきとされている。通常、培養および薬剤感受性試験を行うと10日以上を要するが、スマートジーンによって内視鏡検査当日にCAM耐性遺伝子変異が判明し、変異陽性だった場合には二次除菌から始められる。二次除菌から始めて除菌成功した例が全体の25%あり、スマートジーン H.pylori G導入により患者の負担軽減や医療費削減、耐性菌の抑制につながっていると考えられた。
第16回道南医学会医学研究奨励賞(メディカルスタッフ部門)
Helicobacter pylori(H.pylori)は、胃癌などの原因として知られている。H.pyloriとclarithromycin耐性遺伝子の変異を1時間で判定できるスマートジーン®H.pylori Gの結果により、初回の除菌に用いられる除菌薬および除菌成功率を検討した。2023年5月から2025年5月の間にH.pylori陽性と判定され、除菌判定まで行った85例を対象とした。変異陰性58例の一次除菌成功率は89.7%であった。変異陽性27例の二次除菌成功率は74.1%であった。スマートジーンで変異陽性と判定された場合には二次除菌から始められるため、患者の負担軽減や耐性菌の抑制などに寄与できると考えられた。
Helicobacter pylori(H.pylori)への感染は、消化性潰瘍や胃癌などの原因として知られている。一次除菌ではclarithromycin(CAM)を服用するが、近年、CAMに耐性をもつ株の出現などにより、一次除菌の失敗が増えている1)。
保険診療では一次除菌と二次除菌の順番を変更することはできず、一次除菌に失敗するか、薬剤感受性試験の結果が判明してからでなければ、二次除菌を行うことが従来はできなかった。2022年11月より保険適用となった「ヘリコバクター・ピロリ核酸及びクラリスロマイシン耐性遺伝子検出」に対応した、スマートジーン®H.pylori G(株式会社ミズホメディー、以下、スマートジーン)が発売され、H.pyloriのDNA、および23S rRNA遺伝子ドメインV領域におけるCAMの薬剤感受性に関する変異を約50分で判定できる。スマートジーンにより、CAMに耐性のあるH.pyloriが検出された場合は、保険適用内で二次除菌から開始できる。
スマートジーンの結果により、初回の除菌に用いられる除菌薬と除菌成功率を検討した。
2023年5月から2025年5月の間に当院でスマートジーンによりH.pylori陽性と判定され、除菌および除菌判定を行った患者85例(過去に除菌歴のある2例を含む)を対象とした。内訳は、男性42例(33~82歳、平均58歳)女性43例(18~85歳、平均61歳)であった。内視鏡検査時の廃液を検体として用いて全自動遺伝子解析装置Smart Geneにて測定し、CAM耐性遺伝子変異の有無それぞれについて初回除菌薬および除菌の成否を比較検討した。統計学的解析は、Fisherの正確確率検定で行った。
本検討は独立行政法人国立病院機構函館医療センター倫理審査委員会の承認を受け実施した。(承認番号R7-0731001)
変異陰性58例のうち、56例がCAM、amoxicillin(AMPC)、胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI、もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー:P-CAB)の三剤を用いた一次除菌を初回除菌として行っていた。残り2例は初回除菌にmetronidazole(MNZ)、AMPC、PPIの三剤を用いた二次除菌で除菌が開始されていた。2例ともCAMに薬剤アレルギーがある患者であった。変異陰性群の除菌成功率は、89.7%(52/58)であった。
変異陽性27例のうち、21例がMNZ、AMPC、胃酸分泌抑制薬の三剤を用いた二次除菌を初回除菌として行っていた。残り6例は一次除菌を初回除菌として行い、3例が除菌成功、3例が除菌失敗となった。変異陽性群の除菌成功率は、74.1%(20/27)であった。(表1)。
変異陰性であれば一次除菌、変異陽性であれば二次除菌と、変異の有無に応じた除菌が開始されていた症例が90.6%(77/85)であり、初回の除菌薬の選択には有意差が認められた(p<0.05)。除菌成功率は90.6%(77/85)であり、変異の有無に有意差は認められなかった(p>0.05)。
H.pyloriの除菌人口は、保険適用の拡大や啓蒙活動により、増加している。一方、CAM耐性菌の増加に伴い、一次除菌での除菌成功率が低下している2)。通常、培養および薬剤感受性試験を行うと2~3週間を要することや、専用の設備等が必要なことなどから、これらを行わずに一次除菌が開始される場合もある。スマートジーンによって内視鏡検査当日にCAM耐性遺伝子変異が判明し、変異陽性だった場合には二次除菌から始められる。耐性であるCAMを用いずに除菌をすることで、除菌成功率の上昇が見込まれる。また、スマートジーン未検査の場合、一次除菌で失敗すると、(二次)除菌、診察、除菌判定を再度行うこととなるため、そのコストが追加で発生する。CAM耐性菌の感染者では特に、一次除菌を行う必要がないため、患者の身体的、経済的な負担を軽減することができる。
今回、変異陽性であったが一次除菌から始められた経緯はカルテ等で確認することができなかったが、内視鏡所見や尿素呼気試験などからピロリ菌陽性と診断後、スマートジーンの結果を待たずに帰宅し、一次除菌が開始され、後日受診時に結果を確認し二次除菌を開始、という状況であったと推察される。
除菌治療ではCAM耐性が判明している場合は二次除菌を行うべきとされている。変異陽性のため二次除菌から開始して除菌成功した例が20例、全体の23.5%を占めた。この20例はCAM耐性遺伝子変異陽性であるため、一次除菌から開始されていた場合には除菌が失敗していた可能性が高い。スマートジーンにより効果的な除菌薬の選択ができたと考える。
スマートジーンの結果により、初回の除菌に二次除菌薬を選択できるようになったため、適切な除菌薬の選択および除菌成功率の上昇にも寄与でき、有用な検査法であることが示された。
本論文に関連する著者の利益相反なし
