抄録
富山湾の水深321mから汲み上げた海洋深層水を利用して, エゾァワビ, マッカワ, マコンブの順に飼育する多段養殖システムの開発研究を行った.このシステムのなかで, 栄養塩 (アンモニウム塩, 硝酸塩+亜硝酸塩及びリン酸塩) 濃度の日周変動と収支を調べた.エゾアワビは, 屋内水槽 (60 l 容量×2基) に260個体, 6.19kgを収容し, 18℃ に加温した深層水を用いて飼育した.この排水を屋内水槽 (400 e 容量) に注水し, マッカワ30個体, 21.0 kgを飼育した.さらに, マッカワを飼育した排水を屋外水槽 (3600 l 容量) に注水し, マコンブ600藻体, 55.8kgを培養した.マッカワ水槽とマコンブ水槽には, 深層水原水 (3℃) を混ぜることによってそれぞれ14℃ 及び10℃ に調温した.エゾアワビには, マコンブ水槽で培養したマコンブを剪定し, 16: 00に1水槽あたり450gを給餌した.マッカワには, 9: 30に配合餌料95gを給餌した.2004年8月25日にそれぞれの水槽の注水と排水の栄養塩濃度を毎時測定し, 水槽ごとの栄養塩収支を求あた.その結果, エゾアワビ水槽とマッカワ水槽において栄養塩の排出が, マコンブ水槽において吸収が確認された.このシステムにおける栄養塩濃度には2っの特徴が確認された.すなわち,(1) マッカワ水槽排水におけるアンモニウム塩濃度の上昇とマコンブ水槽による吸収 (水槽段階による変化),(2) エゾアワビ水槽におけるマコンブ給餌後の硝酸塩+亜硝酸塩とリン酸塩濃度の上昇 (日周変動) であった.マコンブの栄養塩吸収割合を給水と排水の栄養塩濃度差から算出したところ, 供給量のうちアンモニウム塩, 硝酸塩+亜硝酸塩及びリン酸塩をそれぞれ, 38%, 6%及び12%吸収していた.マコンブによる栄養塩吸収割合が低かったことから, マコンブ培養量を増加させることによって, さらに栄養塩を効率良く利用できるシステムの構築が可能であることが示唆された.