抄録
歯科矯正臨床において広く用いられているNi-Ti合金アーチワイヤーの特性を明らかにする目的で,20種の市販ワイヤーについて,曲げ特性および熱量変化を定量的に検討した。その結果,2点支持中央荷重法の抗曲試験による荷重-たわみ曲線に著しい相違を認めた。超弾性を発揮したワイヤーでは,除荷過程において荷重の変化が小さい領域が認められたのに対し,荷重とたわみが比例的に変化し,良好なスプリング特性しか認められないワイヤーも存在した。示差走査熱量計によって熱量変化の測定を行った結果,いくつかのワイヤーでは,体温で超弾性を発揮するためには変態点が不適切であった。さらに,熱量変化は超弾性と密接に関連している知見を得た。すなわち,超弾性を示すワイヤーのDSC曲線には明瞭な熱量変化のピークが存在したのに対し,超弾性を示さないワイヤーではピークが認められなかった。