道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
ゾルベツキシマブにおける制吐療法
~当院独自の投与管理マニュアルを活用した取り組み~
北島 智美中安 一恵中嶋 紘文村永 諒山 村 貴洋畑中 一映
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 9 巻 1 号 p. 40-43

詳細
Abstract

【目的】切除不能・再発がんに対する全身薬物療法において、悪心・嘔吐の予防は治療継続とQOL維持の鍵を握る問題の一つである。市立函館病院(以下、当院)では、確実な制吐対策を目的として、多職種で連携し、制吐薬の適正使用と投与管理の標準化に取り組んでいる。中でもCLDN18.2陽性胃がんの一次治療で使用されるゾルベツキシマブは、制吐薬適正使用ガイドライン(日本癌治療学会、2023、2024速報)において高度催吐性リスクに分類されていることから、ゾルベツキシマブ用の制吐対策を含む投与管理マニュアルを新たに作成した。それを用いた実践内容と成果を報告する。

【活動の概要】医師・薬剤師・がん化学療法看護認定看護師(以下、認定看護師)が中心となり、制吐薬適正使用ガイドラインに準拠した制吐薬の組み合わせ、特徴的な点滴速度管理、投与前後ケアの内容を明文化したマニュアルを作成した。投与にかかわる看護師を対象に勉強会を実施し、投与日には認定看護師が担当看護師と共に投与管理を実践、症状対応やケアの指導を行った。対象は当院でゾルベツキシマブを投与した患者5例とした。

【成果】全例でマニュアルに沿った対応が実践され、悪心を理由とした治療中止はゼロであった。Grade2の悪心が出現した際も、マニュアルに沿った迅速な対応により、2コース目以降での治療意欲減退につながることがなく、継続が可能であった。投与を担う看護師にとっても、「マニュアルがあることで手順が明確であり、安心して対応できる」との声があり、一定水準のケアが可能であり、不安軽減にもつながった。

【考察】ゾルベツキシマブ投与における悪心対策は、事前準備から投与中・投与後までの一貫した管理が不可欠である。本取り組みは、多職種連携とマニュアル化により、患者の症状予防と治療継続に寄与した。今後も対象症例を増やし、制吐対策の質向上を目指したい。

第78回道南医学会大会医学研究奨励賞推薦演題

【要旨】

がん薬物療法において悪心・嘔吐の予防は、治療継続及び患者のQOL維持において極めて重要である。CLDN18.2陽性胃がんの一次治療で使用されるゾルベツキシマブは、高度催吐性リスクに分類されており投与時の厳格な制吐対策が求められる。市立函館病院(以下、当院)では多職種連携により、ゾルベツキシマブ専用の投与管理マニュアルを作成し、標準化された制吐対策の実践に取り組んだ。対象は、当院でゾルベツキシマブを投与した患者5例とした。全例でマニュアルに沿った対応が実践され、悪心による治療中止は認めなかった。本取り組みは制吐対策の質向上と治療継続支援に寄与する有用な実践であると考えられた。

【目的】

切除不能・再発がんに対する全身薬物療法では、悪心・嘔吐の発症予防は治療継続とQOL維持の鍵を握る課題のひとつである。特にゾルベツキシマブは、制吐薬適正使用ガイドライン(日本癌治療学会,2023;2024速報)1)2)において高度催吐性リスクに分類されており、確実かつ安全な制吐療法が必須である。また、ゾルベツキシマブは特徴的な点滴速度管理、投与前後のケアも重要であり、その煩雑さから医療者の負担も大きい。当院では制吐対策の標準化を目的として、多職種で協働しゾルベツキシマブ専用の投与管理マニュアルを作成した。当院独自マニュアルを用いた制吐対策の実践内容と、その成果を報告する。

【活動の概要】

はじめに、ゾルベツキシマブに特化した投与管理マニュアルを、添付文書3)および適正使用ガイド4)を参考とし、多職種が連携し意見交換を重ねた上で作成した(図1。作成したマニュアルを元に、制吐剤の組み合わせ・特徴的な点滴速度の設定方法・前後ケアの徹底を図った。制吐剤の組み合わせとしては、制吐薬適正使用ガイドラインの高度催吐性リスクへの対応を参考に、NK1受容体拮抗薬(ホスネツピタント)、5-HT3受容体拮抗薬(パロノセトロン)、デキサメタゾン(Day1のみ9.9 mg)、オランザピン(前日夕〜Day4)を導入した1)-5)。特徴的な点滴速度の設定に関しては、輸液ポンプの設定方法を、写真を用いて提示し、視覚的に理解しやすいよう配慮した(図2。また、嘔気出現時の点滴停止への対応や再開方法についても明文化し、看護師が迅速かつ安全に対応できるよう配慮した。前後ケアの徹底に関しては、投与前日のオランザピンの服用、翌朝食の欠食、昼食の延食対応、ゾルベツキシマブ投与開始時間の設定等について明文化した。

さらに、投与に関わる看護師を対象に、マニュアル周知を目的とした勉強会を開催した。投与日にはがん化学療法看護認定看護師が病棟看護師と共に投与管理を実践し、ケアの指導も行った。

【成果】

本マニュアルの活用により、ゾルベツキシマブ投与患者への制吐対策、投与管理方法、事前・事後ケアの標準化を図ることができた。また、勉強会の開催と実践支援により、投与中の悪心対応が迅速かつ適切に実施され、一定水準のケアが可能となった。さらに、対象となった患者5例すべてにおいて、マニュアルに沿った行動ができ、悪心を理由とした治療中止は0例であった(表1。悪心出現があった患者Dに関しては、投与開始1.5時間後、投与速度150mL/hに変更したところでGrade2の悪心(ムカムカ感、胃の圧迫感)が出現しこれ以上は辛いと訴えあり。マニュアルに従い、投与を一旦停止し、メトクロプラミド10 mgを静注施行した。30分休息後に悪心は消失し、投与速度75mL/hにて再開した。その後は悪心の出現なく投与終了し、2コース目以降の治療意欲減退につながることなく、治療継続が可能であった。投与に関わった看護師からは、「マニュアルがあることで手順が明確になり安心して対応できる」との声があり、判断の迅速化や不安の軽減につながった。

【考察】

薬物療法で誘発される悪心・嘔吐対策の最大の目的は対症療法ではなく予防にある6)。悪心・嘔吐は患者が苦痛とする代表的な副作用であり、患者のQOLを低下させるのみならず、治療意欲の減退を引き起こす要因となる7)。多職種チームで連携し、投与前後の管理や症状出現時の応需体制を整えることが、患者のQOLを向上させ、治療を適切に維持し、最終的には全生存期間の延長が期待できると考える。本取り組みの特徴は、ガイドラインに準拠した制吐薬の選択に加え、点滴速度、食事制限、嘔吐時対応といった看護実践に直結する要素を具体的にマニュアル化した点にある。これにより、経験年数に依存しない均一な対応が可能となり、病棟全体での安全な投与管理につながったと考えられる。さらに、多職種が共有したマニュアルは単なる制吐療法の工夫にとどまらず、チーム医療による支持療法の質向上を示す成果である。以上により、当院独自の投与マニュアルが臨床現場で実効性を持ち、ゾルベツキシマブの投与を安全かつ継続的に実施する上で重要な役割を果たしていると考える。今後も本課題に関して、患者の治療継続や、患者目線での悪心評価、看護師の不安軽減につながったかを検証していき、具体的なデータを収集、提示していく必要がある。今後もガイドライン改定に柔軟に対応しつつ、薬剤特性や患者背景に応じたマニュアルの更新、教育体制の強化を行っていき、制吐対策の質向上を目指したい。

【結論】

本取り組みは、臨床現場における実践的な支持療法の一例として有用である。

【利益相反】

本論文内容に関連する著者の利益相反なし

表1 ゾルベツキシマブ投与状況(2024年7月〜2025年10月)

図1 ゾルベツキシマブ投与管理マニュアル

図2 輸液ポンプ設定方法

【参考文献】
 
© 道南医学会
feedback
Top