抄録
近·現代の熟練した大工は、建築工事において5種類9点の刀子系道具を使用していたと考えられる。
では、近世の建築用刀子系道具には、どういう種類があったのだろうか。近世の諸資料を調査した結果、次のように要約することができる。
(1)近世の建築用刀子系道具は、切削用、板割用、溝削用に分類でき、少なくとも6種類12点のものが使われていた。
(2) 近世における建築用刀子系道具の名称が、近·現代にも継承されていた。
(3) 建築用刀子の刃部は、18世紀後半から19世紀前半頃、外湾形状から直線形状に変化したと推定した。
(4) 建築用刀子には「大中小」の区分があり、「大」が6寸くらい、「小」が3寸くらいであったと推定した。
(5) 建築用刀子系道具は、16~17世紀頃に、建築生産面での変化を背景として、装着形式の分化があったと推定した。