日本土壌肥料学雑誌
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銅と亜鉛の複合毒性が水稲の生育に及ぼす影響
日野 和裕平野 隆生高橋 英一
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1987 年 58 巻 2 号 p. 172-179

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抄録

土壌の重金属汚染の問題では最もよく現れる銅と亜鉛の二つの重金属について, これらが共存するときの毒性の相互作用を, 水稲の稚苗を使用した水耕試験と収穫期までの土耕試験で検討した. 水耕では, 硫酸銅あるいは硫酸亜鉛それぞれ単用では対照区のおおよそ90%から10%の相対値を示す培養液中の濃度範囲のなかで, 銅・亜鉛それぞれ無添加区を含めて5水準(銅は0, 2, 3, 5, 8μM, 亜鉛は0, 125, 250, 500, 1000μM)を選んだ. これらの水準の全組合せ25試験区の培養液で, は種して9日後の稚苗を, 週に一度培養液を交換して5週間栽培し, 乾物重および最後の1週間の培養液の吸収量を求めて検討した. 土耕では水耕と同様にして,銅・亜鉛それぞれ4水準(銅は0, 100, 200, 300ppm/風乾土, 亜鉛は0, 200, 400, 600ppm/風乾土)を選びそれらの全組合せ16試験区で, 収穫期まで栽培を行った途中2回の生育調査と収穫のときの最終調査で得られた結果について検討を加えた. 1. 水耕と土耕で得られた結果について, 実験計画法の2要因配置分散分析を行ったところ, 土耕試験の最終調査のデータを除いて, すべて銅と亜鉛の交互作用効果が1%以下の危険率で有意であることが認められた. 2. 水耕と土耕で得られた結果を, それぞれ銅あるいは亜鉛を基準として, 縦軸に対照を100とした各試験区の相対値, 横軸に基準とした元素の対数で表示した濃度を取って図示すると, 以下に示すような同様な傾向がみられた.すなわち, 水耕で5本, 土耕で4本の応答曲線が示す形は, 横軸の銅あるいは亜鉛濃度が低いときには, 右下がりにお互いに平衡であるが, 横軸の濃度が高くなると1点に収束するように集まってきた. 3. 2で述べた形が示すものが, 1で述べた結果と対応し, 認められた交互作用効果は, きっ抗作用であると考えられた. また, 土耕試験の最終調査の結果は相加作用であると考えられた. 4. 水耕試験,土耕試験においてそれぞれ銅,亜鉛とも低濃度の組合せのデータから, それぞれ単独では生育障害を引き起こすことはないような低濃度の組合せでは, 少なくとも相乗作用ではないことが推察された.

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© 1987 一般社団法人日本土壌肥料学会
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