竹中大工道具館研究紀要
Online ISSN : 2436-1453
Print ISSN : 0915-3683
ヤリカンナについて
沖本 弘
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1997 年 9 巻 p. 69-98

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抄録
日本では、ヤリカンナという表面削り仕上げする道具が古代、中世、近世にかけて使われてきた。しかし、今日では儀式道具などで目にする程度で、台鉋の出現により過去の道具となっている。過去の加工技術の把握の一環として、表面削り仕上げする道具の言葉、文字を古辞書から整理し、ヤリカンナの形について絵画資料を中心に調べた。また、数少ない実物資料と併せて、形との対比を行なった。ヤリ型の削り道具には主に平面を作り出す形の道具(Sタイプ)と曲面を滑らかに仕上げるヤリ型の削り道具(Wタイプ)が存在した。Sタイプは全長に木柄の占める部分が大きい木柄系と木柄が短く刃先部に続く鉄軸部が長くなる鉄柄系に分けられる。鉄柄系は16世紀末頃から笹刃状の刃先から、剣先状の刃先になり、握りに相当する軸部の位置に節が形成される。この節部は残された実物資料、儀式道具に見られる。木柄系は中世の絵画資料でも2例と少ない。一言でヤリカンナと呼ばれる道具も、直平面、曲面を仕上げる、深い切り込みや溝型を削るといった意味で多機能な道具であった。固定した単一の形でなく用途に応じて形も変化したようで、言葉にもその変化が見られる。
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© 1997 公益財団法人竹中大工道具館
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