日本土壌肥料学雑誌
Online ISSN : 2424-0583
Print ISSN : 0029-0610
93 巻, 3 号
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報文
  • 保井 聖一, 品川 浩一, 廣永 行亮, 木村 義彰, 日向 貴久, 長田 隆
    2022 年 93 巻 3 号 p. 97-107
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    麦稈による乳牛ふん尿の水分調整が温室効果ガス排出量に及ぼす影響を検証するために,北海道農家慣行の実規模無通気堆積法に基づく堆肥化試験を実施した.試験区は,高水分区(水分82.3%,容積重888 kg m−3),中水分区(79.1%,796 kg m−3)および低水分区(75.9%,679 kg m−3)の計3試験区とし,111日間の堆肥化過程における温室効果ガス発生量および堆肥温度を測定した.堆肥の最高温度は高水分区44.7°C, 中水分区71.9°C, 低水分区71.1°Cであり,堆肥化期間全体ではおおむね低水分区,中水分区,高水分区の順に高く推移した.堆肥の腐熟度は,高水分区は未熟に近い状態,低水分区は完熟に近い状態であり,中水分区は両者の中間であった.高水分区は嫌気的部分が多い状態で経過したのに対し,低水分区においては膨軟で好気的な状態で堆肥化が進んだと考えられた.

    メタンおよび一酸化二窒素の積算発生量は,低<高<中水分区の順に低く,麦稈を多量に混合することが温室効果ガスの発生を大幅に抑制することが示された.CO2等価ガス累積排出量は,高水分区が572 kg-CO2eq,中水分区が850 kg-CO2eq,低水分区が518 kg-CO2eqであり,低水分区は高水分区,中水分区に比べ,それぞれ9.4%,39.1%削減された.

    以上のことから,乳牛ふん尿に麦稈を積極的に混合し,原料を堆肥化適正水分に調整かつ膨軟化して発酵を促進する堆肥化技術は,酪農現場からの温室効果ガスの発生量の削減に寄与できることが示された.

  • 伊勢 裕太, 神田 隆志, 前島 勇治, 八木 哲生, 髙橋 良学, 中川 進平, 岩佐 博邦, 本間 利光, 大橋 祥範, 小松 茂雄, ...
    2022 年 93 巻 3 号 p. 108-120
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    包括的土壌分類第1次試案による縮尺5万分の1農耕地土壌図(包括農耕地土壌図)は1959~1978年の地力保全基本調査事業の調査結果に基づいており,現在の土地利用状況や最近の調査結果が反映されていない.特に日本の水田地帯に広く分布するグライ低地土群は,近年の乾田化の進行により地下水グライ層の出現位置が低下し,それゆえ全国的に分布面積が減少している可能性がある.本研究では12道県(北海道,青森,岩手,秋田,茨城,千葉,新潟,愛知,滋賀,兵庫,長崎,鹿児島)の水田地帯を対象に計1,474地点の簡易土壌断面調査を実施し,包括農耕地土壌図と現在の調査結果を比較して土壌種がどのように異なっているのか,土地利用および地形区分に着目して解析した.調査の結果,グライ低地土群の存在割合は約7割から約4割に減少したのに対し,灰色低地土群は約1割から約3割に増加した.特に田畑輪換や畑地転換を行う地点では水稲単作の地点よりも,土壌表面から50 cm以内に地下水グライ層が出現する土壌群がより減少する傾向が認められた.一方,地形区分別では土地利用別のような一定の傾向が認められなかった.このことから,広域的に乾田化が進行して地下水グライ層の出現位置が深くなり,グライ低地土群から灰色低地土群等へ変化していることが推察された.また,現在の土地利用状況が乾田化の程度を規定する重要な要因の一つであることが示唆された.

  • 小野寺 政行, 中辻 敏朗, 広田 知良
    2022 年 93 巻 3 号 p. 121-130
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    北海道オホーツク地域のタマネギ畑において,冬季の土壌凍結深制御が窒素溶脱抑制および土壌物理性改善を介してタマネギの生産性向上に寄与することを明らかにした.

    無制御区の土壌凍結深が10 cm程度以下と浅い年次(2016・2017年)では,最大凍結深を30 cm台または40 cm台とした制御区の融雪後の0~40 cm土層残存無機態窒素量,30~40 cm土層のpF3.0孔隙量(pF3.0の気相)および飽和透水係数は無制御区よりも大きかった.また制御区のタマネギは平均一球重が大きく,規格内収量は無制御区より1割程度多収であった.これはタマネギの主要根域(0~40 cm)の窒素供給量の増加と,通気性,保水性,透水性などの物理性改善の相乗作用による生産性向上効果を示唆している.

    このような生産性向上効果は最大凍結深23~37 cmの範囲で認められたこと,現実的な凍結深制御の精度幅が±数cmであることから,目標凍結深は30 cm程度とするのが妥当である.

    ただし,窒素肥沃度が高い圃場では,凍結促進で窒素供給が過剰となり,濃度障害による生育抑制や乾腐病・軟腐病の被害で生産性向上効果が十分に発揮されない場合があるので,本技術の導入にあたっては適正な窒素管理が前提となる.

  • 今野 智寛, 大川 茂範, 阿部 倫則, 岸田 なつみ, 島 秀之, 横島 千剛, 浅野 真澄, 佐々木 次郎
    2022 年 93 巻 3 号 p. 131-140
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    水稲(Oryza sativa L.)栽培において適正籾数に制御することは,収量と品質の確保を両立する上で重要である.宮城県の優良品種である「だて正夢」の適正籾数は30,000~34,000粒m−2であり,幼穂形成期と穂揃期の稲体窒素量を目標範囲に制御することで適正籾数を得られることが報告されている.しかし,それを実現するための具体的な施肥設計法は示されていないことから,本研究では土壌窒素肥沃度を考慮し,適正な窒素吸収量に制御して適正籾数を得るための施肥設計法を検討した.「移植から幼穂形成期までの窒素吸収量」は,「基肥窒素量」と「移植日から幼穂形成期までの有効積算温度」を説明変数とした重回帰式で,「幼穂形成期から穂揃期までの窒素吸収量」は,「追肥窒素量」と「作土中の可給態窒素量」を説明変数とした重回帰式で予測できることが明らかとなった.さらに前述した重回帰式を変換して基肥と追肥窒素量を設計するための算出式を作成した.そして,現地生産圃場の実施肥量が本算出式で求めた基肥及び追肥窒素設計量と乖離しているほど,移植から幼穂形成期までの窒素吸収量及び籾数は目標値から乖離することが示された.以上より,作成した基肥窒素量と追肥窒素量の算出式で窒素施肥量を設計することで「だて正夢」の籾数を適正籾数の範囲に制御できることが示された.

  • 金田 吉弘, 津村 芽依, 畠山 恵子, 加藤 和直, 高階 史章, 佐藤 孝
    2022 年 93 巻 3 号 p. 141-147
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    高温温室圃場において,高温登熟耐性品種の水稲根および穂温,群落の光環境などの特性を明らかにした.穂揃期における高温登熟耐性品種ふさおとめの深さ5 cm以下の水稲根はあきたこまちに比べて多かった.登熟期の高温区におけるふさおとめの出液速度は,あきたこまちに比べて有意に大きく水稲根活性が高かった.高温区におけるふさおとめの穂温は,あきたこまちに比べて有意に低かった.高温区のふさおとめの相対照度は,高さ80 cm以下30 cmまでの各高さにおいてあきたこまちに比べて有意に高い値を示した.常温区のLAIは各高さにおいて両品種間で有意な違いは認められなかった.高温区におけるふさおとめのLAIは,あきたこまちに比べて70 cm以上の最上位,60~70 cm, 50~60 cmまでの上層において有意に低下した.高温区ではふさおとめの乳白粒および基白粒の発生率があきたこまちに比べて有意に低下した.常温区,高温区の各区において収量の品種間差は認められなかった.以上のことから高温登熟耐性品種ふさおとめは,高温条件下において従来品種あきたこまちに比べて根の伸長や活性が勝り,群落上層部でのLAIの増加が少なく登熟に有利な草型を有することが明らかになった.

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