抄録
木を材料とする建築をつくり上げるための主要な道具である、斧・鋸・鑿・カンナに関し、古代・中世における発達史を調査した結果、次のように要約することができる。
(1) 伐木用の縦斧は中世に無肩袋式から無肩孔式に変化し、建築部材荒切削用の横斧は古代・中世を通して無肩袋式であったと推定される。
(2) 古代・中世における建築部材加工用の鋸の基本構造は茎式で、古代において歯道部分が内湾形状から外湾形状に変化し、中世において引き使いが一般化したと推定される。
(3) 古代における鑿は、基本構造として袋式と茎式が、刃部断面形状として両刃と片刃が、それぞれ併用されていたが、中世において茎式・片刃形状に統一されていったと推定される。
(4) 古代・中世における建築部材仕上げ切削用のカンナはヤリカンナであったが、中世において台鉋も使われはじめたと推定される。
(5) 古代・中世において伐木段階には縦斧が、部材加工段階には横斧・鋸・鑿・カンナが主として使われ続けたが、製材段階の道具は中世において大きく変化(打割用の鑿から縦挽鋸へ)したと推定される。