抄録
2013年に報告した北京故宮の修繕組織における大工道具の標準編成の適用地域を検証するため、2014年の山西省の大工道具調査に続き、2015年に甘粛省において大工道具の現地調査を実施した。
本稿は、その調査成果の報告である。永靖県出身の大工3名と敦煌市出身の大工1名及び所有道具を調査できた。主な内容は、以下の4点に要約できる。
1. 甘粛省の大工道具の編成は、北京故宮の大工道具の標準編成(54種)より種類が少なく、38〜49種であり、大工によって異なる。ただし、山西省と同様に、鋸、鉋、鑿といった主要な大工道具は含まれている。
2. 甘粛省は、東西1600km余りの広域に渡るものの、大工道具の地域差はほとんどない。永靖県の大工が省内の文化財修理工事を多く請け負うため、甘粛省大工の現状を代表するものと考える。
3. 山西省と同様に北京故宮でみられた大・小木作の分業ははっきりしない。道具の運びやすさの重視と作業における道具の兼用という地方大工の特徴がみられた。
4. 甘粛省の大工の多くは、彫刻の道具を所有しており、扉と窓のような建具や家具などの造作を含む一般の家屋の造営で生計を立てている。これは、甘粛省の木造建築の文化財自体が少ないことに起因すると考えられる。