2015 年 333 巻 p. 3-
本稿は、江戸中期の儒学者・蟹養斎(1705~78)の初学教育論を考察したものである。養斎は、朱子学の初学教育書『小学』を実際の教育課程に組み込んだことで知られる儒者であった。しかし『小学』学習にどのような成果を養斎が期待したかという点は、これまで全く言及されてはこなかった。そこで本稿では、『小学』が次の学習段階へどのように接続されるのか、養斎がその理論化を試みていたことを見た。『小学』の理論化によって養斎が目指したところとは儒学を知らない初学者に向けて、如何なる過程を経て学問成就が果たさせるのかの説明を試みる点にあった。以上のことからは、より多くの人々へと儒学が広まってゆく「大衆化」の時代を前にして、儒学が〈誰にでも開かれている学問〉であることを言い表そうと養斎が試みたことを窺い知ることが出来るのである。