ダイズ作後のコムギ作では,倒伏を回避するために窒素施肥量をイネ作後より減らす必要がある。ダイズ作後の適正な施肥量の推定には跡地土壌の分析が有効であるが,二毛作ではコムギの播種直前までダイズ残渣が地表に存在し,その影響を反映できない。そこで,跡地土壌による影響とは別にダイズ残渣の影響を把握するため,前作の違いとダイズ残渣の有無による後作コムギの窒素吸収量を比較した。さらに,この結果を解析するため,ダイズ残渣の経時的な分解と窒素動態,またダイズの作付前後における土壌の可給態窒素量の変化についても調べた。その結果,ダイズ残渣の分解によって,コムギの生育前半に土壌の窒素が有機化された後,生育後半にこれらが無機化されて,コムギの窒素含有率が上昇する傾向がみられた。しかし,ダイズ残渣の有無は後作コムギの窒素吸収量に影響せず,イネ作後よりダイズ作後で跡地土壌の可給態窒素と後作コムギの窒素吸収量が多かったため,ダイズ残渣の影響は跡地土壌の影響に比べて小さいと考えられる。したがって,二毛作のダイズ作後のコムギ作では,残渣の影響を反映しない跡地土壌の分析に基づいても,後作コムギの適正な基肥量をある程度推定できると考えられる。しかし,残渣はコムギの生育後半の窒素吸収を高めるので,これに相当する窒素量を追肥から減らせると推測される。