抄録
機能性タンパク質を表面に化学修飾したインプラント用NiTi合金の耐食性を生理食塩水中ならびに細胞培養液中で評価した.アミノシランとグルタルアルデヒドを架橋剤として用い,ヒト血漿フィブロネクチン(pFN)を表面に固定化した試料のアノード分極挙動と腐食速度を電気化学的手法を用いて調べた.また,NiTi合金上に生成した酸化物被膜の組成,厚さ,ならびに表面に吸着したタンパク質をX線光電子分析装置を用いて調べた.不働態保持電流密度は,血清タンパク質の存在により増大した.これは,血清タンパク質が合金表面に速やかに吸着し,金属イオン・タンパク質複合体を形成して溶液中に拡散することにより,酸化物被膜の溶解速度が増大したためと考えられる.表面に化学修飾を施した試料の腐食速度は,いずれの溶液中においても,研磨状態の試料と比較して約1/2に減少することが明らかとなった.合金表面に形成されたポリシロキサン層により,腐食反応に関与する溶存酸素や血清タンパク質,腐食生成物である金属イオンや金属配位化合物の拡散が抑制されたためと考えられる.本表面処理法は,合金表面に生体活性を付与すると同時に耐食性を向上させるため,バイオアクティブな金属インプラントの開発に有用と考えられる.