日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
水稲の不耕起乾田直播栽培が温室効果ガス発生に及ぼす影響 : (第5報)水田から発生するメタン,亜酸化窒素および二酸化炭素の年間発生量と水田土壌への炭素貯留
石橋 英二山本 章吾赤井 直彦岩田 徹鶴田 治雄
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 80 巻 2 号 p. 123-135

詳細
抄録

水田の栽培様式の違いとCH_4,N_2O,CO_2発生の関係を明らかにするために,岡山県赤磐市の不耕起直播栽培の継続田2圃場(AとB),耕起直播転換田,耕起移植継続田及び不耕起直播栽培から耕起移植栽培へ転換した耕起移植転換田の計5圃場を供試して調査した.1.CH_4及びN_2Oフラックスを年間を通して調査したところ,CH_4は湛水期間中に主に発生し,N_2Oは落水期間中に発生するというトレードオフの関係にあった.CH_4とN_2O発生量総量に対するN_2O発生量の割合は,耕起移植継続田で1.8%弱であったが,不耕起直播田では9%,耕起直播転換田で7.3%であった.2.CH_4とN_2Oを二酸化炭素等価発生量に換算して合計した年間発生量は,有意ではないが不耕起直栽培を7年以上継続した場合には,3年とも不耕起直播田が多く,耕起直播転換田と耕起移植継続田では大差なかった.3.施肥窒素量に対する年間N_2O発生割合(排出係数)は,3か年平均で,耕起移植継続田が0.48%で最も小さく,不耕起直播田Aが2.5%で最も大きかった.4.非栽培期間中のCO_2フラックスは,不耕起直播田で5月頃に大きい傾向がみられた.なお,CO_2フラックス(NEE)の年間の収支は水稲栽培期間中の光合成による吸収の影響を受けて,2年間平均すると年間で303gCO_2m^<-2>y^<-1>の吸収型となった.5.稲わら還元不耕起直播栽培では表層に有機物が集積するが,それによって年間316gCO_2m^<-2>y^<-1>(0〜13cm)の炭素が水田土壌に貯留されることになると試算された.それにより,正味のCO_2発生量は不耕起直播栽培では2年間平均で268gCO_2m^<-2>y^<-1>の吸収となった.6.これらから,継続7〜9年目の不耕起直播田でのCH_4,N_2O及び正味のCO_2の合計年間発生量は,耕起移植継続田よりも約21%少なかった.7.不耕起直播栽培を継続して有機物が集積した水田を耕起直播栽培や耕起移植栽培に転換しても,耕起時及び栽培期間中に,N_2OやCH_4の発生は増えなかった.8.水田からの温室効果ガス発生を抑制する方法は,4〜5年間不耕起直播栽培を継続した後,耕起栽培に転換することがCH_4,N_2Oの発生抑制には有効で,すき込み時に土壌改良資材の補給をすることにより,環境に負荷が小さく,効率的に地力を維持できる土壌管理技術になると考えられた.

著者関連情報
© 2009 一般社団法人日本土壌肥料学会
前の記事 次の記事
feedback
Top