【背景】A病院では乳癌患者に対して皮膚照準マーク(以下、皮膚マーク)を皮膚マーカーで記入し、保護目的でコンバテックエセンタ皮膚被膜剤スプレー®(以下、被膜スプレー)を噴霧していた。2022年の患者経験価値調査(以下PXサーベイ)の結果より、皮膚マークを消さない様に生活を送る事や下着にマーカー色が付着するなど、精神的負担や日常生活への制限が生じている事がわかった。そこでロールフィルムオプサイトジェントルロール®(以下、テープ)を貼付する方法を新たに追加し、患者が保護方法を選択する方法を導入した。
【目的】皮膚マーク保護方法の選択制を導入、PXサーベイを実施して有用性を評価する。
【方法】保護方法を選択した患者にPXサーベイを照射終了後に実施する。皮膚マークに関する設問の回答、総合満足度スコア(PXスコア)およびネットプロモータースコア(NPS)を2022年、2024年調査と比較、統計解析にはマン・ホイットニーU検定を用いた。
【結果】2024年保護方法を選択した患者34名のうち、PXサーベイの回答を得られた27名(回答率は79%)を解析対象にした結果、年齢40~70歳代が23名(85%)、PXスコア9.44、NPS+74.07。皮膚マークに関する設問では、「目的や管理について分かりやすく説明を受けたか」に「はい、とてもそう思う」が100%、「不安や負担を感じたか」に対して「いいえ、全く」が72%であった。PXスコアに対して、マン・ホイットニーU検定の結果はP=0.0319(P<0.05)であり、統計学的に有意差が認められた。
【結論】皮膚照準マーク保護方法の選択制導入は、PXスコアおよびNPSの向上に寄与する可能性が示唆された。PXスコアの統計解析においても有意差が確認され、選択制の導入は患者中心のケアの質向上に有用であると考えられる。特に、目的や管理に関する説明の理解度が向上し、患者の安心感につながったと考えられる。
第78回道南医学会大会医学研究奨励賞推薦演題
乳癌放射線治療における皮膚照準マーク(以下、皮膚マーク)保護方法として選択性を導入し、患者経験価値(Patient eXperience 以下、PX)及びネットプロモーター・スコア(以下、NPS)への影響を評価するために、単施設における前後比較観察研究として、乳癌術後に放射線を受けた患者を対象に、照射終了日にPXサーベイを実施した。皮膚マークの保護の方法として従来のコンバテックエセンタ皮膚被膜剤スプレー®(以下、スプレー)に加え、ロールフィルムオプサイトジェントルロール®(以下、テープ)貼付を選択しとして導入した。2022年(導入前)と2024年(導入後)のPXスコア、NPSおよび関連設問を比較した。(統計解析にはマン・ホイットニーU検定およびFisher正確確率検定を用い、有意水準はp<0.05とした。回答者数は2022年23名、2024年27名であり、年代分布に有意差は認められなかった。PXスコアは2022年8.09から2024年9.44へ有意に上昇した(p=0.0319)。NPSも2022年+43.48から2024年+74.07へと改善した。説明理解度および精神的負担に関する設問でも肯定的回答の増加が認められた。皮膚マーク保護方法の選択制導入後、PXスコアおよびNPSの改善が認められ、選択制導入や説明体制の整備を含む包括的介入が患者中心のケアの質向上に寄与した可能性が示唆された。
乳癌に対する放射線治療では、照射位置の再現性を確保のため皮膚マークが広く用いられている1) 。当院では従来、皮膚マーカーで皮膚に記入後、スプレーを噴霧する方法を標準としてきた。しかし2022年に実施した患者経験価値調査(以下、PXサーベイ)において、皮膚マークを消さないように生活することへの不安や、下着への色移りなど、日常生活および心理的な負担が生じていることが明らかとなった。
これらの課題を踏まえ、皮膚マーク保護方法としてテープ貼付を新たな選択しとして追加し、患者自身が生活スタイルや価値観に応じて保護方法を選択できる体制を整備した。
皮膚マーク保護方法の選択制導入前後で、PXスコアおよびNPSが改善するかを検討する。
1.研究デザイン
単施設における前後比較観察研究(質改善研究)。
2.対象
乳癌術後(乳房温存術、乳房全的術)に初回放射線治療(乳房、胸壁およびリンパ節含む)を16回、皮膚障害既往のなく皮膚マーク保護方法を選択した患者。
2022年:23名
30歳代1名、40歳代4名、50歳代8名、60歳代3名、70歳代6名、80歳代1名
2024年:27名
30歳代1名、40歳代3名、50歳代12名、60歳代5名、70歳代4名、80歳代2名
3.介入内容
従来のスプレーに加え、テープ貼付を保護方法の選択肢として追加した。選択にあたり説明文書を作成し、看護師間で説明内容の標準化を行った。スプレーおよびテープの特徴、管理方法、日常生活上の注意点を説明し、皮膚トラブル歴を確認したうえで患者とともに保護方法を選択した。
4.評価項目
PXサーベイは客観的な医療の質を評価する手法で妥当性が高い。
・PXサーベイ(患者経験に関する設問)
・PXスコア(0-10点)
・NPS
・皮膚マークに関する設問(説明理解度、精神的負担)
5.統計解析
PXスコアは正規分布を仮定しないため、マン・ホイットニーU検定を用いた。年代分布などのカテゴリ変数はFisher正確確率検定を用いた、NPSは記述統計として評価した。有意水準はp<0.05とした。
1.回答者数
2022年23名(回答率67%)、2024年27名(回答率79%)であった。
2.回答者背景
年代分布に有意差は認められなかった。(p=0.912)。
3.説明理解度
「目的や管理についてわかりやすく説明を受けたか」と回答した割合は、2022年78%、2024年100%であった。
4.:精神的負担
「不安や負担を感じなかった」と回答した割合は、
2022年52%、2024年 67%であった。
5.NPS
2022年+43.48、2024年+74.07であった。
6. PXスコア
2022年8.09、2024年9.44であり、有意差が求められた(p=は0.0319)。
本研究では、皮膚マーク保護方法に選択制を導入した後、PXスコアおよびNPSの改善が認められた。これらの結果は、単に保護方法を追加した効果だけでなく、「患者が自ら選択できる」というプロセスや、説明体制の整備を含む包括的介入が患者経験に影響した可能性を示唆している。自己決定の機会は患者のエンパワーメントを高め、治療への主体的参加や安心感につながることが知られている2)3) 。先行研究では,患者参加を促すことで患者の病気や治療の理解度4)5)、患者の満足感6)7)などに効果があることも報告されている。また、説明理解度の向上は治療に対する納得感を高め、照射時に女性スタッフの立ち合いや露出の最小化などの配慮、看護師による個別支援も患者の尊厳に配慮したケアが継続的に行われており、これらも精神的負担の経験に寄与した可能性がある。
一方、本研究は単施設・小規模であり、前後比較による観察研究であるため、因果関係を直接占めるものではない。選択制導入と同時に行った説明標準化や支援体制の強化の影響を分離できない点も考慮する必要がある。
皮膚マーク保護方法の選択制導入後、PXスコアおよびNPSの改善が認められた。選択制導入と説明体制整備を含む取り組みは、乳癌放射線治療における患者中心のケアの質向上に寄与する可能性がある。
本論文内容に関連する著者の利益相反なし