2019 年 90 巻 2 号 p. 107-115
近年,粗飼料の評価手法である酸性デタージェント(AD)分析法を家畜ふん堆肥等の有機質資材に適用し,土壌中での分解や窒素無機化の予測に役立てようとする研究が進められてきた.AD可溶有機態窒素(ADSON)は,界面活性剤を含む硫酸溶液によって分解される有機態窒素成分であり,その含量は土壌培養において生成する無機態窒素量と高い正の相関が報告されている.有機質資材の質と多様な農地環境における土壌施用後の窒素無機化との関係解明を目指し,本研究では九州沖縄地域を中心に家畜ふん堆肥,緑肥,作物残さ,植物油かす等の有機質資材約500点を収集し,種類ごとのADSON含量の特徴やC/N比との関係,牛ふん堆肥や豚ぷん堆肥ではADSON含量と堆肥の製造条件との関係を調査した.ADSON含量は植物油かすや魚かすで高く,家畜ふん堆肥やイネ科緑肥の一部,ソバや大豆の茎葉,ソルガム等飼料作物の刈り株,もみがらで低かった.一般にC/N比の低い資材は窒素無機化が速いとされるが,これに反し,鶏ふん堆肥の一部やカニガラ等,C/N比が小さいにもかかわらずADSON含量の低い資材が存在した.緑肥等の植物質有機質資材では,ADSON含量とC/N比の関係を一つの曲線で近似できた.これは,ADSON含量と全窒素含量に高い正の相関があることによる.豚ぷん堆肥では主原料(家畜ふん)容積割合が高くなるほどADSON含量が高くなった.