2026 年 9 巻 1 号 p. 44-48
背景:FPD(Flat Panel Detector)の普及により、画像の即時確認が可能となり、より適切な画像の提供が容易になった。一方で、特に整形外科領域では、関節形状や可動域に個人差が大きく、標準的なポジショニングでは診断に適した画像が得られにくい場合がある。その結果、再撮影が多く発生し、患者の被ばく線量増加が課題となっている。近年、超低線量で事前に撮影を行う「プレショット」の導入が注目されており、撮影精度の向上および線量の最適化に寄与する可能性が示唆されている。
目的:本研究では、自院における整形外科領域の再撮影の実態を把握し、プレショット導入によって再撮影時の被ばく線量がどの程度低減可能かを、シミュレーションにより検討することを目的とした。
方法:2024年度に自院で撮影された整形外科領域のX線画像データから再撮影症例を抽出し、再撮影件数の多い部位を特定した。通常撮影とプレショット撮影の照射条件をもとに、患者の被ばく量の指標であるDAP(Dose Area Product)を算出し、プレショット導入による線量低減効果を、先行研究の報告を参考に仮定した。これに基づき、当該部位における年間の集団被ばく線量の変化をシミュレーションした。
結果:再撮影件数が最も多かった部位は膝関節(総撮影数:7,048枚)であり、写損数は2,481枚、写損率は35.2%であった。プレショット導入により、再撮影1件あたりの線量は97.1%低減し、当該部位における年間の集団被ばく線量は23.1%の低減が見込まれた。
結語:プレショットの導入は、整形外科領域における不要な被ばく線量低減に有用であり、臨床現場への導入意義が示唆された。
第78回道南医学会大会道南医学会ジャーナル推薦演題
〇目的
一般撮影は1検査あたりの被ばく線量は低いものの検査件数が多く、日本の医療被ばく全体の約4割を占めている。1) しかし、再撮影による被ばくは十分に考慮されておらず、実際の被ばく線量は過小評価されている可能性がある。近年、flat panel detector(FPD)の普及により撮影画像を即時に確認できるようになり、再撮影が容易になった。その一方で、再撮影数の増加が被ばく線量増大の一因となっていることが指摘されている。2) 本研究では、自院における整形外科領域の再撮影の実態を把握するとともに、プレショット導入時の被ばく線量低減効果をシミュレーションにより検討することを目的とした。
〇方法
2024年度に自院で撮影された整形領域のデータから再撮影数の多い部位を抽出し、プレショットを本撮影の10%線量、照射野を診断に必要な最小範囲(膝関節では15cm×15cm)と仮定して線量面積積(DAP)を用いて線量低減効果をシミュレーションにより評価した。併せて、撮影経験年数(3年以下群と5年以上群)別の再撮影率の比較検討を行った。
〇結果
膝関節の再撮影数が年間約2,500件と最多であった 。シミュレーションにおけるプレショット1回あたりの相対DAPは通常撮影の約2.9%となり、プレショット導入時のシミュレーションでは再撮影1件あたり97.1%の線量低減効果が示された。また、年間集団被ばく線量は23.1%低減可能と推定された。一般撮影歴の比較では、3年以下群で再撮影率が有意に高かった(p<0.01) 。
〇結論
プレショットは再撮影率の高い部位において被ばく線量低減に有用であると考えられる。特に照射野を最適化することでその効果を最大化できる可能性が示唆された。患者個人レベルでの被ばく増を防ぐため、全例一律の実施ではなく、経験年数の浅い技師やポジショニング困難症例などに限定した運用が望ましい 。
flat panel detector(FPD)の普及により撮影画像を即時に確認できるようになったことで、ポジショニング不良などを理由とした再撮影が容易になり、結果として不要な被ばくが生じる可能性が指摘されている。しかし、一般撮影における再撮影の実態や、それに伴う被ばくの影響については十分に検討されているとは言い難い。
また、医療法施行規則(平成31年厚生労働省令第21号)の改正により、診療用放射線に係る安全管理体制の整備が医療機関に求められるようになり、一般撮影においても被ばく低減に向けた具体的な取り組みが重要となっている。その中で、撮影前に低線量で体位や位置を確認する「プレショット」2)は、再撮影による被ばく線量を低減する手段の一つとして注目されているが、照射野設定を含めた被ばく低減効果や、どのような条件下で有効に活用すべきかについては十分な検証が行われていない。
本研究では、一般撮影における再撮影と被ばく低減の関係に着目し、プレショットの有用性を検討することとした。
本研究の目的は以下の2点である。
1.自院における整形外科領域の再撮影の実態を把握すること
2.プレショット導入時の被ばく線量低減効果をシミュレーションにより検討すること。
1 データ抽出
2024年度に自院で実施された整形領域の一般撮影データを対象とし、写損数を抽出した。写損数の多い上位5部位を解析対象とした。
2 プレショットの撮影条件/照射野設定
プレショットは先行研究に倣い、本撮影の10%線量で設定した。照射野は診断に必要な最小範囲に限定し、膝関節では内顆・外顆の位置関係を評価できる範囲とし、15cm×15cmと仮定した。
3 線量評価
線量評価には線量面積積(Dose Area Product:DAP)を用いた。通常撮影およびプレショット撮影それぞれについて、mAs値と照射野面積から相対的DAPを算出し、DAP比を用いて線量低減効果を評価した。
4 シミュレーション
再撮影1件あたりの線量低減率および年間集団被ばく線量の低減率を算出した。
5 撮影経験年数別の再撮影率
一般撮影歴、3年以下群と5年以上群に分けてデータを抽出し、マン・ホイットニーのU検定により有意差を求めた。
通常撮影1回あたりの線量を
〇再撮影1件あたりの線量低減率
プレショットの線量は、先行研究に基づき通常撮影の10%と設定した。また、照射野サイズは以下の条件とした。
・通常撮影:25.4 cm × 30.5 cm
・プレショット:15 cm × 15 cm
照射野面積比は次式より算出した。
したがって、プレショット1回あたりの相対DAPは、
となり、プレショット導入により再撮影1件あたり97.1%の線量低減効果があると算出された。
〇年間被ばく線量低減率
・従来法(プレショットなし)
・プレショット導入時
すべての撮影に対してプレショットを実施し、再撮影時には通常撮影を行うと仮定した。
これらより、年間総線量比は以下の式で求めた。
写損数が最も多かった部位は膝関節であり、年間約2,500件を占め、2位から5位の部位と比較して約5倍の再撮影数であった。(図1)
照射野を最適化したプレショット条件でシミュレーションを行った結果、再撮影1件あたりの線量は97.1%低減可能であった。(図2)
さらに、 (1)に本研究の条件(Dp=0.029D100)を代入すると、総線量比が76.96%となる。そのため、年間撮影件数を考慮した場合の年間集団被ばく線量は23.1%低減可能であると推定された。(図3)
また、一般撮影歴3年以下群と5年以上群の比較では、p<0.01で有意差が認められた。(図4)
一方で、従来再撮影が不要であった患者にプレショットを実施した場合、患者個人レベルではプレショット1回分(通常撮影の約2.9%のDAP)の追加被ばくが生じることが示された 。
本研究では、整形領域における再撮影の実態を把握し、プレショット導入時の被ばく線量低減効果についてシミュレーションにより検討した。その結果、再撮影率の高い部位にプレショットを導入することで、被ばく線量を大幅に低減できる可能性が示された。
特に膝関節は、他部位と比較して再撮影件数が顕著に多く、本研究における線量低減効果の寄与が最も大きい部位であった。このような部位に対して、低線量で体位確認を行えるプレショットを用いることは、合理的な被ばく低減策といえる。
本研究において得られた線量低減率は、先行研究と比較して高い値を示した。自院のシミュレーションでは、プレショット時の照射野を診断に必要な最小範囲に最適化して評価したのに対し、先行研究では本撮影と同一の照射野を想定している。その結果、先行研究では年間被ばく線量低減率が約8%にとどまったのに対し、本研究では23%の低減が得られ、約3倍の線量低減効果が示された。3) これは、内外顆の位置関係を確認できる範囲に照射野を限定することで、DAPを大幅に低減できたことによるものと考えられる。以上より、線量低減効果を最大化する上で最適な照射野設定が重要な要素であることが示された。
また、撮影経験年数別の再撮影率の比較では、一般撮影歴3年以下の技師群において再撮影率が高く、ばらつきも大きいことが明らかとなった。(図4)これは、経験年数の浅い技師ではポジショニング判断が難しい場合があり、結果として再撮影に至る頻度が高くなる可能性を示唆している。したがって、再撮影率の高い新人技師が担当する撮影にプレショットを導入することで、再撮影による無駄な被ばく線量の低減に寄与できると考えられる。
さらに、関節変形などにより通常の体位設定が困難な症例においても、プレショットは有用であると考えられる。重度の変形を伴う症例では、本撮影を一度で適切に行うことが難しく、再撮影を繰り返すリスクが高い。プレショットは診断目的ではなく、体位調整のための確認手段であるため、低線量で位置関係を把握し、本撮影前に微調整を行える点に意義がある。
一方で、プレショットを全ての撮影に適用した場合、従来再撮影が不要であった患者にとってはプレショット1回分の追加被ばくが生じる可能性がある。この点については、患者個人レベルでの被ばく増加につながる可能性があるため慎重な運用が必要であると考えられる。しかし、本研究におけるプレショットの活用は全ての撮影に一律に適用することを想定したものではなく、再撮影率の高い撮影部位や、関節変形などによりポジショニングが困難な症例、あるいは経験年数の浅い技師が担当する撮影など、再撮影が発生する可能性が高い状況に限定して使用することを想定している。このような条件下では、患者の総被ばく線量の低減に寄与する可能性がある。加えて、本研究ではプレショットの照射野を診断に必要な最小範囲に限定して評価しており、膝関節側面撮影においてプレショット1回あたりの線量は通常撮影線量の約3%程度と推定された。したがって、仮にプレショットを実施した場合でも、通常撮影と同等の照射野を用いた場合に想定される約10%の線量増加には至らず、患者への追加被ばくは限定的であると考えられる。
以上より、プレショットは適切な対象と条件を選択した上で運用することで、患者個人レベルにおいても被ばく低減に寄与する可能性があると考えられる。
しかしながら、本研究の限界の一つとして、本研究はシミュレーションによる検討であり、実際の臨床撮影における線量測定や再撮影率の変化を直接評価したものではない点が挙げられる。
自院データを用いたシミュレーションおよび先行研究との比較から、プレショットは再撮影に伴う被ばく線量低減に有用である可能性が示された。特に照射野を最適化することで、線量低減効果を大きく高められると考えられる。
今後は実臨床におけるプレショット導入による被ばく線量および再撮影率への影響を検証する必要がある。
本論文に内容に関する著者の利益相反なし



