日本土壌肥料学雑誌
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見かけの塩吸収によるアロフェン質黒ボク土下層土の硝酸イオン吸着と移動遅延
田村 和杏中原 治田中 正一加藤 英孝長谷川 周一
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2011 年 82 巻 2 号 p. 114-122

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抄録

北海道を中心に採取した9種の黒ボク土下層土を用いて,NO_3^-吸着およびそれに伴う他のイオンの吸着・脱着収支を測定した。溶液中NO_3^-濃度0〜14mmol L^<-1> (0〜196mgNO_3-N L^<-1>)の範囲では,供試したすべての土壌において,NO_3^-吸着は,等量の陽イオン吸着量増加を伴う「見かけの塩吸収」,すなわち,陽イオン吸着によるH^+生成2SiOH+Ca^<2+>=(SiO^-)_2・Ca^<2+>+2H^+で生じた新しい陰イオン吸着基2AlOH+2H^+=2AlOH_2^+へのイオン吸着(Wada,1984)として起きていた.予め土壌に吸着していたSO_4^<2->とのイオン交換はNO_3^-吸着に一切関与していなかった.NO_3^-吸着量は平衡溶液のNO_3^-濃度とほぼ正比例の関係を示し,分配係数が一定の線形吸着で記述できた.得られた分配係数の値から,黒ボク土下層土ではNO_3^-の2.5〜7割程度が固相に吸着して存在していると推定された.次いで,これらの土壌を用いたカラム試験によってNO_3^-流出濃度曲線を求めた.NO_3^-吸着実験で得られた分配係数の高い土壌ほど,水移動に対するNO_3^-流出の遅延の程度が大きくなった.NO_3^-流出濃度曲線に移流分散式の解析解を適用して求めた遅延係数は,分配係数をもとに推定した遅延係数とほぼ一致した.得られた遅延係数の値から,黒ボク土下層土では,水が1m移動する時にNO_3^-は0.8mから0.3m程度しか移動しないと見積もられた.以上の結果から,選択流が生じなげれば,NO_3^-吸着の分配係数を用いることで,黒ボク土下層土のNO_3^-移動の吸着による遅延を予測できると結論された.

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© 2011 一般社団法人日本土壌肥料学会
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