抄録
アスペルガー障害は従来の刑事司法ではあまり知られてこなかった。しかし、近年アスペルガー障害を有するとされる被告人に対する量刑は学術的に見ても社会的に見ても広い関心を集めている。このような状況を背景に本研究は、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人と、そうでない被告人ではどちらがより重い量刑を求められるのか、および(b)被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断はどのような要因によって媒介されるのかを探索することを目的とした。分析の結果、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人はそうでない被告人よりもより軽い量刑が求められることが示された。また、(b)再犯可能性、社会秩序への脅威、非難、責任を媒介変数とした媒介分析を行ったところ、傷害致死罪条件における社会秩序への脅威のみが被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断を有意に媒介することが示された。以上の結果が得られた理由およびその実践上の示唆を論じた。