2021 年 92 巻 6 号 p. 447-458
大麦作で低収となる湿害の要因解明のため,滞水して生育等が悪かった湿潤圃と,滞水しないが湿害の発生を図るため灌水した灌水圃と,灌水しない非灌水圃において,大麦を栽培し,湿害に関係すると考えられた含水率,酸素濃度,酸化還元電位(Eh)を作土または耕盤で経時的に計測した.3年の試験で少雨等により生育差がみられない場合もあったが,大麦の収穫した地上部乾物重は湿潤圃<灌水圃≦非灌水圃という傾向で,湿潤圃は他と比べて低かった.含水率は,通常,作土が耕盤より低いが,降水後は作土でより高まり,作土が耕盤よりも高くなる場合もあった.酸素濃度は,降水後で低く,作土よりも耕盤でその傾向が強く,0に至る場合もあった.一方,降水が少ない場合,1月が最も高く,5月が最も低く,温度に依存する飽和溶存酸素濃度を反映していた.Ehも降水後に低く,作土よりも耕盤でその傾向が強く,また条間よりも株元で低い傾向があった.降水が少ない場合,時期による差異は小さかったが,降水による低下は3月以降で大きく,5月には−0.1 Vまで下がる場合もあり,中には一時的に−0.2 Vまで下がる計測地点もあった.以上から,暖地の滞水しやすい圃場では,3月以降の暖かい時期に降水等によって湿潤条件が続くと,土壌における酸素濃度とEhが著しく低下することが確認され,これらの著しい低下が湿害の発生に関わっていることが推察された.