2022 年 93 巻 3 号 p. 108-120
包括的土壌分類第1次試案による縮尺5万分の1農耕地土壌図(包括農耕地土壌図)は1959~1978年の地力保全基本調査事業の調査結果に基づいており,現在の土地利用状況や最近の調査結果が反映されていない.特に日本の水田地帯に広く分布するグライ低地土群は,近年の乾田化の進行により地下水グライ層の出現位置が低下し,それゆえ全国的に分布面積が減少している可能性がある.本研究では12道県(北海道,青森,岩手,秋田,茨城,千葉,新潟,愛知,滋賀,兵庫,長崎,鹿児島)の水田地帯を対象に計1,474地点の簡易土壌断面調査を実施し,包括農耕地土壌図と現在の調査結果を比較して土壌種がどのように異なっているのか,土地利用および地形区分に着目して解析した.調査の結果,グライ低地土群の存在割合は約7割から約4割に減少したのに対し,灰色低地土群は約1割から約3割に増加した.特に田畑輪換や畑地転換を行う地点では水稲単作の地点よりも,土壌表面から50 cm以内に地下水グライ層が出現する土壌群がより減少する傾向が認められた.一方,地形区分別では土地利用別のような一定の傾向が認められなかった.このことから,広域的に乾田化が進行して地下水グライ層の出現位置が深くなり,グライ低地土群から灰色低地土群等へ変化していることが推察された.また,現在の土地利用状況が乾田化の程度を規定する重要な要因の一つであることが示唆された.