抄録
ヨーロッパ・中国の鋸は推して使用するが、日本の鋸は引いて使用する。日本において、現在見られる引き使いの鋸をいつ頃から使用し始めたか、実物資料(出土品・伝世品)と絵画資料における鋸の形態や使用場面を調査した結果、次のように要約できる。
① 鋸身の形状が、短冊型から古墳時代後期に柄を装着するための茎を持つ型へと変化し
た。
② 古墳時代には、小型であった鋸が8~10世紀頃から大型化した。
③ 鋸歯が推し引き両用の素歯または箱屋目から、15世紀頃に横挽鋸はイバラ目、縦挽鋸はガガリ目の引き使いの鋸歯に変化した。
④ 実物資料からは、推す・引くの明確な区別が現れたのは、15世紀頃と考えられる。
⑤ 部材加工の作業姿勢としては、座位から次第に立位への変化が19世紀頃に見られた。
⑥ 製材作業については、絵巻物に描かれるようになった頃から、ほとんど立位である。
⑦ 鋸の持ち方は基本的には両手で挽いているが、小さい部材については片手で加工している場面も見られた。
⑧ 鋸の使用法は、17世紀以降の絵画資料で引き使いが確認できる。