2019 年 90 巻 2 号 p. 131-137
2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム(RCs)汚染の影響を受けた農地の水稲生産においては,カリウムを含む肥料資材を通常より上乗せして施用することにより水稲のRCs吸収を抑制する対策が広く講じられてきた.今後の対策の必要性を適切に判断するため,土壌の潜在的なRCs移行リスクを評価できる技術が求められている.
著者は前稿において,福島県内の水田の多地点調査データの解析により,玄米中137Cs濃度を土壌化学性に基づいて推定する統計モデルを得た.本稿では,RCs吸収抑制対策継続の必要性の判断を支援するためにモデルを応用する方法について検討した.
土壌中交換性RCs濃度を複数段階想定して,モデルにより任意の交換性カリウム含量における玄米中RCs濃度の上側予測区間を推定した.この上側予測区間の上端に基づいて,玄米中RCs濃度の基準値の超過を回避するために必要となる土壌中交換性カリウム含量の必要量を求めた.
その結果,推定した必要量は,前提条件とした交換性RCs濃度により大きく異なった.これは,前稿で示した,玄米中RCs濃度に対する交換性RCsの影響力が交換性カリ含量と同程度であることに対応していた.
以上より,土壌中交換性RCsの地理的分布を明らかにした上でモデルを応用することで,土壌条件に応じたリスク管理と対策を提示できることが期待される.