日本土壌肥料学雑誌
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乳牛ふん尿スラリー施用による土壌団粒形成メカニズム : スラリーの物理性と腐植物質組成が有機・無機複合体の形成に及ぼす影響
保井 聖一筒木 潔明石 憲宗木村 義彰
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2005 年 76 巻 3 号 p. 277-284

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抄録

細粒質褐色低地土を充填したポット土壌に発酵過程の異なる3種スラリー(消化液,曝気処理液,未処理液)を施用し,化学肥料区,堆肥区と土壌団粒組成を比較した。その結果,スラリー施用によりマクロ団粒の形成が増加し,その量は消化液区>曝気処理液区>未処理液区>堆肥区≒化学肥料区の順であった。また,マクロ団粒を粒径分画したところ,スラリー施用区では有機・無機複合体(<53μm)に有機物が集積し,それに伴いマクロ団粒(>250μm)の形成量が増加したことが推測された。本研究では,ポット試験に施用したスラリーの固形粒の粒径分画試験,粘性特性試験,土壌浸透試験を実施し,その物理的特徴を明らかにした。また,スラリー施用土壌において,マクロ団粒を構成する有機・無機複合体から腐植物質を抽出し,その化学的特徴から腐植物質の由来を推定した。さらに,これらの結果から,乳牛ふん尿スラリー施用による団粒形成メカニズムを考察した。スラリーに含まれる固形物は,>500μmの粗大画分が少なく,逆に<53μmの微細画分の割合が高かった。微細画分の割合は,消化液>曝気処理液>未処理液>堆肥の順に高かった。また,スラリーの流動性および土壌への浸透率は,消化液≒曝気処理液>未処理液の順に高かった。マクロ団粒を構成する有機・無機複合体から抽出した腐植酸は,原土(<53μm),化学肥料区および堆肥区でA型を示した。一方,スラリーおよび堆肥から抽出した腐植酸は,いずれもRp型を示した。さらに,消化液区,曝気処理液区および未処理液区はB型を示し,化学肥料区に比べ,腐植酸の腐植化度が低下していた。これらの有機・無機複合体から抽出した腐植酸およびPVP吸着フルボ酸のFT-IRスペクトルから,スラリー施用区では有機・無機複合体にスラリー由来の未熟な腐植酸が集積していることが推定された。以上の結果から,乳牛ふん尿スラリーの施用により,スラリー中の腐植物質と土壌粒子が結合して有機・無機複合体の形成を促進させ,その結果マクロ団粒が多く形成されたと推定された。また,マクロ団粒の形成はスラリーの物理性に影響を受け,発酵処理されたスラリーほどマクロ団粒の形成量が多くなることを明らかにした。したがって,乳牛ふん尿スラリーは,堆きゅう肥と同様に土壌改良資材として有効であることが示された。

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© 2005 一般社団法人日本土壌肥料学会
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