日本土壌肥料学雑誌
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高収性水稲の窒素吸収特性について
樋口 太重吉野 喬
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1986 年 57 巻 2 号 p. 134-141

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抄録

本実験では,高収性水稲の窒素吸収特性を普通品種との比較で明らかにするために,高収性品種として水原とアケノホシを,普通品種としてニシホマレを供試し,無肥料区と施肥区の水稲の窒素含有率,窒素の吸収経過,窒素吸収量などを調べた。なお,施肥区の吸収窒素は,重窒素トレーサー法により基肥窒素と追肥窒素とに分けて追跡した。結果の概要はつぎのとおりである。1)地上部の乾物生産は,ニシホマレでは分けつ期から幼穂形成期,アケノホシでは幼穂形成期から出穂期,水原では幼穂形成期から収穫期において盛んであった。施肥区の収穫期における地上部乾物重は,水原,アケノホシ,ニシホマレの順に前者ほど多かった。無肥料区の地上部乾物重は施肥区よりいずれも少ないが,その順位は施肥区とほぼ同じであった。2)水稲生育時期別の茎葉窒素含有率は,無肥料区より施肥区で高いが,分けつ期を除いて高収性品種と普通品種との間で大差が認められなかった。3)施肥区における吸収窒素の増加量を品種間で比較すれば,分けつ期から幼穂形成期までは水原>ニシホマレ>アケノホシ,幼穂形成期から出穂期までは水原=アケノホシ>ニシホマレ,出穂期から収穫期までは水原>ニシホマレ>アケノホシであった。収穫期における窒素吸収量は,1m^2当たり水原で22.6g,アケノホシで16.3g,ニシホマレで15.5gであり,とくに高収量の水原は多量の窒素を吸収した。4)無肥料区の水稲の窒素吸収量は水原が最大であり,つづいてニシホマレ,アケノホシの順であった。5)収穫期における吸収窒素の穂への移行は,水原でもっとも大きいことが無肥料区と施肥区で確かめられた。6)窒素由来別の吸収量を品種間で比べると,基肥窒素は水原でもっとも多く,つづいてアケノホシ,ニシホマレであった。なお,上記吸収量の順位は基肥窒素施用量のそれと一致した。追肥窒素の施用量が等量である場合,その吸収量は,品種によってあまり変わらなかった。一方,土壌窒素の吸収量は,窒素施用量の多い水原で最高値が示された。7)しかし,収穫期の窒素由来別の吸収割合は,基肥窒素が19〜24%,追肥窒素が13〜21%,土壌窒素が60〜63%の範囲にあって,品種および窒素施用量の差異によって大きく変動しなかった。8)窒素由来別の吸収経路を通覧すれば,基肥窒素は幼穂形成期までに,追肥窒素は出穂前10日ないし出穂期までに大部分吸収された。しかし,土壌窒素の吸収経過は,施用窒素よりも緩やかであり,かつ持続的であった。とくに水原とアケノホシでは,土壌窒素の吸収は生育後期まで衰えなかった。9)水稲による基肥と追肥窒素の利用率は,それぞれ36.4〜38.8,33.3〜55%の範囲にあった。10)単位面積当たりの精もみ重は,水原>アケノホシ>ニシホマレであるが,単位精もみ重当たりの窒素吸収量は,3品種ともほぼ同等であった。11)以上の結果を結合すれば,水原で代表されるように,高収性品種の窒素吸収特性は,土壌窒素に対する強い吸収力と施用窒素に対する高い反応性にあると結論された。

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© 1986 一般社団法人日本土壌肥料学会
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