抄録
トマトの隔離床栽培においてリン酸過剰土壌で葉の黄化症状が発生し,葉分析の結果からマグネシウム欠乏と考えられた.土壌可給態リン酸含量およびリン酸の施肥の有無を変えて,栽培試験を行った.下位葉(2段果房直下)葉柄汁と上位葉(5段果房直下)の葉柄汁分析結果より,リン酸吸収量の増加に伴い,マグネシウムのトマト体内での移行性が低下している傾向が見られた.特に,高P区,過剰P区では栽培期間中に中位葉〜高位葉にかけてマグネシウム欠乏症が発生した.また,茎葉養分含量および地上部養分吸収量の結果より,リン酸吸収量の増加に伴いマグネシウム吸収量自体が抑制されていた.より精密に検討するためにポット試験を行った結果,トマトのリン酸吸収量とマグネシウムおよびカルシウム吸収量との間には有意な負の相関があり,反対にカリウムおよびナトリウム吸収量とは有意な正の相関があった.従って,トマトのリン酸吸収の際の随伴イオンとしてマグネシウムは選択性が高くなく,過剰にリン酸が吸収される際は吸収量が低下する可能性がある.以上の結果よりリン酸過剰土壌(可給態リン酸含量(トルオーグ法)3000mg-P_2O_5kg^<-1>程度)ではトマトのリン酸吸収量が増加し,作型や栽培体系によってはマグネシウムなどの吸収が抑制され,またそれらの体内移行性が低下する.その結果,栄養診断や土壌診断の結果が適切に反映されなくなることも考えられる.今後は,特に施設栽培においてリン酸過剰が作物の養分吸収に及ぼす影響を解明していく必要がある.